【白でも黒でもない】7
朝陽の名を授かった相棒機械は順調に成長していた。
妊娠期間は短かったが、出産後は人間と同じ速度で成長する。現在の朝陽は、生後半年の機体を使用している。
こんなに短期間に何度も機体が代わるのは、朝陽にとって初めてだ。
最初は戸惑ったが、徐々に慣れた。これまでは成人型ばかりだったので、短い手足は新鮮で意味もなく動かしてみては目撃した藍美を喜ばせた。
不便なのは言語によるコミュニケーションが取れないことだった。
声を発することは出来ても、意味を持たせることは出来ない。相棒の言っていることは分かるのに、明確な返事をすることが出来ない。それはかなり苦痛だった。
鈴は機械なので通信によるコミュニケーションが取れた。
どうしても意図が伝わらないときは、鈴に頼んで誘導してもらう。
鈴はまだ相棒機械ほど器用ではないので、きちんと指示をしないと誤って伝えたりそもそも伝わらなかったりと多少の苦労はあったが、毎日暮らしていくうちに互いに慣れていき、今ではそれなりに息もあってきた、と朝陽は勝手に思っている。
大体のことが順調に進んでいる中で、朝陽が頭を抱えているのは直輝との関係だった。
「その目。その目が俺は気に入らないんだよなあ」
藍美のいないところで、直輝は朝陽に一方的に話しかける。朝陽は返事をすることが出来ず「あー」と言いながら直輝に手を伸ばした。
「やめろよ。そういう演技とかいらないから。第一俺はお前の育児に全く参加してないんだから、懐くのはおかしいだろ」
鈴が傍らに控えて、黙って朝陽のことを見ている。藍美が風呂に入って来る間、見ているように言いつけられているからだ。
「お前も」
直輝は鈴の方を見た。
「馬鹿正直に朝陽を見てなくていい。問題を起こすわけないだろ。機械なんだから。それより俺に珈琲をいれてくれ」
直輝はそれだけ言うと、書斎に戻ってしまった。
匿名性を保持することを条件に治験者の副業は禁じられていないので、直輝は個人投資家として日々の時間のほとんどをパソコンの前に座って過ごしている。
「朝陽様、申し訳ありません」
鈴が頭を下げ、キッチンへ向かう。
朝陽は直接通信で『気にするな』とメッセージを送った。
『鈴も大変だな。直輝は扱いにくいから』
朝陽が送ったメッセージに、すぐに鈴は『いいえ』と返してきた。
『直輝様は私に優しくしてくださいますよ』
朝陽は『別に気を遣う必要はない。本音を言ってもいい』と鈴を気遣ったが『本当です』と鈴は折れない。
『直輝様は、私のことを可愛いと言って褒めてくださいます。私の至らない部分も許していただいていますし、本当に優しい方なのです』
朝陽は『ならいいんだけど』と直接通信を打ち切った。
鈴は湯気の立った珈琲を持って直輝の書斎へと向かった。しばらく返ってこなかったので、何か他の用事を言いつけられているのだろうな、と朝陽は思った。
そのうち顔を上気させた藍美が帰って来て「朝陽ちゃーん」と言って朝陽を抱き上げたので、朝陽はきゃっきゃと笑い、喜んだ。その後も藍美が朝陽をしきりに構うので、鈴に感じた違和感は深く追求しなかった。




