【白でも黒でもない】6
「ああ。可愛がっているんじゃないか。藍美と鈴が」
面談室の椅子に座った直輝は他人事のように返事をした。
「直輝さんはいかがですか」
野々村が質問を変えると、直輝は「別にいいだろ」と表情を歪めた。
「俺が可愛がらなくても、家庭はうまくいってるよ」
藍美の言う通りだな、と野々村は思った。直輝は特に子供に興味はないようだ。
それなのに、直輝はこの治験場に来た。海外赴任と周囲に偽って。
野々村はその話をしていたときの倖田の顔を思い浮かべた。非常に嬉しそうに笑っていた。よほどの失敗をして、帰る場所を失った。きっとそういうことなのだろう。
「父親の気持ちにはなれませんか」
「正直に言うと、全然だな」
直輝はふん、と鼻で笑った。
「赤ん坊は精巧に出来てるよ。それは認める。でも俺は完璧であればあるほどああこいつ機械なんだよなって冷めるね。自分の子だなんて思えるはずがないじゃないか」
「そうですか」
実際に専用着衣を着たのは藍美だから、直輝と藍美の意識の相違は当然想定内であった。しかし直輝の場合は、それ以前の問題のような気もした。
「でもまあ、藍美も俺に父親になって欲しいわけじゃないと思うけどな。とにかく子供に夢中で、今となっては俺は邪魔者なくらいだ」
「分かりました」
野々村は頷いた。
「鈴はどうですか」
「……ああ。鈴はよくやってくれてるよ」
何かしらの否定が来ると思っていたが、直輝はそれ以上鈴について何も言わなかった。
「それじゃあ、もういいか」
直輝は野々村が返事をする前に立ち上がり、勝手に面談を打ち切った。野々村は何も言わず、直輝の去っていく背中をじっと見つめた。




