満月の日 夜間
「さて、そろそろ始めますね」
夜、私は敷地内にある湖に来ていた。
カイルくん達やルディさん達は、すでに配置についているようで姿が見えない。今は私一人ということになる。
じゃあ誰に向かって最初の言葉を言ったのか、という疑問が湧くでしょうがご安心を、一人でしゃべっているわけではありません。私が力を使って、皆の意思を繋げているので離れていても会話が成立するのです。
「全員配置につきました。いつでもどうぞ」
「了解しました」
さ、始めましょう。
私は、湖に入って湖の真ん中まで進み歩みを止める。そして、祈るように胸のあたりで手を組む。
「さぁ、出ておいで…。痛みも悲しみもすべて、私が癒してあげる」
私の周りには小さな淡い光の玉が、いろいろな色で現れる。怒りを表す者、悲しみを表す者…さまざまな思いを抱いて亡くなった人達の魂だ。
さぁ…その思いはすべて私が受け止めるから、安らかに眠って…。
「♪~~」
その魂を思いながら、鎮魂歌を私は歌う。
“苦しい…。”
“痛い!誰か、助けてくれ”
“寂しいよ”
様々な人の思いが、私の中に流れ込んで来る。
私の目からは、無意識に涙が出てくる。次々と溢れるそれは、止まることなく私の頬を濡らす。
大丈夫、もう苦しむ必要はないですよ。
「♪~」
さらに歌う…。すると…。
「うわっ!なんだあれ」
カイルくんの声?私は歌を歌いながら、意思で話しかける。
「何かあったの?カイルくん」
「狼、にしては少し大きいやつがこっちに向かって来てます!」
やっぱり来たのか。よく飽きもせずに来るなぁ。
そいつは、満月の日の私の力を狙って毎回現れるのだ。でもそこまで強いわけでもないから、そんなに大変じゃないんだけど…。とりあえず、もう少ししたら終わるし。
「そのまま、何もせずに見ていてね。下手に手を出すと大変だから」
「大丈夫なんですか?」
「うん、もうすぐ終わるよ」
光の玉がすべて、消えたのを見届けて歌うのを止めた。その瞬間、湖の周りを霊やさっきカイルくんが言ってた狼が取り囲む。
「全くもう…少しは休ませてよね」
そう言いながら、私は集中する。すると、私の左側の後ろの方の霊が倒された。
そして、そこから現れたのは…。
「ルディさん!?」