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【白でも黒でもない】4

 直輝と藍美の為に用意された新居は、中央公社の目と鼻の先、徒歩五分で到着するマンションの一室だった。

 このマンションは特別枠(わけあり)で、好待遇を要する治験者用に用意された住居であり、八階建てで各階一階(ワンフロア)の高級物件だ。

 野々村は白衣のまま中央公社を出て、日差しの眩しさに目を細めた。

 ほとんど室内に籠り切りであるから、日の光を浴びるのは久しぶりだ。じりじりと肌を刺す日差しに居心地の悪さを感じ、早足でマンションの陰に逃げ込んだ。

「ここか」

 野々村がカードキーで正面玄関を開錠する。後ろから直輝の声がした。

「五階です」

 しゅう、と開いたガラス扉を抜け、光を反射する明るいマンションの一階(エントランスホール)を通り、エレベーターに乗った。エレベーターの壁面がガラス張りになっていて、治験場()の景色が見える。藍美が首を伸ばして外の景色を見た。

 野々村は扉のすぐ横にある操作パネルを指差しながら、直輝に説明する。

「内側から外側は見えますが、外側からは見えない仕様になっています。高所恐怖症の方向けに、壁面のディスプレイを操作して外を見えなくすることも出来ます。説明書は部屋の中にひとまとめにしてあります」

 コーン、という上品な音と共にエレベーターの扉が開くと、すぐそこに扉がある。

 野々村は「後ほど声紋認証の登録をしてもらいますが、ひとまずは」と言ってカードキーを玄関脇の機械に差し込んだ。かちゃり、と鍵の開いた音がする。

 重い扉を開くと、明るい光がさあっと視界を照らした。三人が並んで入って尚スペースの余裕のある玄関は、天井の照明(シャンデリア)の光を反射して光っている。

 藍美は天井を見上げ、息を呑んだ。

 野々村は靴を脱ぎ、用意されていたスリッパをはいた。三つ並べられていたうちの、一番安価なものだ。ぺたぺたと音を立てながら廊下を歩き、扉を開く。

「おかえりなさいませ」

 大きなガラス窓からの光が差し込む広いリビングに、黒を基調としたメイド服を着た機械(ロボット)が頭を下げて待っていた。

「これからお世話になります、家事専用機械(メイドロボット)(すず)と申します。よろしくお願いします」

 さらりと光る黒髪に、切れ長の目。藍美と被らないよう調整された外見(デザイン)だ。

 直輝は鈴をしばらく見て「ああ。じゃあ、これ」と手に持っていた小さな鞄を手渡した。

「はい」と受け取った鈴に、直輝は「俺の部屋に置いといてくれ。あるんだろう。書斎が」と命じた。

「かしこまりました」

 鈴は頭を下げ、リビングの奥、ガラスの扉を開いてすぐ横の茶色い扉を開いた。

「こちらが書斎となっております」

 直輝はずんずんとそちらに歩く。中を覗き「意外と狭いな」と顔を(しか)めた。

「リビングを広めにとってありますからね」

 野々村の言葉に反応を返すことなく、直輝はがちゃりがちゃりと片っ端から部屋の扉を開けていく。

 藍美はその後ろから部屋の中を覗き込む。何も言わないが、頬は紅潮し、先ほどよりも目が輝いている。どうやら気に入ってもらえたようだ。

「では、ひとまずこれで失礼します。疑似妊娠(スーツ着用)の準備が整いましたら、僕に連絡をいただけますか。鈴に連絡端末(スマートフォン)を持たせてありますので」

 直輝は返事をしなかったが、藍美が首を少し前に出して会釈した。野々村は鈴に「じゃあ頼む」と言い残して家藤夫妻の新居を出た。

 ソファーや家具がたくさん置いてあり、装飾品の花瓶まで飾ってある豪華な部屋はとにかく落ち着かない。早くあの狭くて殺風景な自分の部屋に帰ろう、と野々村は思った。

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