【白でも黒でもない】11
朝陽は一人で歩けるようになり、喋れるようになり、食べられるようになった。
ようやく生活上の不便さが軽減されて会話も円滑に出来るようになったことに、朝陽は安堵していた。藍美も嬉しそうだ。
肩の荷が下りたと感じたのか、藍美が一人で外出する機会が増えた。日中を朝陽と過ごし、夜になるとめかしこんで出かける。朝陽が「どこに行くの」と尋ねると「お友達のところ」と言って笑う。そして夜中に帰って来て、朝は遅い時間まで寝ている。
初めはリビングで鈴と遊んでいたのだが、直輝が朝陽を見かけるたびに「もう捨てられたのか。早いなあ。飽きられるのが」などと朝陽をせせら笑うので、朝陽は自室にこもることが増えた。
ヘッドホンをして、タブレットで海外ドラマを視聴して時間を潰した。書斎から聞こえる音を、もう聞きたくなかった。どうにも出来ないのであれば、せめて目を逸らしておきたい。
週に一度だった不在の日は、二回に増え、三回に増え、とうとう連日となった。
昨日も今日も朝陽の頭を撫でて藍美は出かけて行った。朝陽は「いってらっしゃい」と見送ったものの、このままでいいのかと頭を抱える。
せめて藍美の行先を知りたい。
鈴に聞いても知らないと答えるし、直輝は毎日「どこで遊び歩いてんだお前の母親は」と言うのだから、細かな情報など持ってはいないだろう。
悩んだ末、尾行してみることにした。
直輝は朝陽の不在など気付きもしないだろう。
音を立てずに玄関を出て、藍美に気付かれないようにその後ろを追う。
藍美はヒールの音をこつこつと響かせて歩き、近くの居酒屋に入って行った。賑やかな声が聞こえる。朝陽はそっとその隙間から中を覗く。
奥の座敷の方で、賑やかな声がした。そちらに視線を送って見ると、藍美が楽しそうに笑っている姿が見えた。複数人で談笑しているらしい。その中に、藍美がいつも通っている美容院の美容師機械を見かけた。
もっとよく中を覗こうとしたものの、中の店員機械と目があったので、会釈してその場を離れた。
一瞬だけ見えた藍美の顔が、朝陽の人工知能で繰り返し再生されている。 朝陽にはあんな顔をしたことはない。あんなに楽しそうな藍美の顔を、朝陽は見たことがない。




