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【白でも黒でもない】3

「藍美さんには疑似妊娠を体感していただきます。と言っても専用着衣(スーツ)を身に付けて生活していただくだけです。実物は後ほどお持ちしますが、これは着用日数に応じて膨らみ、重量が増えていきます。入浴により適宜給水していく形になりますので、出来れば毎日入浴してください」

「言われなくても藍美は綺麗好きだから大丈夫だよ」

 直輝は不機嫌そうに低い声で言う。

「そうですか」

 野々村の軽い返事に直輝は聞こえよがしに溜息を吐く。野々村は気にせず話を続けた。

「これは藍美さんの身体情報をもとに作られています。身体各部位を刺激して、血流を調整したり、身体能力を制限することもあります」

「わざわざ不便になるようなことをするのか」

 直輝は眉間にしわを寄せた。

「はい。これは妊娠体験により、出産対象となる機械(ロボット)に愛情を抱くことが出来るようにする仕組みです。ご不満なら断っていただいても構いませんが、この専用着衣(スーツ)の中に通信記録機器(メモリ)が含まれます。妊娠中に母親(藍美さん)が感じた音を出産予定日にお渡しする機械(ロボット)に送り続けます。へその緒で繋がるわけではありませんが、専用着衣(スーツ)を着たそのときからもう母子としての生活が始まるという仕組みになっています」

 直輝は机に手を乗せて軽く握り、人差し指でたんたん、と机を叩く。話の先を促されているのだと野々村は解釈した。

「あわせて妊娠体験中は薬も飲んでいただきます。これにより、妊娠初期の妊婦の体調不良を体験することが出来ます」

「副作用はないのか」

「まあ、体調を悪くするわけですから、目的自体が副作用といいますか」

「屁理屈は良い」

「後に残る影響はありません」

 直輝の人差し指がせわしなく動く。野々村は話を続ける。

「妊娠体験期間は三か月に短縮されております。負担は大分軽減されますね」

 藍美は俯いたままだった顔を少しだけ上げた。けれど言葉を発することはない。

「出産予定日にようやく専用着衣(スーツ)を脱げます。専用着衣(スーツ)は実際の胎児と同じくらい、最終的には三キロほどの重さになりますから、解放感があると思います。そして共に過ごした記憶(メモリ)を受信した人工知能を搭載した新生児機械(パートナーロボット)を手に抱いていただくと。それからは育児が始まります。実際の胎児と同じく、授乳の必要があります。哺乳瓶の消毒は必須です。機体()が小さい為、エネルギー補給は頻繁です。その都度内燃エネルギー(ミルク)を与えていただかないと動けなくなりますし、排泄物も適宜処理していただかないと装甲の薄い内部に侵食して故障してしまいます。壊れる(死ぬ)危険性も十分にあるのだと認識してください」

 ふう、と直輝がわざとらしく息を吐いた。

「手のかかる機械(ロボット)だ」

「人間の赤ちゃんも、手がかかるものだと聞いています。お二人はそのような苦労を望まれてきたのではないのですか?」

 直輝はぐっと息を呑んで、「うるさいな」と絞り出すように言った。

 藍美は「でも……」とか細い声を出して、おずおずと自身の右手を小さく胸のあたりまで上げた。

機械(ロボット)は、大きくなりませんよね?」

 野々村は「はい」と頷いた。

「定期検診があります。この島の治験者()には定期面談が義務付けられています。藍美さんと直輝さん(ご両親)が面談をしている間に、相棒機械(お子さん)整備(検診)をします。その際に機体(ボディパーツ)を少し大きくします。基本は全国の同世代の子供の平均身長になるように成長させますが、食事の環境、状態、内容の記録によっては個体差が出ます。身長が急に伸びたり太ったり痩せたりですね」

「お前達の采配次第ってことか」

 直輝はふん、と鼻を鳴らした。

「いえ。人工知能の成長度合いにもよりますから、僕達の一存であるとは限りません。とにかく、悔いのないように全力で子育てを体験して(味わって)いただければと思います」

 野々村は笑顔を作ったが、直輝に「なんだその変な顔は。馬鹿にしているのか」と言われたので元の顔に戻した。

「それから、今回は相棒(パートナー)補助(サポート)することが出来ませんし、ご要望もありましたので家事専用機械(メイド)をご用意しました。家事、育児を補助(サポート)します。話し相手としてもご活用ください。ただし、性的な補助セクシャリティサポートの機能はついておりません。くれぐれも性行為に及ぶことの(用途外の行為を求め)ないようにお願いします」

「は」直輝は嘲笑った。

「誰が好き好んで機械なんか抱くかよ」

 藍美は俯いて、目を閉じた。

「そうですか。なら、安心ですね。それでは、お二人の新居までご案内いたしましょう」

 野々村は立ち上がり、応接室の扉に手をかけた。

「愛想の悪いやつだ」と直輝が聞こえよがしに悪口を言っていたが、聞こえないふりをして扉を開けた。どっちがだ、という心の声は腹の奥底に飲み込んだ。

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