【あなたと私】15
「楓子、ちょっと話をしようよ」
悠真は楓子に声をかけた。
「話って、どういう?」
楓子は先ほど散歩から帰ってきて、今はゲームをしていた。
悠真が買い物に出てから調子が良くなったらしい。確かに少し体温も上昇しているし、顔色も良い。
「真面目な話」
画面の中でカウントダウンが始まり、試合が終わった。試合結果の発表を見ず、楓子はコントローラーを乱暴に投げた。
「そういうの、やだって言ってるじゃん」
楓子はぷい、とそっぽを向いた。悠真は「ごめん」と謝った。楓子はソファーの前に移動し、悠真に背を向けて右足と左足の間に膝を抱えて座る。悠真の左膝に頭を乗せた。
「でもたまには僕の言うことも聞いてよ」
悠真が言うと、楓子は心音を大きくして固まった。悠真の顔を見ることなく、返事をすることもない。
「楓子、僕のこと好き?」
「好きだよ」
楓子は即答した。
「僕のどこが好き?」
「優しいところ」
「それだけ?」
悠真は楓子の反応を窺う。楓子は「あたしのこと好きでいてくれるところ」と返した。
「そうだね。僕は楓子のことが大好きだよ」
楓子は唇を噛んだ。
「だから、僕以外の男に取られたくない」
楓子は背中をぴくりと震わせた。
「ねえ映画館で樹の手を握ったことあったよね。あれ、どうして?」
楓子はがば、と振り返り、悠真の顔を見上げた。
「間違えちゃったの。興奮してて」
「そっか。本当に? じゃあ、樹のことは、なんとも思ってない?」
悠真の言葉を聞きながら、楓子は震えた。
「なにそれ? ……何が言いたいの?」
「気持ちを確認したいだけだよ」
楓子は身体を起こし、低く長い溜息を吐いた。
「そんなこと、今更」
低い声で言い、途中で言葉を切る。
「このみでしょ」
「え? このみが、何を」
悠真の言葉を遮り、楓子は「このみが言ったんでしょ!」と叫んだ。
「誤魔化したって分かるんだから!」
「落ち着いて」と楓子の肩に手を置いた。楓子はその手を払う。
「そうだよね。あんたたち、似た者同士だもんね。いつから勝手に連絡取り合ってたの!」
「違う。そうじゃなくて」
「そうだよ! あたしは悠真のこと好きになれない! 悠真がどんだけ優しくしてくれても!」
悠真は楓子をまっすぐ見つめた。
楓子の息は荒く、その目に涙が溜まっていた。そして、悠真を睨んでいた。
「楓子」
悠真はしばらく思案した末、「分かった」と返事をした。
「今はそれでもいいよ」
楓子の眉がぴくりと動く。
「あのね、楓子、僕は」
悠真は震えた声を出す。
「楓子が好きなんだ。楓子のわがままはなんだって聞くよ。だからさ」
悠真は楓子の目を見てから、頭を下げた。
「僕の傍からいなくならないで。お願い」
楓子は口をぱくぱくさせて「そんなの、ずるい」と絞り出すように言った。
「僕は楓子のことが大好きなんだ。本当に、それだけなんだよ」
悠真は楓子の頭を優しく撫でた。
楓子は目に涙を溜めて立ち上がり、寝室へ行ってしまった。
悠真が扉の外で聴覚感度を上げると、楓子の泣き声が聞こえてきた。悲鳴のような鳴き声を聞き、ドアノブに手をかけようとしてやめた。
悠真は扉を背にして座り、楓子の泣き声が止むのを待った。




