第1話 最初のヒロインと出会う
第1章
第1話 最初のヒロインと出会う
んでもって、やってきました異世界。
ヤるために! やってきました!
俺は、うっそうと木々の茂った森の中にいた。
服装も異世界に合わせたものに変っている。
Tシャツにジーパンという現代風なものから、中世の人が着ているような布の服に変わっていた。
確認はできないが、顔立ちも変わっているんじゃないだろうか。
というか、あれ? 元の顔が思い出せないな……
ま、いっか!
悩んでいても仕方がない。
この先の人生は楽しむって決めたのである。
森の木々の向こうから、馬のいななきが聞こえてきた。
さっそくイベントだ!
おっと、その前に――
いったん目を閉じてステータスを確認する。
やり方はなぜか知っていて、自然とできた。
頭に中に各パラメーターのゲージが表示される。
どの値も、上限マックスを振り切れていた。
どの数値も999の文字が赤くなっている。
計測不能ということだ。
おお……!
「これが異世界転生の特典ってやつか。よし!」
俺は足に力を込め、森の中を駆けだした。
うわ!?
風になったように体が軽い。
ものすごい速さで木が後ろへと過ぎ去っていく。
時速70キロくらい出てるんじゃないか?
足を引っかけたら無事では済まない速度のはずなのに、まったく危機感はなかった。
息も乱れない。
頭の片隅にあるステータスの中でもHPのゲージはまったく減らないのが確認できた。
これなら、もっと速度を上げられる!
加速する。
自転車乗り風にいうと、回転数を上げた。
木々が開け、まぶしい光が目に飛び込んでくる。
目論見通り、街道に出た。
って、行き過ぎたーっ!
靴底を滑らせ、俺は土煙を上げながら停止した。
目撃する。20メートルほど離れた先――
予想した通り、馬車が襲われていた。
襲っているのはモンスターだ。
頭が二つある巨大な狼。頭の位置が地面から3メートルはある。
てらてらとした赤黒い毛並みをしているかと思えば……
――あれは、血の色だ。
双頭の巨狼は、全身が返り血に染まっていた。
錆びた鉄のような臭いがする。
……う。
ヤツの足下には、頭から先のない馬の胴体が転がっていた。
元は人間だったパーツも。
二つある頭の、片側の喉がゴクリと動くのが見えた。
そしてもう片方の頭が、牙のずらりと並んだ大きな顎を広げ、馬車のほろに噛みつく。
メリメリ……ッ!
ほろはあっさりと荷台からはぎ取られる。
――長い金の髪が見えた。
荷台の上にいるのは、少女だ。
ドンッ!
俺の足下で地面が爆発した。
なんのことはない。
俺が全力で地面を蹴りつけたのだ。
大地を爆発させ、巨浪の顔面に一瞬で肉薄する。
拳を固め、思い切って殴りつけた。
それで終わりだった。
原型をとどめないほどに狼の顔はへしゃげ、巨体が吹き飛んだ。
木々をなぎ倒して見えなくなる。
見えなくなったあとも、木がなぎ倒される音は続いた。
段々と遠くなり、やがて聞こえなくなる。
ふぅ……
俺は爽やかな笑顔を浮かべ、荷台にいる少女へ向き直った。
――ヘイ! ネェちゃん! 俺と一発ヤらないかい!?
そう言うためである。
だが俺の口から出たのは別の言葉だった。
「はっ、おまえ! 幼女だったのか!」
~
「……誰が幼女よ」
馬車の荷台の上から、幼女が言ってきた。
高い声を低く押さえようとしているのが微笑ましい。
彼女は、どうやら幼女と言われたことがご不満のようである。
「わたし、17よ。幼女じゃないわ」※(エルフ年齢で)
だが金色の眉毛をかわいらしくつり上げて言ってくる彼女は、まぎれもなく幼女だった。
ちっこいのである。
見た目、七、八歳というところか。
身長が俺の半分ほどしかなかった。
金髪碧眼で、耳はピンと尖っている。
――エルフだ。
ふっ、と俺は優しく笑いかけた。
「どーせアレだろ? 長寿のエルフだから、その外見でも17っていうんだろ?」
「……そうよ」
「第二次性徴してから出直してきてください」
器量はたいへんよろしい。かわいらしい幼女である。
性徴……成長すれば、きっと立派な美人となるだろう。
だが今は幼女だ。
俺はエルフの幼女に背を向けた。
さてさて、街はどっちかな?
俺好みのネェちゃんとの出会いをやり直さなくっちゃ!
俺は馬車から離れようと足を踏み出して――
「さようなら。助かったわ」
声に振り向いた。
俺は改めて、馬車の上の幼女を見る。
幼女は、ボロ切れのような服を着ている。足は鉄球のついた鎖につながれていた。
奴隷、という言葉が頭に浮かぶ。
……この地面に転がってるのは、きっと奴隷商だよなぁ。
今も地面にはモンスターにバラバラにされた人間のパーツが転がっている。
俺は、鎖を外そうと奮闘している幼女に声をかけた。
「なんでなにも言わないんだ?」
「どうして戻ってきたの?」
「ふつうは、待って、とか、置いてかないでー、とか言うだろ?」
「そう? わたし、期待しないことにしているの」
……ふぅん。
「わからないでもないけどな。俺、そういうのヤだな。なんかヤだ」
「……知らないわ」
「おまえ、名前は?」
「リタ」
俺は、ひょいと馬車の荷台に飛び乗ると、エルフ幼女――リタの足首の鎖を指先で挟んだ。
バキン、と鉄の鎖はあっさりと砕ける。
「リタ。俺はおまえの成長に期待することにした! せめてD以上になってくれ!」
「……善処するわ。命の恩人のお願いだものね」
こうして俺は、最初のヒロインを手に入れた。
幼女かぁ……