対談
高貴な雰囲気を出すって言うのは難しいですね……。
きらびやかな白金髪は丁寧に結い上げられ、わたしを見つめる目は夜空のような群青。穏やかな、けれど力強い眼差しと年齢を感じさせないその立ち姿は正に王家の気品とでも言おうか。
思わず見惚れてしまったがわたしも慌てて立ち上がり深く頭を垂れる。未だきょとんとしているディーに礼を取るよう言うと不思議そうにしながらも頭を下げた。王妃陛下はそれを微笑ましそうに見たがすぐに周りを見回しながら声をかける。
「皆、顔を上げなさい」
陛下の言葉に位の高い者から顔を上げていく。わたしたちはネルが動くのを待って顔を上げた。
視線を上げたわたしを真正面から見据え、王妃陛下は問いかける。
「ウォルスリーブ家のセラフィローネですね?」
「左様にございます、王妃陛下」
声をかけられ、わたしは再び丁寧に最敬礼をしそのままで次の言葉を待つ。
「今宵は宴の席。わたくしも参加者のひとりです。もう少し楽になさい」
「お心遣いいただき、恐悦至極に存じます」
王妃陛下の声がやんわりと告げるのにそっと姿勢を正す。再び見上げるかたちになった陛下の顔はどこか楽しげだった。
「その年で随分としっかりしているのですね。わたくしがここへ来た用件もわかっているのですか?」
「…はい。バーンの…ルフトヴァル子爵家のバーンバルトさまよりわたしが受けた『捧名の盟約』について、と愚考しております」
そのわたしの言葉に辺りがどよめく。ネルまで驚いているのが不思議だ。あなた、その場にいたじゃないですか。ディーは言わずもがな。視界の隅っこで小父さまが深々と溜め息を吐きながら頭を振り、その隣でハウンバート男爵さまは「まあ」と楽しそうに目を輝かせているという対照的な反応がとても印象的だ。
どうしてこうなった、と現実逃避しても意味はないか。取り敢えず今は王妃陛下のお言葉をちゃんと聞こう。
「貴女の聡明さを見るに、盟約の意味は理解しているのですね?」
「はい、心得ております」
わたしがしっかりと答えると王妃陛下はひとつ頷きただ一言。
「なら宜しい」
………は?
え?あ、うん??
あまりにも簡潔なお答えにわたしの思考が着いて行かない。無意識に首を傾げているわたしを見て小父さまが再度頭を振りながら王妃陛下へ進言する。
「畏れ多くも王妃陛下、我が愚孫による今回の件、その程度のお言葉で片付けてしまわれてはこちらが困るのです」
そう言う小父さまの顔は苦虫を噛み潰したような渋面だが対する王妃陛下は毅然とした態度でその顔を見返す。
「貴方が困ることなど知ったことではありません。そもそもの原因は貴方の監督不行き届きにあるのではないのですか?あの子の処遇を決定する際、貴方は自らその責務を負い、彼の身柄を引き受けると王の前で誓ったのではなかったのですか?」
王妃陛下の言葉に小父さまはぐっと言葉を呑み込んでいる。けれどわたしは王妃陛下の言葉の中に引っかかるものがあった。
『 あの子の処遇を決定する際、貴方は自らその責務を負い、彼の身柄を引き受けると―― 』
確かに王妃陛下はそう言われた。話の流れから察するに“あの子”や“彼”というのはバーンのことだろう。しかし“処遇の決定”や“責務を負う”という言葉が何を指すのかいまいちよくわからない。
当人であるはずのわたしがその話の内容をうまく理解できず、ただ成り行きを見守ることしかできないのに少しやきもきする。
「現在、貴方の孫息子には王自らがお言葉をかけておられるはずです。自らの言葉の意味とその重さ、そしてこの先に待ち受けるであろう災厄と責任を自覚しているのであれば今回、わたくしや王からは特に言うことはありません。後は当人たちの受け取り方と、周りの者がどういう対応をするかによるのですから。…それともなんです?貴方は彼が生きる目的を見出したことに対し、不満があるのですか?」
「そのようなことは断じてっ…!しかし、此度の件、あ奴だからと例外を作るわけにはいかないのですぞ?」
思わずといった風に声を荒げた小父さまだが、流石と言おうか、王妃陛下は怯むこともなく高い位置にあるその双眸をしっかりと見据えていた。
「貴方の言い分も理解しています。ですが今回はとても特殊な例であるのですし…それに、本当のことを言うとわたくしは少し、ほっとしているのです。どのような理由であれ彼が世界に、我々に係わろうとしてくれたことが、嬉しいのですよ」
そう言った王妃陛下はとても柔らかく、優しいお顔をされていて。小父さまもそれ以上は口を噤んだ。
………言ってもいいだろうか?
わたし、蚊帳の外じゃない?
思わずそんなことを考えた瞬間、王妃陛下の群青の双眸がわたしに向けられびくりと肩が跳ねた。そんなわたしを見て何を思ったのか、王妃陛下は微かに笑みを浮かべるとその視線を小父さまへと向け直す。
「ルフトヴァル。彼女を控えに案内して差し上げなさい。恐らくはそこに彼も居るでしょう」
「…畏まりました、王妃陛下」
一瞬の間をおいて小父さまが最敬礼でその言葉を受け取ったのに王妃陛下は鷹揚に頷くともう一度わたしへと視線を向ける。
「貴女にとっては難しいかも知れませんが、どうか、今宵は楽しんでください」
「はい、ありがとうございます」
声をかけられたのにわたしも最敬礼で答えると王妃陛下はひとつ頷きようやくやっとこの場から離れて行った。
王妃陛下の姿が見えなくなったのにわたしは大きく息を吐き出し、ふらふらと後退ってソファへと腰を落とす。それにすぐさまネルとディーが近付き心配そうな表情を見せたのに「大丈夫」と微笑みながら告げるが、彼らの曇り顔はすぐには晴れそうにない。
しばし逡巡したようだったネルが口を開こうとするがそれをダグデス小父さまが片手で制し、代わって口を開いた。
「セラよ、王妃陛下のお招きもある。控えの間に場所を移そう。あちらにはバーンと、恐らくはリグファーバルも居るだろう。話はそれからだ」
「それでいいな?」と目で問いかけてくる小父さまにわたしもネルも頷く。すると小父さまは片手を上げ、次いで人混みの中から小父さまと同じ服装をした人々が数名姿を現した。とっさに身構えてしまったのはご愛嬌の範囲だろう。けれどそれを小父さまに見咎められ、その大きな手がわたしの頭に乗せられる。
「安心せい。ここにはお主を傷付ける者などおらんよ」
柔らかく微笑んだ小父さまだったがすぐに顔を上げると近くにいたハウンバート男爵様に目を向けた。それを待っていたかのように彼女はにっこりと微笑む。
「その反応はわたくしもご一緒して構わないのかしら?」
「…初めからそのつもりだったくせによくもまぁ抜け抜けと……」
少しおどけたように言った男爵様の言葉に小父さまは鼻で笑いながら小さく零す。話の流れからして、どうやら彼女は着いて来るらしいということでわたしは視線を巡らせた。そして目的の人物を見つけるとこちらから声をかける前に言葉を奪われる。
「サフィーアさまが『いい』と言われるまではわたしはお嬢さまにお供させていただきます」
にっこりと微笑みながらシアンさんが告げられた言葉に知らずほっとした自分がいて少し驚いた。
いつの間にか毎週更新になっているこの不思議……。
このままこの調子で進めたら~と思うんだけど…多分来週は更新できないと思われる。
次話をどうしようか迷走しているので…(汗
うーん……。
取り敢えず、別視点を所望される方、挙手願います。
話は変わって。
一日のアクセス数が2,000越えとかしててめちゃくちゃビックリした。
嬉しさ三割、感謝五割。
残りの二割は恐怖と困惑と緊張と疑い。
+αでドヤ顔<( ̄w ̄)>
こんな自分にお付き合いくださり感謝の言葉もありません。
が、頑張って更新していきます!(汗汗