【あなたと私】12
「違うよ。どうして悠真はあたしのこと分かってくれないの」
楓子は頬を膨らませ、ぷいとそっぽを向いた。
「ごめん」
悠真はすぐに謝ったが、楓子の機嫌は直らない。
「確かにあたし甘いもの食べたいって言ったけど、洋菓子系じゃなくて和菓子系の気分だったの。生クリームとか今は食べたくない」
「そっか。ごめん。じゃあ、もう一度買ってくるよ」
悠真が玄関の方へ行こうとすると「ちーがーうよお」と楓子はソファーに横になり手足をばたばたとさせる。
「もういいから横にいてよ。なんであたしのこと一人にすんの?」
「あ、うん。ごめん」
悠真はソファーの方へと戻る。楓子が頭を持ち上げたので、そこに足を入れ、楓子の頭を撫でた。
「あたしのこと、わがままだって思ってるでしょ」
楓子は悠真をきっと睨んだ。
「そんなことないよ」
悠真はすぐに否定する。ここで逡巡すると楓子の機嫌が余計に悪くなることを知っているからだ。
「嘘。だってあたし、わがままだもん。なんで悠真はあたしにそんな嘘吐くのお」
楓子は身体の向きを変え、顔を悠真の腹に埋めた。右手で悠真の脇腹をぼすんと殴る。
「嘘なんかついてないよ。僕は楓子のことわがままだなんて思わない」
悠真がきっぱり言い切ると、楓子は顔を腹から離して潤んだ瞳を悠真に向けた。
「本当?」
「本当」
「あたしね、不安なの。みんなあたしに優しくしてくれるけど、本当はあたしのことなんか好きじゃなくて、嘘ばっかりなんじゃないかなって」
「そんな」
「だってあたし、本当性格悪いもん。悠真だって、機械じゃなかったらきっとあたしのことなんか好きじゃないよ」
楓子の顔をしっかり見て、悠真は静かに言った。
「そんなことないよ。僕は楓子のこと以外、考えられない」
「悠真……」
「楓子もそうだと、嬉しいんだけどな」
悠真は微笑んだ。楓子はしばらく悠真を見つめていたが、やがて目を逸らした。
翌日、悠真は生理痛が酷いと言う楓子を家に残して、買い物の為に家を出た。
楓子は一人でいることを好まない。いつもなら「傍にいて」と言うのだが、今日は「買い物行ってきて」と不機嫌な声で悠真に命じた。
ベッドで横になった楓子はじっと動かない。悠真が顔を覗き込んでも、楓子は悠真から目を逸らした。
「じゃあ、行ってくるからね」
悠真は楓子の頭を優しく撫でる。楓子は首を縦に振り、目を閉じた。
外に出ると雨が降っていた。
先ほど呼んだ白色乗用車がもうアパートの前に止まっていた。後部座席の扉が開く。
座席の奥から「よう」という声がした。樹が既に、白色乗用車に乗っていた。
「話がしたくてさ」
悠真は「うん」と言いながら樹の隣に座り、シートベルトを締めた。
「商店街まで」
悠真の言葉を聞き、運転手は頷いた。車が走り出す。
「通信でも良かったんじゃない?」
悠真の言葉に、樹は首を横に振る。
「やっぱり直接話した方がいいかと思って」
樹はいつもの不機嫌そうな顔ではなかった。少し、口の端が上がっている。




