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【白でも黒でもない】12

「いやあ大きくなったね。実際に成長しているわけではないが、こうして機体(ボディ)が大きくなっていくたびに感動してしまう」

 倖田は人差し指を目の下に当てて拭う仕草をした。実際には涙は一滴も流れていない。

「どうもありがとうございます」

 朝陽は一応頭を下げた。倖田はすぐに泣き真似をやめ、にやけたいつもの表情に戻った。

「最近困っていることはあるかな」

 倖田の問いに、朝陽は「いえありません」と即答した。少しでも間があればすぐに突っ込まれてしまう。困っていることなどあり過ぎて困るが、倖田には決して悟られたくない。

「ふうん」

 倖田はにやにやと朝陽の顔を覗き込んだ。朝陽は視線を一点に固定し、動かない。

藍美(ママ)は元気かな?」

「はい。元気です」

 藍美は相変わらず夜間外出を繰り返している。

 日中も出かけることが増えた。

 先日藍美が午後から美容院に行くといったので同行してみると、美容師機械(ロボット)が藍美を「家藤さん」ではなく「藍美さん」と呼ぶようになっていた。

 話を聞いた限りではどうやら藍美は美容師機械(ロボット)を通じて友人がたくさん出来たらしい。人間なのか機械(ロボット)なのか聞きたいが、その問いを切り出す適切なタイミングは未だに訪れていない。

 とにかく藍美は以前よりもスマートフォンを触っている時間が増えたし、外出の機会も増えたことでいきいきしているように見えた。

「報告すべきことはないかな?」

「ありません」

 倖田の試すような視線に応じず、朝陽はそれ以上口を開かない。

「では、直輝(パパ)は?」

「元気です」

 直輝は相変わらず鈴と仲が良い。

 最近では朝陽がいると分かっていても、気にせず鈴と二人で書斎に籠っている。

 朝陽は家にいるのが嫌になり、一人で外に出かけることが増えた。

 誰かの傍にいる為に作られた相棒機械(パートナーロボット)なのに、一人で過ごしている。

 相棒(パートナー)は二人とも、朝陽がいない方が楽しそうで幸せそうだ。

「先日、鈴の整備をしていて気付いたんだが」

 倖田は天井を見ながら顎に軽く手を当て、考える素振りをした。

「人工知能の成長が想定より早い。家藤家では随分丁寧に鈴との会話を楽しんでくれているようだ。このまま順調なら、相棒機械(パートナーロボット)の役職に就く日もそう遠くはないだろう」

 朝陽は鈴の顔を思い浮かべた。

 確かに最近は、会話をしていても多少表情の変化がみられるようになったし、声色も少しずつ変わるようになってきた。

 直輝はそんなに丁寧に鈴を教育しているのだろうか。朝陽に対しては全く興味を示さず、むしろ嫌悪感を隠そうともしない直輝がそうしている姿は想像が出来ない。

「鈴は、どうかな? 最近何か変わったことはないか?」

「よくやっていると思います」

 倖田は大きく溜息を吐いた。

「君達はみんなそれだ。直輝も藍美も同じように答える。そしてそれ以上のコメントをしようとしない。何か言いたくないことでもあるのかな?」

 朝陽は「いえ。特に何も」と答えた。

「では、質問を変えよう」

 倖田はこほん、と咳ばらいをした。

「鈴には毎日活動記録を残すように指示してある。鈴はほとんどの時間、直輝とばかり過ごしているようだ。これはどういうことかな?」

「直輝はぼくのことが嫌いなので」

 朝陽は倖田の目を見た。倖田は目を細めてじっと朝陽を見る。三秒ほどそのまま対峙した。

「だから、距離を取っている。そういうことか」

「はい」

「それで鈴は仕方なく直輝の相手をしている。家事専用機械(メイドロボット)の業務範囲を超えて、かな?」

 朝陽は拳をぎゅっと握った。仕方なく、ではない。鈴は喜んで直輝に仕えている。

「だったら、どうなんですか」

 朝陽はきっと倖田を睨んだ。

「別に鈴が主人に仕えることは悪いことじゃないでしょう。ぼくにこうして詰問をせずに、直接鈴に聞けばいい。ぼくは何も知らない」

 朝陽は立ち上がり、所長室を出た。

 廊下を走ってから振り返ったが、倖田は追いかけてくる気配がない。そのまま中央公社を出て、建物を見上げた。窓ガラスが光を反射してぎらぎらと圧迫感を放っている。

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