【あなたと私】14
このみは数秒悩んだ結果、「でも」と言った。
「悠真が悲しむんじゃないかな。一回、話し合ってみたら……」
楓子は深く溜息を吐き、目を閉じた。
「本当に」
言いながら楓子は目を開けて、このみを睨んだ。
「このみって優等生だね。あんたにあたしの気持ちなんて分かんないんだね」
急に向けられた敵意に、このみは戸惑った。
「そんなこと出来るならとっくにしてるっつうの! てか、話し合ったからって何よ。機械なんだから、変われるわけないじゃん! あたしが悠真に何か言って、それを急に改善してきたとしたら、それはただの命令だよ! あたしはそんなことがしたいんじゃない!」
「楓子、落ち着いて」
「てか逆に、あんたなんでそんなに落ち着いていられるのよ。これだから優等生は嫌!」
「優等生?」
「だってそうじゃん。なんでも受け入れますよ、許しますよって顔して、このみはいっつもそう。黒い感情なんて全然知りませんみたいな顔してさ、あんた本当機械みたい。悠真そっくりだよ」
このみは目を丸くして、楓子の言葉を人工知能で再生した。
「別に何でもいいんだったらさ、樹を譲ってよ。悠真をあんたにあげるから。お似合いだよ。優等生同士で」
楓子は立ち上がり「それに」と言った。
「樹も可哀想。あんたといたら、全然自分らしくいられないと思うよ。きっとあたしみたいに、窮屈な思いしてると思う」
呆然とするこのみの膝の上にタオルハンカチをぽんと放り、楓子は「じゃあ、考えといて」と言って立ち去った。
取り残されたこのみはすぐに立ち上がらず、しばらくその場に座っていた。
日が暮れてから立ち上がり、家までとぼとぼと歩いた。
途中に転がっていた大きな石に気付かずに躓いて前に倒れ、手のひらを地面についた。進行方向を見ていなかった。
このみは深く溜息を吐く。
どうして自分はこうなんだろう。一つのことに集中すると、他の動作がおろそかになってしまう。
立ち上がり、歩き出す。階段を上り、廊下を歩くときに楓子の部屋の扉を見た。切なくなって目を逸らした。玄関を開けて自室に籠る。リビングには樹がいる。今は樹と目を合わせたくなかった。
電気をつけずに本棚の前に進み、膝を抱えて座る。お気に入りの漫画の背表紙を見つめる。内容はすべて記憶しているので、読まなくてもすぐに再生出来る。
どうして楓子はあんなに怒ったのだろう。
このみはいつも読んでいる漫画を手に取り、適当にページを開いた。機械と少年は喧嘩をしていた。互いの不満をぶつけあって、涙目で拳を振りかざしている。次のページをめくれば喧嘩などなかったかのように仲の良い日常が戻ってきている。
明日になれば、楓子とこのみは何事もなかったかのようにいつも通りの関係に戻れるだろうか。
このみは本棚に漫画を戻してまた膝を抱えて丸くなった。
そんなわけがないことは、考えなくても分かることだった。




