【白でも黒でもない】5
「どうですか」
野々村が問うと、藍美はしばらくもじもじとしてから「あの」とようやく口を開いた。
「やっぱり可愛いです。……私が産んだわけではないんですけど、やっぱり、一緒に暮らしているから似てきているような気もして」
野々村は「そうですか」と頷いた。
先日無事に新生児機械の引き渡しを終え、一週間が経った今日が藍美の専用着衣脱後初の面談だった。
「でも、あの、結構大変で……。三時間おきにきっかり泣くので、その都度哺乳瓶を用意して、ミルクを作って……。お陰で私、寝不足です」
そう言いながら藍美は「うふふ」と笑った。藍美は直輝の前ではあまり口を開かないが、野々村と二人の面談の時はこうして笑いもするし、普通に会話も成立する。
「ミルクは藍美さんがあげているのですか」
「はい。鈴も出来るんですけど、どっちかって言うと私がやりたいんです。本当にずっと子供が欲しかったので、この大変さも嬉しかったりなんかして」
藍美はにこにこしている。
「直輝さんは、育児に参加されていますか」
「ああ。あの人は」
藍美は首を横に振った。
「元々、実家から跡継ぎを作るようにってプレッシャーをかけられて子供が欲しいふりをしていただけですから。今となっては興味もないですし、別に私もそれでいいというか」
「そうですか」
藍美は「はい」と頷いた。
「でもすごいですよね。触ると暖かくて柔らかくて、機械だって忘れてしまうくらいなんです。今朝も、私の指を掴んで笑ってくれて」
藍美は興奮気味に語る。野々村は頷いて、「可愛いですか」と尋ねた。
「可愛いです」
藍美は即答した。
「私、治験場に来て良かったなあって思ってます。本当にありがとうございます」
藍美の目が潤んだ。野々村は「そうですか」と相槌を打つ。
「ご本人の体調などはいかがですか」
「私ですか? あ、うーん。寝不足なくらいですかね。やっぱり、体も軽くなりましたし」
藍美は終始にこにこしていて、とにかく話したくて仕方がない、と言った様子だった。
治験者はそれまでの人間関係をすべて断たれて治験場に来る。家藤夫婦も例外ではなかった。
今や藍美には子供の誕生を報告する相手もいない。野々村相手に饒舌になるのは、他に選択肢がないからなのかもしれない。
野々村が藍美の長話を聞いている間に、倖田が新生児機械の新しい機体への切り替え作業を行った。卵型機械を経由して、藍美に引き渡される。
問題なく切り替わった新しい機体はそれでもまだ小さく、藍美の腕の中にすっぽりと納まった。
「少し重くなったねえ」と幸せそうな口調で語りかけながら、藍美は面談を終えた。




