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自覚~ルーカス~

「こちらに帰ってきてからアオ様は、無茶なことはしていませんか?」


 子供達に手を引かれて、外に出ていったアオを見ながら、この孤児院のシスターだという女は聞いた。

 その言葉の意味は分からなかったが、アオに出会ってからのことを話した。


「やはり、無茶なことばかりなさっているのですね」


 そう言ったシスターは、とても寂しそうな顔で笑っていた。

 この部屋にいた、俺達は全く意味が分からずにただ困惑するしかなかったが、シスターがなぜそんなことを聞いたのか、静かに話始めた。


「私とアオ様が出会ったのは、アオ様が16の時でした。それに、私はもう少ししたら処刑される身だったのです」

「!!」


 シスター以外の全員が、驚きの表情で固まる。それを気にすることなく、シスターは話し続ける。


「今は、アオ様に私の命を捧げると、神に誓った身ですけどね」

「なぜ、と聞いても大丈夫か?」

「はい、私はスクリプト王国から南に位置するところに住む一族の娘でした。私達の一族が織る布がとても美しいと評判で、この国にもたくさんの布を買って頂いていました」

「今は、やっていないのですか?」


 たぶんこの部屋にいる者、全員が疑問に思ったことをルディが聞いた。

 シスターは、首を横に振り。


「私以外の者は、全員亡くなりました」

「どういうことだ?」

「力を持ちすぎたのです。布の取り引きで、たくさんの富を得た私の一族は、あろうことか王と同等の力があると言い出し、布の取り引きも必要最低限に抑え始めたのです。その時の族長…。私の父は、だんだん金に目が眩んでいってしまった。私や他の者は、このままではいけないと説得しましたが、聞く耳を持ってもらえず…」

「全くない、とはいいきれないな」

「どこにでもそんなのは出てくるものなんだな」


 俺と、スフィーリア王国の王子だというアンドリクス王子が言った。


「最初は、私に賛同してくれる者が多かったのです。でも、だんだんと父の方に付くものが多くなりました。最終的に、私に賛同したのは母と兄だけになりました。私達は、最終手段でスクリプト王国の国王陛下へ助けを求めました。父を始めとした私達の一族はもう駄目だと、スクリプト国王陛下は、一族を族滅にすると言いました。それを聞いて、ほっとしたのを今でも覚えています。悲しみよりも、安堵したのです…。そして、その場を立ち去ろうとしたときでした。私がアオ様に会ったのは…」


 その時のことを思い出しているのだろう。目を閉じて、まるで宝物でも持っているかのように胸のところで手を重ねていた。


「その時、なんと言われたと思いますか?」

「さぁ、なんでしょうか?」

「アオは、予想外のことをするからな」

「全くですね“貴女、勉強は得意?”て言われた時は、本当に驚きました」


 族滅を言い渡された娘に、アオはそんなことを言ったのか!?本当に、あいつの思考はどうなっているのか…。

 昔からそんな感じだったのか、と全員が思っていたと思う。


「私も、同じ感じで驚いていたんです。それが月の姫様だと、国王陛下が名前を呼んだことで分かったんです」

「でも、どうしてシスターは生き残ったの?」

「はい、その後詳しい話を聞くと孤児院の子供達に勉強を教える者を探していると言われました。ですが、私はすでに族滅を言い渡された身です。と言うと、“貴女とあとの二人は入ってないですよ?ね、お父さん”と言ったんです。私も母も兄も訳が分からずに、国王陛下を見ると陛下からも“もちろん、入ってないよ。族滅されるのは、君達以外の者だよ”と言われた時、私達は反論しました。この状況を止められなかった私達にも責任がある、と」


 娘が娘なら、その父親も父親か…。

 しかし、シスターの反論も妥当なものだ。この反論をあの親子は、どうやって説得したんだ?


「私達の態度に痺れを切らしたのか、アオ様は私の手を引き母と兄にも着いてくるように言い、外に出たのです。アオ様に連れていかれた場所は、お墓でした…」

「……誰の墓だ?」

「両親や親族がいない子供達のお墓です。そのころ、病が流行して早くに両親を亡くす子供が多く孤児院も増えてきていた時でした。ですが、まだ十分に教育などが行き届かなかったりして、犯罪に手を染めてしまう子供が多く、その子供達は大人から酷い仕打ちをされ、亡くなることが多かった。その遺体は、雑に扱われます」


 後ろ楯も何もない子供達など、相手にはしてもらえないだろう。それに、犯罪に手を染めてしまっては…。


「アオ様は、遺体を見つける度に泥や汚れを落としてやり、綺麗な服を着せて丁寧に埋葬していたのですよ。その多さに、私達3人は本当に驚きました。アオ様に言われたんです。“私は、一人でも多くの人がちゃんと天命をまっとうしてほしい、それに子供の内にその人生を終えるのはもったいないでしょ?だから、ちゃんと教育を受けさせてちゃんと人生を楽しく送れるようにしたいの。だから、協力してくれない?”って、あぁ、こういう人が治める国で過ごしてみたいと、思ったあの時から、私はアオ様に一生着いていこうと思いました」


 アオの器の大きさは、ただの王女のものではないと思ってはいたが、王になってもおかしくないくらいの器の大きさだな。そして、国のことをとても考えているんだな…。


「その後は、トントン拍子で話が進んで私達はここを任されました。母と兄はすでに亡くなってしまいましたが…」

「病か?」

「はい、元々母は身体が丈夫ではなかったですし、兄もそれを受け継いでいたようで線の細い人でしたから」

「そうか、アオは昔からそんな感じなんだろうな」


 外で、子供達と走り回っているアオを見ながら言った。


「月の姫様は、悲しみを癒すのが役目。ですが、アオ様にも癒しは必要です。子供を埋葬する時、必ず“助けてあげられなくて、ごめんね”と声をかけて埋葬するそうです。ナタリー様から聞いたんですけどね」


 この国の、ひいてはすべての国の悲しみを癒しているアオに、癒しはあるのか?支えはあるのか?

 出来ることなら、俺がそんな存在になりたいと思ったところで、俺は…。



 俺は、アオの支えになりたい。アオの悲しみを一緒に背負って生きたい、と思うぐらいアオが好きなのだと自覚した。


「ルーカス王子?どうしました?」

「顔真っ赤だよ!」

「うるさい!ほっとけば治る!」


 ルディとジミーに指摘され、ますます熱を帯びる顔を俯かせる。

 すると、ふふっと笑う声が聞こえ少しだけ顔を上げるとシスターが笑っていた。


「今、自覚されたんですね。なら、なおさら大切になさって下さいね」

「分かってる!」


 そんなこと言われずとも、分かっているさ。

 次は、間違えない。絶対に誰にも渡さないさ。


 そう決意を新たにした瞬間だった。





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