堕ちる先にある希望
今回はちょっと長めです、やっと話が進みだしますね。
なんとか校舎内に逃げ込んだコータとシナのはほっと一息つき安堵する、だがそれを許さぬように逃げてきたグラウンドのほうからは大きな音が鳴り続けている。
二人が逃げた後も学園の講師たちは戦っているのだ、あの化け物のようなロボットと。
「クソッ!」
その現実を思い知らされたコータは自分のふがいなさに憤りを感じ、こぶしを強く握る。
その強く握ったコータの拳をシナが両手で包む、シナは何も言わないがコータの事を落ち着かせようとしているのだろう。
その手の温かさを感じ、コータは冷静さをとりもどす。
ちょうどその時コータ達のもとへ駆け寄る人が二人、生徒会長と副会長の二人だ。
「あななたちこんなところでなにをしているのですか、早くお逃げなさい!」
そういって副会長のミリアがコータ達をしかりつける。
「他の生徒たちは大丈夫なんですか?」
「残っていた生徒はほぼ全員裏庭から避難しているよ、後は君たちぐらいだ。」
そういって生徒会長はコータ達に避難を促す。
「わかりました、私たちもすぐに避難します。 いこうコータさん。」
「あ、ああ。」
コータ達がそのまま裏庭のほうへ向かおうとしていると副会長が引き止める。
「おまちなさい二人とも、あの子を見かけませんでした?」
「あの子?」
一体誰の事だろうとコータとシナは顔を見合わせる。
「書記のエリスですわ、さっきからどこにも見当たらないのですけどみませんでしたか?」
「いえ、みかけてないですけど...」
「そうですか...ありがとう。」
そういって不安げな顔を見せる副会長、きっと書記のエリスという子が見つかってないのだろう。
コータは何か声をかけようとしたが生徒会長が副会長の横に行きコータ達に首を横に振る。
「書記のエリスは俺たちにまかせて君たちは避難するんだ。」
コータは何か言い返したかったが横にいるシナを見て思いとどまりぐっと拳を握る。
「わかりました、でもお二人も気をつけてください。 いこうシナ。」
そう言い残し裏庭へと急ぐコータ達、生徒会長たちはその背中を見送りまた校舎内を走り出す。
コータとシナの二人は無事裏庭へとたどりつく、このまま裏庭をすぎれば裏門がありそこから逃げることができるだろう。
すでにほかの生徒たちは学園の外へと避難しているのだろう、周りにほかの生徒は見当たらない。
遠くからは大きな音が依然鳴り響く、きっとまだグラウンドでは戦っているのだろう。
コータがそう考えているとシナが何かに気づき学園の外、遠くの方を指差す。
「コータさん、あれ!」
その指の先には遠くのほうで上がる多くの火のてと黒煙があった、今現在被害にあっているのはこの学園だけではないようだ。
「そ...そんな、これじゃ外に逃げても意味がないじゃないか。」
外に逃げれば安全、そう考えていたコータはショックを受け下を向き立ち止まる。
そんな時、また日が陰り地面が黒く染まる。
(ま...まさか、そんな馬鹿なことが。)
そう思いながらゆっくり顔を上げると同時にコータ達の正面にまたロボットが落ちてきた、その時の衝撃で周囲の地面が陥没する。
コータ達は着地のときの衝撃で吹き飛ばされ、地面に転がった。
「カハッ!」
地面に叩き付けられ肺の中の空気がすべて吐き出される、意識ももうろうとしてすぐに立ち上がれそうにない。
顔だけを動かしシナを探すとコータの正面の少し離れた位置に倒れていた、幸いシナのほうはコータほど痛手を負っていないようだ。
シナの安否を確認して安堵したのもつかの間、コータの寝転がっていた地面が崩れ穴が開く。
どうやらちょうど下には空洞があるようだ、コータは落ちそうになるも端のがれきにつかまり落ちないように必死に踏ん張る。
そんな時、ちょうどシナも目をさましコータが落ちそうになっているのを見つけると、痛みに顔を歪めながらも立ち上がりコータのもとへ近寄り手を伸ばす。
「コータさんつかまってください!」
コータもシナに気づき手を伸ばすがぎりぎり手が届かない、あとほんの少しの距離さえ縮まればいけるだろう。
「っく、届いてくれよ!」
そんな二人の姿を見つめる人間が一人
「これは悪いことをしたな、手を貸してやろう。」
ロボットの足が持ち上がりそして、無慈悲に振り下ろされる。
その衝撃で崩れかかっていたコータのいる場所は完全に崩れ、助けに駆け寄っていたシナもろとも穴の底へと落ちていく。
「シナーッ!」
落ちるさなかもコータは必死にシナに手を伸ばす、だがその手がシナを掴むことはなく二人は落ちて行った。
「おっとすまない、これは手ではなく足だったな。」
後に残されたのは足踏みをしたロボットだけだった。
コータが次に目を覚ましたのは薄暗い通路の中だった、どれくらいの時間気を失っていたのかはわからない。
「...ここはどこだ。」
もうろうとする頭をふらつかせながらゆっくりと立ち上がり周囲を確認する、コータの周りには一緒に落ちてきた瓦礫のほかには何も見当たらない。
(一緒に落ちてきた瓦礫....っは、シナは!)
一緒に落ちたのは瓦礫だけではなくシナも一緒だったことに気が付いたコータはあたりを見渡すがそれらしい影は見当たらない、あるのは落ちてきた瓦礫だけである。
(まさかこのがれきの下敷きに!)
そう考えたコータは魔法で自分の腕を強化し瓦礫をどけ始める。
少しの時間が経過し瓦礫を大方どけてみたがシナの姿は見当たらなかった、瓦礫の下敷きになったという最悪の展開はないようだ。
(むしろ瓦礫の中からみつからなくてよかった...でもそれじゃあシナはどこに。)
コータはその場に立ちつくし考えるがまったく考えがまとまらない。
(えーいっ、うじうじ悩んでいても何も始まらない!)
そう思い立ったコータは再びあたりを見渡す、薄暗い通路に控えめな照明がぽつぽつと見えるだけだ。
(さてどっちに行く、よく見ると片側のほうが先が少し明るく見えるが...。)
すこし悩んだ結果コータは先が少し明るくなっているほうへと足を進めた、少し進むと通路が横に曲がっていてその奥には扉がありそこから明るい光が漏れているようだ。
(ここってたぶん学園の地下だよな、学園の地下にこんなものがあるなんて聞いたことがないぞ。
いったい扉の先はなにがあるってんだ...)
そうしてコータが扉を開け中に入る、コータは気づいていない。
コータが歩いてきた通路の曲がっていた角に扉の中に入ってくコータの背中をみつめる視線があることに。
扉を開け中に入るとその中はそこそこの広さがある部屋になっており、中央には作業台のようなものが設置されておりその周囲には多くの工具のようなものが散乱している。
周りを見渡してみると隅には何かの機会のパーツのようなものがそこらじゅうに転がっていた、お世辞にもきれいとは言えない部屋である。
「なんなんだこの部屋は...。」
驚きながらも部屋の中央へ進みそしてきづく。
部屋の奥、コータの正面に置かれている物に。
それは長身の銃とも長身の剣ともみえる代物だった、あえていうなら銃剣だろう。
(これはいったいなんだ、武器...なのか?)
そう思いながらコータが近づきそれに手を触れようとしたとき後ろから声がかかる。
「なんだかんだきかれたら、答えてあげるがなんとやら。」
声に気づき慌てて振り向くと、そこにはどこかで見たような覚えがあるメガネをかけた女の子だった。
「き、君はいったい。それにこれは...」
「はいはい少し落ち着こうか、まず一つずつ順番に行こうか」
そういって女の子はコータのほうへと近づく。
「まずは私が誰かだね、とりあえずこの学園の書記といえばわかるかな?」
そういわれてコータは記憶を掘り起こしながら考える。
「私はそんなに影が薄いのかね...今朝・学園・遅刻、ここまで言えばさすがに思い出すでしょ。」
(遅刻?・・・ああっあの時の!)
「やれやれ、思い出したようだね。 その様子だと私の名前も知らないようだから先に名乗っておくよ。」
「私の名前はエリス、この学園の書記をやってる人間さ。」
(エリス...この名前さっき聞いたような?)
そう、コータはエリスという名前をつい先ほど聞いているのだ。
「そ...そうだエリス! 副会長達がさっき君のことを心配して探していたぞ。」
「っむ!? そうなのか...まったくミリアの奴は本当に心配性なんだからまったく。」
そういったエリスはどこか嬉しそうにも見える。
「まあ見ての通り私は無事だ、時間がないのでさっさと次に行くぞ。」
「次に、それが何かだったな?」
「あ...ああ。」
「それは私が作った武器...アーティファクトとでも呼んでくれ」
「アーティファクト....」
そういわれてコータはそのアーティファクトと呼ばれるものに目を向ける、銃とも剣とも見えるそれはやはり武器であった。
(これがあれば地上で暴れていたロボットを倒せるか?....いやさすがに無理だろうそこまで強力な武器には見えない。)
そんなコータの考えを見透かしたようにエリスはしゃべりだす。
「今頃地上では、イロードを使った兵器が大暴れでもしているのだろう?」
「イロード?」
コータがイロードを知らないのも無理はない、イロードが見つかったのは約三年前で科学の国「カールス」である。魔法の国ではたいして話題には上らなかったうえに、三年も時がたてば記憶から抜け落ちるだろう。
「向こうの国で三年前に発見された特殊な鉱物さ、それを使えばエネルギー的に実現できなかった兵器が現実のものとなるのさ。」
「じゃあ今上で暴れているロボットはそのイロードってのを使って作られた兵器なのか?」
「たぶん...イロードを使った兵器はとても強力だ、普通の魔法ではどうにもならないだろう。」
「ああ、たしかに手も足も出なかったよ...。」
コータは自分の目で実際にその有様を目に焼き付けている、忘れるはずもないだろう。
「そうだろう、君のそのボロボロの姿をみれば嫌でもわかるさ。」
そういってエリスは目を細める。
「だが、私はその展開を三年前から予想していた。 そしてこのアーティファクトを作った。」
「こんなおもちゃで何ができるっていうんだ! 君は見てないから言えるんだそんなことを...」
コータがそう思って怒ってしまうのも無理はないだろう、それくらい現実は悲惨なのだ。
だがエリスも一歩も引くことはなかった、それどころか楽しげにコータから目を離さない。
「そうさ、ただのおもちゃさ。 『機械仕掛けの魔法』それが私が掴んだ一握りの希望だ!」
「君の目の前にはとても小さいが、絶望を切り開くための希望がある。」
「これを手にして前へ進み死ぬもよし、手にせず地べたに這いつくばって死ぬもよし。」
「さあ選べ、ここが運命の分かれ道だ!」
そういったエリスは、コータには背が小さいながらもとても大きな存在に見えた。
盛大に暴れて死ぬか、何もせずただ死ぬか、二つに一つ。
(俺は...どうすればいいんだ。いや、どうしたいかだ。)
(なら選ぶ道はただ一つ、もう迷うことはない!)
コータの手は迷うことなく小さな、とても小さな希望を掴んだ。