【あなたと私】10
「相棒機械って、交換出来ないんですかね」
楓子はずい、と身体を前に出した。
「交換、ですか。相棒機械になにか不満があるということですか」
思わず、野々村の声が一段低くなった。
「いや、不満とかじゃないんですけど」
「不満はないけど、交換したい?」
「あたしたちの問題じゃなくて。隣に住んでる二人のことなんですけど」
楓子は困った顔をし、声をひそめた。
「あの二人、あんまりうまくいってないような気がするんです」
「あの二人、ですか」
野々村は低い声のまま相槌を打つ。傍らには助手の卵型の機械が静かに控えている。
「そう。樹とこのみなんですけど、樹、最近ちょっと変なんです。暗いというか。このみも言いづらそうにしてること多くて。見てるとちょっと元気ないみたいだし」
「元気がない、ですか」
「なんにもしてくれないらしくて。家事も全部このみばっかりやってて、一日中テレビに夢中らしいんです。このみのこと全然好きそうじゃないし、態度にも出さないらしいんです。一回も好きだって言われたことないなんて、おかしくないですか」
「ふむ」
野々村は卵型の機械の頭の上に右手を置いた。
数秒後、機械の頭頂部がちかちかと白い光を放ち、すぐに消えた。
無事、卵型機械視点映像を倖田と悠真に映像接続送信したようだ。野々村は卵型機械から手を離した。
「このみって、遠慮深いから多分自分からは言えないと思うんですよ。だからあたし、友人として心配で」
「そうですか」
野々村の顔を、楓子はじっと見つめる。
「もし、相棒機械と相性が悪かった場合って、どうなるんですか」
「その場合は、まず相互努力してもらいます。それでも駄目なら交換、という選択肢も入って来るかもしれません」
楓子は頷き、それから上目遣いで口を開いた。
「あの、交換された機械って、別の誰かの相棒になるんですか」
「まあ、そうですね。機械も無限にいるわけではないので、記憶消去して、再度任務に当たってもらうか、相棒ではない別の職に就いて、一度人工知能の成熟度の見直しを図る可能性もあります」
「記憶消去」
楓子はぽつりと繰り返した。
「記憶消去されちゃうんですか」
「はい。基本的には」
楓子は唇を噛んで「だったら」と苦しそうに言った。
「近い機械と交換って出来ないんですか。例えば悠真と」
「悠真と、樹をですか」
野々村は目を細めた。
「それなら、円満に解決しますよね。記憶消去もしなくて済むし」
「もう一度確認しますが」
野々村はふう、と息を吐いてから口を開く。
「悠真に不満はないんですよね?」
「ないです」
楓子ははっきりと野々村の目を見て答えた。
「分かりました。それでは検討しておきます」
野々村が面談を終わらせようとしたとき「あの」と楓子は慌てたように言った。
「今言ったこと、誰にも言わないでください。悠真にも樹にもこのみにも。あたし本当にこのみのことが心配なだけなんです」
後半になるにつれどんどん小声になり、最後は俯いて目元に手の甲を当てた楓子に、野々村は「分かりました」と答えた。なるべく感情を出さないように、静かに続けた。
「それでは、お疲れ様でした。今日の面談は、これで終了です」




