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【白でも黒でもない】25

 荷物を段ボールに詰めていく。

 箱がいっぱいになると控えていた作業員機械(ロボット)が段ボールの封を閉じ、家の外に運び出す。家の外で待機していた作業員機械(ロボット)は箱を受け取ると、階段を使って一階まで降り、エントランスを抜けて外に停まっている大型バンの荷台に段ボールを運び入れる。この繰り返しで、藍美の部屋はすっかり綺麗になった。

『いかがですか』

 後ろから声をかけられた朝陽は「うん。大体」と返事をした。

 とうとう藍美と直輝の離婚が成立したので、部屋に残った藍美と朝陽の荷物を引き取りに来ていた。

 直輝は書斎から出てこない。藍美は家に残り、引き取ってきて欲しいものをメモして朝陽に手渡した。朝陽はメモ通りに藍美の荷物を箱に詰め終え、自室へ足を運ぶ。鈴も後ろからついて来た。

 青い機械(ロボット)の登場する漫画とアニメのDVDを段ボールに入れた。

 朝陽の目的の荷物はそれだけだった。

 段ボールを作業員機械(ロボット)に渡し「これで最後」と声をかける。作業員機械(ロボット)は段ボールを手に玄関の方へと移動する。

 部屋を出て「じゃあ」と鈴に声をかける。書斎の扉ががちゃりと開いた。

「終わったか」

 眉間にしわを寄せた直輝は低い声を出す。朝陽は頷き、「お世話になりました」と頭を下げた。

「俺はお前のことなんか世話した覚えはない」

 直輝はそっぽを向いてしまった。

 朝陽は「いえ」と首を横に振った。もう一度「ありがとうございました」と頭を下げる。

 直輝は「ああうるさい」と部屋の中に入ってしまった。その様子を見ていた鈴がくすくすと笑う。

「きっと照れてるんですよ」

「え」

 朝陽は目を丸くして鈴を見た。

「直輝様は、素直な誉め言葉や感謝の言葉に弱いんです。すぐに顔を赤くしてしまうので、それできっと」

 鈴が話している途中で「鈴!」と書斎から叫び声が聞こえた。

「余計なことを言うな!」

 鈴は人差し指を口の前に立てた。

「恥ずかしがってらっしゃいます」

 小声で鈴は続けた。

「可愛くない」

 ふん、と朝陽は鼻で笑い、玄関の方へと歩いた。

 鈴はまだ笑っている。今までとは違う、笑い交じりの声も、柔らかい表情も、鈴によく似合っていた。

 玄関で振り返り、「じゃあな」と言った。鈴は「朝陽様」と声をかけた。

「ありがとうございました」

 頭を下げる鈴に「いいよ。頭上げろよ」と声をかける。鈴は「いえ」と言った。

「私は今、幸せなんです。直輝様のことも幸せに出来るように頑張ります」

 朝陽は「ふ」と笑った。

「そんな簡単なやつじゃないぞ」

「承知しております」

 朝陽は「じゃあ、頼んだ」と言って鈴に背を向けた。「お任せください」という頼もしい声がした。

 エレベーターで下に降りる間、外を見ていた。

 生憎天気は曇りで、空は灰色だった。

 治験場()にはたくさんの家が建っている。その数だけ治験者と相棒(パートナー)それぞれの物語(ドラマ)があるのだろう。その光の数に、朝陽は思いを馳せた。

 エントランスを抜けて、外に出た。大きく息を吸い込んだ。

 待機していた白色乗用車(タクシー)に乗り、自宅へ戻る。

 出迎えた藍美は笑顔で「ありがとう」と朝陽を抱き締めた。

「ママ」

「ん?」

 藍美が朝陽から少し体を離し、朝陽の顔を見る。

「あのさ」

「どうしたの」

 朝陽は少し迷ってから、意を決して藍美を見た。

「ぼく、ママのこと大好きだよ」

 藍美はしばらくぽかんとしていたが、徐々に目を潤ませて、大粒の涙を目のふちに貯めた。

 ふとカレーの匂いが朝陽の嗅覚()を撫でた。隣は夕食時なのかもしれない。

「朝陽」

 藍美は朝陽を抱きしめた。

「ママも、朝陽のこと大好きよ」

 朝陽は藍美の背中に腕を回した。その腕にぎゅっと力を籠めて、静かに目を閉じた。

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