第5話 俺の新しいハーレム要員がこんなにボスなわけがない
第5話 俺の新しいハーレム要員がこんなにボスなわけがない
「なんか、コイツが親玉だったっぽいな」
俺は床で動かなくなった巨漢を見下ろした。
ギルド内は静まりかえっている。
巨漢の仲間である強盗たちは、目を見開いて動きを止めていた。
その様子からも、巨漢が奴らのボスだったことがうかがえる。
「お、お頭がやられたあ!」
「ど、どうする?」
「どうするったって……」
強盗たちは、ほどんど恐慌状態になっていた。
しかし、入り口に俺が陣取っているため、逃げるに逃げられないでいるようだった。
まあ、当然、逃がしてやる義理もない。
このまま大人しく掴まってもらおう。
一件落着だ。
いやー、あっさり終わっちゃったなー。
「……光ってるわ」
「ん?」
隣でリタおつぶやきが聞こえて、俺は視線を巨漢に戻した。
巨漢が発光していた。
まぶしい!?
白い光が視線を塗りつぶし、ムキムキの背筋が見えなくなる。
まさか爆発でもするのか!?
メガンテだろうか。アバン先生?
俺はとっさにリタに覆い被さっていた。
念のために言っておくと、幼女に目覚めたわけではなく、守るためだ。
だが懸念した衝撃はいっこうに訪れなかった。
おや?
光が収まる。
振り向くと、巨漢の姿が消えていた。
代わりに――
~
砕けた床には、少女が倒れていた。
「巨漢が美少女になった?」
俺は自分の目を疑った。
けれど、そうとしか思えない。
巨漢は上半身剥き出しだったので、少女も当然、上半身剥き出しだった。
「ま、そんなこともあるよなっ」
異世界だし。
俺はすぐに納得したが、まわりは違うようだった。
「ボ、ボス? あ、あれ?」
「なんてこった! ボスが美少女になっちまったー!」
強盗たちだ。
知らなかったのか?
と、倒れていた少女が床から上半身を起こした。
長い髪が上手いこと、見えちゃいけない部分を隠してくれる。
うむ――でっかい!
俺は思わず、隣のリタと見比べてしまった。
「……なにかしら。人の胸部をジロジロと」
俺は微笑んだ。
「期待してるぜ! なんなら、手伝うぜ!?」
親指を立ててみせる。
「な、なにをする気よ」
お? 赤くなった?
「――うう。負けたぁ……」
巨漢だった少女が床から俺を見上げてきていた。
年齢は17、8歳くらいか?
幼女ではない。
粗野な印象はあるが、美少女である。
「オヌシ、強いな!」
少女はニカッと笑った。
開いた口の端に八重歯が見える。
それから彼女は、呆然と立ち尽くしている部下たちを見回した。
「お前たち。すまねぇ、実はオレ、女だったんだ」
「「「ボ、ボス?」」」
「騙すつもりはなかった。いや、言い訳だな。オレはお前たちを騙していた……」
「「「ボス……」」」
しんみりした雰囲気が流れた。
あれか?
男でなければボスを襲名できなかったとかだろうか。
「そ、そうだ! テメェなんか、知らねぇ!」
強盗の1人が声を上げた。他の者も続く。
「そうだ! こんな可愛い子が俺たちのボスであるわけがねぇ!」
「そうだそうだ!」
「お、お前ら……くっ、そうだよな……」
ボスだった少女は悔しそうに唇を噛んだ。
と、なにやら外が騒がしくなった。
「御用だー、御用だー!」
「衛兵たちが来たようですね」
「なるほど」
リタの言葉に俺はうなずいた。
そいつらに強盗たちを引き渡せば、なにか褒美がもらえるかもしれないなー。
俺は強盗たちへ目を戻した。
すると、最初に声を上げてボスを罵っていた男が、目に涙をにじませていた。
「こんな女の子なんて知らねぇ! だから――だから! 掴まるのは俺たちだけだ! テメェは関係ねぇんだからな!」
「「「そうだ! そうだ!」」」
「っ、お、お前ら……!」
なにやら盛り上がっていた。
熱いなー。
そして強盗たちは捕まっていった。
――ボスの少女だけを残して。