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心からのもてなし




 グレイグー。


 ナノサイズの極微小機械・ナノマシンが自己増殖の果てに起こる文明の滅びの一形態。

 ビルを、乗り物を、木々を、岩を、人を、生き物を、ありとあらゆる物質を無差別に分子や原子レベルで分解・再構成を行う暴走。

 21世紀の終りに発生したこの事故は、何故起きたのか未だに解明されていない。

 地上に残された人々はシェルターと呼ばれる建造物に篭り、ナノマシンの自己増殖抑制信号を発して身を守る事で精一杯であった。

 事故から100年以上経った現在、人類に残された物といえばかろうじて身を守れるシェルターといくつかの謎だけだ。

 何故事故が起きたのか。

 地表や海洋がナノマシンの海と化しても何故、天候が存在し続けることができるのか。

 何故人類がその突然のグレイグーに対応できる、シェルターや自己増殖抑制信号を持っていたのか。

 何故グレイグーの進行が一気に進まないのか。

 生き残った人々には、それらを解く機会と力は残されてはいなかった。



 星間航行船『ランギヌイ』はグレイグー発生時に宇宙へと脱出したスター・シップの中で、唯一地球に留まった船である。

 高度15,000メートルの中軌道で地球を周回するこの船は、ナノマシンの海に沈みゆく地球をもう100年以上も観測し続けていた。

 勿論いつの日か地球を再び人類の手にとり戻す為にである。

 その地球人類最後の希望とも言える星間航行船『ランギヌイ』で、事故後初の地上降下作戦が行われようとしていた。


「ま、体のいい厄介払いってところか」

『そういうな、0521アレックス。地上での作戦行動経験がある部隊は、君たち“ゼノビア・オーダーズ”しかいないのだから仕方なかろう』

「バーチャル・シミュレーションと大差ないわ」

『そのシミュレーションでもっとも成績の良い部隊が君たちだ』

「……くそ、手を抜いとけばよかった」

『今の問題発言は記録から消しておく』

「あら、ありがとうチャールズ。でもね大体、コマンド・オペレーター出身の私にすらボロ負けするそちらのオーダーも問題だと思わない?」

『だからこその今回の任務だ』


 アレックスは宇宙服のような強化防護服の中で、わずかにため息を付いた。

 ヘルメットの視認窓には司令部のチャールズの姿が映し出されている。

 神経質そうな面白みのないその顔と抑揚のない声は、彼女をわずかに苛立たせた。


『わかってくれ。実戦経験のある部隊は君たちだけなんだ』

「実戦経験って言っても、負け戦よ?」

『だからこそ、得るものも多くあったろう?』

「私らは最後の隔壁破られて、数百人ばかりのお偉いさんが乗った脱出ロケットに護衛兼オマケで乗れた“ミソっかす”よ」

『謙遜するな。“我々”は君らが乗っていなければ助けはしなかった』

「……皮肉なものね。人類に必要とされる者たちが殆ど乗れず、どうでもいい連中が多く生き残ったなんて」

『今の問題発言は記録から消しておく』

「ありがと。それで? 地上のシェルターで真っ先に陥落したゼノビア・シェルターの元オーダーに、どんな任務をして欲しいのかしら?」


 アレックスはそう言ってイタズラっぽく笑う。

 黒い肌に映えるブルーの瞳はとても愛嬌のあるものだったが、モニタのむこうにいるチャールズには伝わらないようだ。


『0521アレックス。これより任務を説明する』

「はっ!」

『諸君はこれからコンロン地方に降下し、ヤン=グイ=フェイ・シェルターとコンタクトを取れ」

「了解しました!」

『本作戦は地上奪還計画の初手である。もっとも標高の高いシェルターを拠点に、地上部隊を創設する第一歩でもある』

「ヤン=グイ=フェイ・シェルター側とのコンタクトの方法は?」

『シェルター側からの応答はない。直接内部に赴き、こちらのメッセージを伝えよ』

「迎撃の可能性は?」

『無いとはいい切れないが、その可能性は低い。

 観測する限りナノマシン禍には見舞われた形跡はないので、敵というよりも救助隊と思われる可能性の方が高い』

「……羨ましいわね」

『0521アレックス。任務の説明中に私語は慎め』

「はっ! 申し訳ありません!」

『続ける。ヤン=グイ=フェイ・シェルターとコンタクトを試みた後、信号ロケットを上げよ。成功ならA、失敗ならBだ』

「了解しました!」

『失敗の場合は迎えをやる。成功の場合は資材と作業用ロボットを送るから、第5隔壁内にて前線基地の建設を開始せよ。以上だ』

「了解しました!」

『……すまんな、アレックス』

「気にしなくてもいいわ、チャールズ。私だってシェルターで暮らしてたからわかるわよ。外の人間を養う余裕なんて、普通無いものね」

『ゼノビア・シェルターの要人達も、時期を見て地上に送られるだろう』

「私たちが生きるためには、地上奪還計画の尖兵として地上で戦うしかないってわけね」

『……すまん』

「だから、気にしなくてもいいわよ。こっちだって、セックスもまともに出来ない『ランギヌイ』で生活するなんて、真平ゴメンよ」


 通信機からドっと下卑た笑い声が漏れてきた。

 他の隊員による物だ。


『船内での生活は、すべて管理される必要がある』

「ゼノビア・シェルターはそんなに厳しくなかったけどね。ま、どうでもいいわそんな事」

『任務について、他に質問はあるか?』

「失敗時に迎えを寄こしてくれるって行ってたけれど、どうせウソでしょう?」


 質問にチャールズは珍しく表情を曇らせた。

 彼が無表情を崩すことなど、めったに無い。


『その質問に答える必要はない』

「あ、そ。ならもういいわ。とっとと降ろして頂戴。――野郎ども、聞いたな?」

『はっ!』

「喜べ、地上で女漁りだ! ランギヌイの“フニャチン”共に子猫ちゃんとのヤリ方を教えてやれ!」

『了解であります!』

「復唱! これよりゼノビア・オーダーズは任務に就く。司令部、降下されたし!」

『これよりゼノビア・オーダーズは任務に就く。司令部、降下されたし!』

『こちら司令部、これより作戦を開始する。0521アレックス麾下“ゼノビア・オーダーズ”の要請を受領し、地球降下を許可する』


 ガコン、と軽い衝撃が強化防護服ごしにアレックスへと伝わった。

 彼女と部隊の面々は強化防護服に身を包み、地球降下用のロケットの中でその時を待つ。

 やがて衝撃は振動へと代わり、強化防護服の内部ではけたたましく各種アラームが鳴り響いた。

 振動が収まるまで数十分。

 アレックスは再び大地を踏みしめることになったのだった。



 ヤン=グイ=フェイ・シェルターは旧中華連邦の内陸部、昆崙山地に設置されたシェルターである。

 地上で最も高い場所に設置されたこのシェルターは、グレイグー発生から一度も外敵に脅かされた事のない場所であった。

 しかしながら通信施設にトラブルを抱えていたのか、衛星軌道上を航行する星間航行船『ランギヌイ』の呼び掛けに一切の応答はない。

 果たして、コンタクトを取るために内部に侵入したアレックス達を、ヤン=グイ=フェイ・オーダーは銃をもって出迎えた。

 仕方なく彼らと交戦するも戦闘は驚くほどアッサリと終結し、ゼノビア・オーダーズ隊は一人の犠牲者も出すことなく

ヤン=グイ=フェイ・シェルターの掌握に成功する。

 調査の結果、どうやらこのシェルターでは外敵は居なかったものの、内部の指導者達が100年以上も権力闘争を重ねていたらしい。

 結果、今では一つの権力にまとまったようだが防衛戦力もその影響で大きく低下し、アレックスの隊だけで制圧できるほど疲弊していたようだ。

 閉じられたシェルターの中では、人々が争い強者による弱者の略奪が横行していた。

 住人の知識レベルもかなり低水準である。

 治安も悪く、取り締まるべき実行部隊は度重なる同士討ちで装備も大きく消耗し、親衛隊と称する僅かな人数の部隊以外は槍を持ち歩く有様だ。

 シェルターの維持管理技術もかなり前に失われていたらしく、内部はさながら中世の封建社会の様相を呈していた。

 居住区では食料プラントと資源循環プラントを除き、殆どの施設が機能停止に陥っており調査を行ったアレックス達を呆れさせたのだった。


「以上が内部調査の結果であります。詳しい報告は別途添付データにて確認ねがいます」

『了解した。基地建設の進捗はどうか』

「概ね良好ね。明日にでもこの“厚着”を辞めて寝ることができると思う」

『住民の様子はどうか』

「我々がここのオーダーを排除したものだから、一部で暴動が起きているわ」

『そうか。対応はどうした?』

「制圧しても治安維持なんて出来ないし、最終隔壁の内側に全員ひきこもって貰っている」

『残党による抵抗は?』

「……強化防護服着た連中はすべて排除しておいたから問題ない。ランギヌイ・オーダーでも制圧出来そうな連中だったわね」

『そうか、ご苦労。警戒は怠るなよ?』

「もちろんよ、最終隔壁の中は今すごい有様なんだから。チャールズ、あなたに見せたいわ」

『……送られた映像で十分だ。しかし意外だな』

「何が?」

『住民から搾取していた権力者を何故殺さなかった?』

「どうせ住人が循環プラントにでも投げ込むわよ。それに言ったでしょ? 下手に手を出しても治安維持なんてできないわ」

『ふむ。君は中々賢いんだな』

「バカにしてる? これでも元は司令部付きだったんだから」

『それは失礼した。しかし……送られてきたデータを今見ているが、ヤン=グイ=フェイ・オーダーの数が少なすぎないか?』

「強化防護服の多くを権力闘争による同士討ちで失っていたようよ。その辺りの経緯はもっと後ろの資料に書いてあるわ」

『ふむ……』

「お陰で私たちだけで制圧できたからいいじゃない。それより、最終隔壁外に少数いた住民から支援を要請されてるの。指示をお願い」

『住民がいるのか?』

「ええ、所謂“貧民”ってやつね。かなり初期に居住区の外に放り出されていたようよ」

『彼らは食料など一体どうしていたんだ?』

「さあ? 粗末なテントの中にはポータブル式人工太陽はあったようだけど、あの出力なら作物を育てるには不向きね」

『そうか。対応は任せる。“排除”してもかまわん。支援する場合は持ち込んだ食料プラントの存在だけは隠蔽しておけ』

「了解。じゃ、次の定時連絡は12時間後ね」

『了解した。……とりあえず、降下任務の成功おめでとう、アレックス』

「ありがとう、チャールズ。地上奪還計画が成功した暁には、編成した地上軍総出で『ランギヌイ』を撃墜してみせるから楽しみにしていてね」

『今の問題発言は記録から消しておく』

「あら、ありがと。貴方が乗った脱出船だけは見逃してあげるわね」

『アレックス。削除項目がこれ以上多くなると、上役に造反を疑われてしまう』

「ふふ、それが目的よ。じゃあ、また。司令部、0521アレックス麾下ゼノビア・オーダーズはこれより基地建設任務に戻る」

『こちら司令部。了解した。以上、秘匿回線を切断する』


 ブン、と電子音が鳴り表示されていたチャールズの神経質そうな顔の画像が消える。

 アレックスは強化防護服の中で安堵のため息をついた。

 翌日にでも完成する簡素な基地は、彼女にとって数年ぶりの安住の地となるからだ。

 残念ながらヤン=グイ=フェイ・シェルター側からの支援は期待できないが、それでも暫くはナノマシンの海に怯えずに寝ることができる。

 その事実が彼女の心を久々に晴れやかなものに変えていた。

 暫定的ではあるものの地上部隊の最高指揮官である彼女は、早速隔壁外に住まう住民の対応に思考を巡らせる。

 “排除しても構わない”と言われ、彼らの命すら彼ら自身が与り知らぬ場所で、その手に委ねられた彼女の選択は……


「こちら0521アレックス。0522マイク、応答しろ」

『こちら0522マイク。隊長、やっとメシの時間ですかい?』

「マイク、服を脱ぐのは明日まで我慢だ。基地が完成すればしばらくは人間に戻れる」

『ええい、クソ! 手前のションベンを飲むのも流石に飽きやしたぜ』

「濾過装置ついてるだろうが」

『……隊長、俺の強化服は出撃前、強引に隊長と取替させられた奴ですぜ』

「ふん、私が使っていた服がそんなに不満か?」

『濾過装置が壊れてなけりゃ最高だったんですがね。それで、要件はなんですかい?』

「壁外住民の長と話をする。お前と他3名、ついてこい」

『最終隔壁を内側から開けられなくなるようにするには、もうすこし時間がかかりやす』

「こちら0521アレックス。0527ビリー、応答せよ」

『こちら0527ビリー。如何しました隊長?』

「隔壁封鎖に何手間取ってやがる!」

『も、申し訳ございません!』

「5分だ。それが出来なきゃ中で暴れてる連中を、お前一人で大人しくさせてこい!」

『サー!』

「聞こえたな? マイク。問題ないそうだ。命令を復唱しろ」

『サー! 0522マイク以下3名、これより0521アレックス隊長に随伴致します!』

「よし、いい子だ。あとでたっぷり“しゃぶらせてやる”。いくぞ!」


 アレックスはすっかり身に付いた下品なジョークに、一人苦笑いを浮かべ強化防護服を跳躍させた。

 強化防護服は瞬く間に数百メートル程宙を舞い、着地と同時に強い衝撃が彼女を襲う。

 しかし彼女はそんな事などお構いなしに、すぐさま次の跳躍へと移った。

 彼女に続くゼノビア・オーダーズの歴戦の兵士達も同様に、跳躍を繰り返す。

 やがてたどり着いた貧民たちの長が住まうあばら屋は、最終隔壁から最も遠く離れた場所にあった。


「ここで待て。何か異変があったら構わん、鉛玉をくれてやれ。マイク、ついてこい」

「サー!」


 部下に手早く指示を出したアレックスは、久方ぶりに強化防護服を屈ませて脱ぐ……というよりも服の中からはい出た。

 同様にマイクも外に出て、護身用の銃を取り出す。


「……マイク、お前臭いな。あまり近寄るな」

「ひでえや、隊長。あとで“しゃぶらせて”くれるんでしょう?」

「だまれ。口が小便臭い。中に入っても絶対に話すな。わかるか? 外の人間が皆口から小便の匂いをさせているなどと、思われたくない」


 一見和やかにコミュニケートを取りながら、二人はあばら屋の中へと案内された。

 あばら屋の内部は粗末な作りであり、床はなくボロ布をしいてその上に長と思われる老人があぐらをかいている。

 両脇には屈強な男が斧を手に二人控えており、小屋に入ってきた二人を無表情でみていた。

 アレックスは二人の視線など気にもとめず、喉元と耳に翻訳装置を取り付け小屋の入り口に立ったまま早速長との会談を開始した。

 その内容は主に食料の問題であり、彼女でさえ驚くほどの少量の援助で良いから貰えないだろうかというものであった。


「そちらの要求は理解しました。その位ならば問題はありませんが、本当にそれだけでよいのですか?」

「我々は貧しくともいままでこれでやってきました。大丈夫です」

「医薬品は?」

「……病に倒れた者を必死に生かしても、食べ物の取り分が減るだけですので……」

「了解しました。明後日にでも手配します」

「助かります。何しろ、あの壁のむこうから我々が追い出されて100年ちかく経っとりますが、今年はあまり“追放者”が出ませんでな」

「追放者?」

「はい。あの壁の向こうで、犯罪を犯したりして追い出された者です」

「ほう」

「お恥ずかしながら、我々はそういった輩を襲って僅かな食料を得ながら食いつないできました」

「人は誰しも生きたいものです。その行動をだれが非難できましょう」

「そう受け取っていただけるならば、幸いです」


 長はフガフガと力なく笑った。

 僅かな人工太陽の光のみで100年もここで生きる。

 その苦労はアレックスには想像もできなかった。

 水の一滴すら得るのが困難な場所である。


「……こんな、作物も育たない場所で100年も生きてこられたのなら、相当数の追放者がいたのでしょうね」

「はい。特に最初の20年は多かったと儂のじいさまから聞いております」

「そうでしたか……。提示された量ならば、1月ごとにご提供できますのでご安心してください」

「おお! そうですか。いや、それは助かります。隊長さんが話の判る方でよかった」

「いえ……それでは私はこれで」

「ああ、待ってください。せっかくですので、我々のご馳走を食べて行きませんか?」

「ご馳走? いや、しかし貴重な食料を……」

「実は今日は祭りでしてな。断食を皆で行い我慢する習わしがありまして、それが空けるのは今日だったのです」


 アレックスは長の話に以前本で読んだイスラームのしきたりを思い出した。

 事実、昆崙山地ではかなり盛んに信仰されている宗教のひとつである。


「長。我々はイスラーム教は信仰してはいない。そんな我々が参加してもよいのでしょうか?」

「イスラーム? 聞いたこともございませんな」

「……忘れてください。何か、信仰による行事だと勘違いしました」

「ああ、なるほど。たしか、大昔には宗教というものがあったそうですね。我々も祈りはしますが、そういったものはとうに……」

「失礼しました」

「かまいません。代わりにと言ってはなんですが、ぜひ食っていってください。貧しいですが、心からのもてなしをさせてください」

「そういう事ならば」


 アレックスはそう答えて長の勧められるままに座った。

 マイクは警戒を解かず無言で立ち続けている。

 長は所々抜けた歯を剥いて笑い、立っていた屈強な男の一人に準備をするよう指示を出した。

 指示を受けた男は一端小屋から出て行き、やがて一人の半裸の少女を伴って戻ってきた。

 少女はアレックスとマイクの前に立ち、聞いたこともない歌を歌いながら踊り始める。

 どうやらもてなしの一貫らしい。

 座るアレックスの後方で、マイクが薄く口笛を吹いた。

 痩せた、それでいて健康的な肉体を激しく震わせる少女は、狂ったように踊り続ける。

 やがて踊りはクライマックスを迎え、最後にアレックスの眼前で項垂れるように蹲り終りを迎えた。

 後ろではマイクが口笛を吹きながら手を叩いている。

 恐らくは当分、“おかず”に困らないだろう。

 アレックスもはしゃぐマイクに流される形で手を叩こうとした。

 その瞬間。

 少女の首がアレックスの眼前で消えた。

 血が、呆然とする彼女をみるみる赤く染めていく。

 振りかかる鮮血をそのままに、視線を上げると男が少女に斧を振り下ろしている姿が見えた。

 刹那、彼女は理解する。

 作物も育てられない閉じられた環境で、彼らが“如何にして生きてきたのか”

 "我々はそういった輩を襲って僅かな食料を得ながら食いつないできました”という長の言葉の意味。

 そう、彼らにとってご馳走とは……



「こちら0521アレックス。司令部、定時連絡の時間だ」

『こちら司令部。0521アレックス、異常はないか?』

「異常はなし。予定通り基地は完成したわ」

『そうか、それはよかった。ああ、それとアレックス。住民の支援の件はどうした?』


 チャールズの問いに、アレックスは無表情で答えた。


「“食べ物”を求められたから、たっぷりと“食べ物”をこさえてあげたわ」

『たっぷり? ずいぶんと気前が良いんだな。俺は食料プラントの存在は隠蔽しろとと言ったが、もてなせとは言ってないぞ?』

「心配はいらない。プラントは“使っていない”しね」

『使っていない? 一体、どうやって……』

「“材料”を現地調達したのよ。住民に“協力してもらって”ね」

『……そうか、問題が無いならいい。ところでアレックス、元気が無いな?』

「生理なのよ。血が、“たっぷりと”出て気持ち悪いったらありゃしない」


 そう言って、アレックスは力なく笑った。

 定時連絡はそれから間もなく終わり、彼女は待ちに待ったシャワーを貪る事にした。












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