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【あなたと私】16

 扉ががちゃりと開き、ぱっと電気がついた。

「こんな暗い部屋でお前は何してんだ」

 樹が呆れたような声を出した。このみはぱっと振り返り、樹の顔を見た。

「あの、私」

 言葉にしようとしたが、まとまらない。このみはそのまま口を開けて考えた。そうしているうちに「長い」と樹が言った。

「ちゃんと考えてから話せ。人工知能()を使うんだよ」

 このみは一度黙ると「ごめんなさい」と頭を下げた。

「何が」

 樹は腕を組んで、壁に寄りかかった。

「樹がなんで怒ってるか分からなくてごめんなさい」

 樹は何かを言いかけて、飲み込んだ。

「私、なんにも考えずにただ楓子の友達になりたい、人間(ひと)みたいな機械(ロボット)になりたいって自分の理想ばっかり求めてて、相棒機械(パートナーロボット)の責任の重さとか、大変さとかがちゃんと分かってなかった、んだと思う。多分、色々足りてなかった」

「うん」

 樹が頷いた。

「だから、今、考えてた。樹の言いたいこと、悩んでいること、怒っていることってなんだろうって」

「そうか」

「でも結局」

 そこでこのみに直接通信(コンタクト)が届いた。倖田からだった。

『至急中央公社に来るように』

 このみはふう、と息を吐いて立ち上がり「呼び出し」と樹に告げた。

「じゃあ、続きは帰って来てから聞いてやる」

 樹は口角を少しだけ上げて「気を付けて行ってこい」とこのみの背中をぽん、と押した。


 夜の中央公社は一階と二階だけが真っ暗で、正面入り口は閉鎖されている。裏口に回り直通のエレベーターに乗り、倖田研究所の最上階に向かう。

 大きな扉を開いて所長室に入ると、机に向かって作業をしていた倖田が顔を上げた。

「いらっしゃい。よく来たね。こんな時間に。さあ座って」

 このみは俯いて、面談の際にいつも座っているソファーに腰掛けた。倖田も向かいに座る。

「何か悩んでいることがあるんじゃないか?」

 倖田はソファーのひじ掛けに右ひじを置き、頬杖をついてにやにやとこのみを見た。

「いえあの」

「悩んでいるなら相談に乗ろう。これでも私は愛する機械(我が子)達の仕事ぶりなどは把握しているつもりだ。私達の研究の礎になってくれているのだからね」

 このみは「ありがとうございます」と返した。

「ここだけの話だが、どうも不穏な噂を耳にしてね」

 倖田は声の音量を落とし、身を乗り出して話を続ける。

「なんでもせっかく与えられた相棒機械(パートナーロボット)を取り換えて欲しいと抜かす治験者(やから)がいるらしいんだ。不愉快な話だとは思わないかね。治験者(人間)の分際で随分思い上がったことを言う。身の程知らずにもほどがある」

 倖田はいかにも不愉快そうに眉をひそめた。

「その治験者(身の程知らず)の周りには三体の優秀な機械(ロボット)を派遣しているらしい。私は正直困っている。悩みすぎて夜も眠れない。このままではそのうち病気になって死んでしまうかもしれない」

 大袈裟に嘆く倖田に、このみは何も言い返すことが出来ない。

「そこで私は考えた。私の健康と美容を維持する為に、三か月の猶予をもって今後を判断してはどうかと。それ以上は待てない。私が精神を病んで機械(ロボット)の管理が出来なくなることのないように、是非問題を解決してもらいたいと思うんだが」

 倖田はじっとこのみを見つめた。

「当事者達に伝えてくれないかね」

 このみは「はい」と小声で返事をし、立ち上がった。話が終わったと判断したからである。

 扉を開けるとき、倖田がこのみの背中に向かって声をかけた。

「せいぜい力を合わせて頑張って欲しいね。愚かな治験者(人間)の言いなりになるなんて恥ずかしい事態には決して陥らないように」

 このみは「失礼します」と言って所長室を出た。

 扉が閉まるとき、隙間から覗いた倖田の顔は笑っていた。

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