【白でも黒でもない】22
朝陽と倖田は向き合って座っていた。所長室のソファーは相変わらずふかふかで腰掛けるとふわりと沈み込む。
「いらっしゃい朝陽くん。あの面談以来だね。勝手に面談を中断されてしまった私は悲しくて今日まで夜しか眠れなかった。どうするんだね体調を崩してしまったら」
「寝過ぎるのは身体によくないみたいですから」
朝陽の返事を聞いて、倖田は目を丸くした。
「素晴らしい。まるで野々村くんのような切り返しだ。やはり私の機械作りの腕は優秀だ。機械に反抗期まで与えてしまうとは」
朝陽はそんな倖田をじっと見つめ、「あの」と言った。
「どうした?」
「お願いがあります」
倖田は「はっ」と笑った。
「私の話も聞かずに自分の要求を通そうとするなんて、随分神経が太いなあ。他の機械と同じ部品を使ったつもりだったけれど、どこかですり替わってしまったのかもしれない」
朝陽は倖田の台詞にリアクションを取ることなく、真面目な声で続けた。
「ぼくを直輝の相棒機械から外してください」
「ほう」
倖田は目をぎらりと光らせた。
「それで」
朝陽は一度言葉を切り、意を決して口を開く。
「鈴を、直輝の相棒にしていただけないでしょうか」
朝陽は頭を下げた。倖田は首を横に振った。
「鈴はまだ相棒機械の基準に到達していないよ」
「いえ。鈴は僕よりずっと相棒らしいと思います」
朝陽は力強く言い切った。倖田は「はあ」と額に手を当てて目を閉じる。
「なんてプライドのない発言だ。相棒機械として恥ずかしくないのかね」
「相棒機械の選定基準は人工知能の成長度合いだと知らされています」
「いかにも」
倖田は頷いた。
「鈴は今、家事専用機械を通じて成長していますよ。ご自身も先日おっしゃっておられましたね? 成長が早いと」
「そうだったかな」
倖田は首を傾げた。朝陽は構わず話を続ける。
「それに既に鈴は実質的には直輝の相棒機械の仕事をしていると思いますよ。肩書だけの相棒の僕よりもずっと直輝のことを想って、幸せにしたいと願っている」
「だから、今鈴に対して行われている範囲外業務には目を瞑れと言いたいのかな」
倖田は声を低くした。やはり、倖田は把握していたのだなと朝陽は思う。
「随分と勝手な話だ。君が今しているのは自分が業務を放棄していることへの言い訳だとは思わないかね?」
「僕は」
朝陽は一度言葉を切って、思い切って言った。
「人間が嫌いなんです」
「ほう」
「だから二人も面倒を見られません。一人ですら持て余します。倖田所長、ご存知ですか? 人間て本当に自分勝手なんですよ。機械に自分にもこなせないような業務を平気で押し付けておいて、出来なければ怒る。出来ても当たり前のような顔をして、何も言わない」
倖田は「ふ」と笑った。
「ようく知っているよ」
「たまには少しくらい機械の言うことを聞いてくれても、罰は当たらないと思いますけどね」




