日常最終日
科学の国カールスで「イロード」が発見されてから明日でちょうど3年が経とうとしている頃の朝、魔法の国マーナスでは一人の青年が今日もまた睡魔という敵に負けたせいで全力疾走していた。
全力疾走している青年の名前はコータ、マーナスの首都にある魔法学園の生徒だ。
今の彼にとっては遅刻が最大の敵だろう、むしろ日常では身近なものが脅威になる事が当たり前だ。
全力疾走が功をそうしたのか学園の校門の前までたどりつくが、無慈悲にも締まりはじめた。
このままでは校門を通り抜ける前に門はしまってしまうだろう。
その予測通り彼が校門の前についたときにはすでに彼が滑り込む隙間がないほど閉まっていた。
もう遅刻は確定したかと思われたが彼はまだあきらめてはいなかった。
「横がだめならそこしかねえ!」
そういって彼は閉まりかけた門の隙間ではなく門の上へと跳躍した、そのさい彼の足もとには魔法陣
が現れている。
彼は魔法を使って通常のジャンプよりも高く飛んで門を飛び越したのだ。
門を飛び越し地面に着地すると同時に校門は完全にしまった、はたしてこれが遅刻になるのかは正直微妙であろう。
「これってセーフだよね、うん。」
そう言って彼は校舎のほうへと急いでいく、がしかし彼の足を止める一声がかかる。
「そこのあなた、今のは認められませんわよ!」
そう言って呼び止めたのはこの学園の副会長の女の子だ、その横には生徒会長と書記もいる。
生徒会長は男で中々の美男子、書記は少しぱっとしない見た目の印象をうけるメガネをかけた女の子。
「な..なんのことでしょうか?」
「言い訳は結構です、あなたはどうあがいても遅刻です。」
ダメ元でしらをきるが副会長これを一刀両断、取りつく島もなし。
「でもまだ門は閉まりきってなかった、だからノーカウントでと思います。」
「屁理屈なんて見苦しいですわよ。」
言い逃れも許してくれそうにはなさそうだ。
みかねたのか生徒会長が近づき、
「まあミリアさん落ち着いて、すまないが生徒会として君の先ほどの行為を見過ごすわけにはいかないんだ。」
すまないねという顔をしながら一言。
「なかなかユニークで面白い発想だけど、今回はめんどくさいからアウトで。」
書記からは少し投げやりな一言をもらい、もはや観念したのか落胆するコータであった。
こんなどうしようもなく平和な事件がありつつも日は昇っていく、誰も惜しまずに。
日が高く昇りきった頃、お昼休みを告げる鐘が鳴り響く。
またもや全力疾走する青年が一人、今度の目的地は学園内にある購買である。
だがその走りには少し自信がなく、速度も朝のそれほど早くはない。
「くそー、昼前の講義が長引くなんて最悪な日だよコンチクショー!」
足が遅くなってるのは半ばあきらめているからだろう、もはや急いでも間に合わないと。
そんな時、不運にも教室から出てきたばかりの生徒とはちあわせてしまい。
この後購買で何が買えるかと考えていたのか周りへの注意がおろそかになっていたせいで、横を歩いていた生徒の肩にぶつかってしまった。
「キャッ!」
悲痛な叫びと共に体制を崩し倒してしまう、どうやらぶつかったのは女子生徒のようだ。
同時にぶつかった彼女が持っていたものが宙に放り出され、音を立てて地面へと落ちる。
地面に落ちたものは音を立てるとともに中に入っているものを地面にぶちまけた、そう弁当である。
「す、すまない! だいじょうぶか?」
少し遅れて、ぶつかってしまったことに気づき声をかけるコータ。
「は、はい。なんとか大丈夫です...あっ!」
そういって立ち上がる彼女には特にケガなどはなさそうだ、だが無事でないものがほかにある。
瞳をうるうるさせて今にも泣きそうな顔になる彼女の視線の先には、無残な姿とかした彼女の弁当が。
コータもそれに気づき体を硬直させる。
(どうする...どうするんだ! 考えろ、俺がするべきことを。)
そうしてコータは少しの時間棒立ちしたあげくとった行動は。
「すまない、今かわりの昼飯を買ってくる。少しだけそこで待っていてくれ!」
走ることだった、第三者がみればコータがぶつかってそのまま逃げたように見えるだろう。
だが、今の彼は昼ご飯を失った女の子を救うために走るヒーローなのだ。
講義が長引き遅れている事を忘れているのにきづかない悲しきヒーローなのである。
「.....どうしよう。」
その後には置き去りにされた女の子と無残な姿になった彼女の弁当だけがのこる。
[数分後]
「完全にやらかしたー!」
そう叫ぶコータの手には二つの食パンが入った袋が握られている。
結局出遅れたコータは売れ残っていた食パンしか買えなかったのだ。
「どうするんだよ、あんなこと言って来たけどこのざまじゃ。」
そういってさっき廊下でぶつかった少女のことを思い出す。
あの場では急いで代わりの物を買いに行かずに、廊下に落としてしまった彼女の弁当を片づけるのか手伝ったうえでしっかり頭を下げて謝るのが正解だったのだ。
(と...とりあえず謝らなきゃ!)
そういってコータはまた走り出す。
(そもそもあの子がおとなしくあの場所で待ってくれているかが不安だ。)
コータはそもそも彼女の名前はおろか学年や組すら知らないのだ。
彼女が出てきた教室をしっかり覚えていれば何とかなるだろうが、急いでいたのでコータは気にしていなかった。
そんなコータの不安は杞憂であった、彼女は律儀にぶつかった場所でまっていたのだ。
待っていた彼女のもとにかけよりそのまま勢いにまかせて頭を下げて謝る。
「遅くなって悪い!」
そうすると彼女は少し驚いて硬直していたが、すぐに彼女も頭を下げた
「こちらこそぼーっとしていて、ごめんなさい。」
「いや、こちっこそ急いでいて本当にゴメン。」
そうして二人とも頭を下げて謝る不思議な状態になってしまった、これにはさすがにコータも苦笑い。
「えっと、とりあえず今回の事はお互い不注意だったということにしませんか?」
「それにこのままここでお互い誤っていたらお昼休みも終わってしまいますし。」
彼女のほうからそう切り出した、コータとしてはうれしい提案だがもうひとつ問題が残っている。
そう、コータが買えたのは食パンだけなのだ。
「そういってくれるとありがたいんだけど、その...」
「どうしました?」
彼女が不思議がっていると、コータのもっている袋の中身を見て納得したようだ。
そしてクスッっと笑い提案する。
「大丈夫ですよ、私にまかせてください。」
「?」
このまま廊下に立っていても邪魔なので中庭に二人で移動することにした。
そうして昇りきった日は少し沈んでいく、誰も気にせずに。