【白でも黒でもない】1
「わざわざ言わなくても分かっていると思うけれど」
倖田が視線を移動し、口角を上げた。
「今回が最後だ」
「分かっています」
項垂れた機械の仮機体にはまだ顔が入っていない。
自動生成AIが両親の容姿を元に構成した仮外見を、現在野々村が修正している。終了次第、機体に組み込まれることになる。
「分かってくれているなら良かった。生憎野々村くんの助手枠も埋まっているし、他の治験者も君では手に負えそうにない。白色乗用車か紺色自動車の運転手くらいしか空きがないな。そのときはもちろん記憶も全部消させてもらう。失敗した記憶ばかりを溜めておくのは記憶容量の無駄遣いだ」
野々村は機械の様子を窺う。表情がないので、細かな感情の変化は読み取れない。
「はい」
倖田は満足げにうんうんと頷いた。
「これでも私は機械達の幸せを願っている。君の場合はそうだな。不出来な子ほど可愛いとはよく言ったものだ」
機械は頭をぽりぽりと掻く仕草をした。髪の毛もないのでつるつるすべる表面を中指と人差し指で撫でるだけだ。
「私の激励は済んだ。こう見えて忙しいんでね。野々村くん、あとは頼むよ」
「分かりました」
野々村の返事を待たず、倖田は部屋の外へ歩いて行ってしまった。野々村はパソコンを操作しながら口を開く。
「きちんと胎内記録は送られてきていますか?」
「問題はありません」
「内容はどうですか」
「ほとんど雑音ですが、定期的に挨拶されたり話しかけられたりします。恐らくもう名前も決まっています。待ちきれない、といった感じでしょうか」
相棒として目の前に現れてこそいないものの、既に治験者と相棒機械は繋がっている。
治験者の腹部にかけられた声は、リアルタイムで相棒機械に届く。既に三か月近くの時間を共有している。
「期待されているようで、心苦しいです」
野々村は顔を上げ、機械の方を見た。
「私はまだ、どのように治験者と接すればいいのか迷っています。うまくやれる自信はありません」
野々村は「あと一週間です」と返した。機械は何も言わない。
「どれだけ考えたところで、あと一週間しかありません。大丈夫。あなたは倖田研究所が産んだ機械です。それだけで人間よりもよほど価値がある」
野々村はもう一度「大丈夫」と繰り返した。
「成功を祈っていますよ」




