【あなたと私】7
「お前、もうちょっとわがままになれよ」
樹は眉間に皺を寄せて言う。
「そんなこと言われても」
先ほど悠真から共有情報で送られてきた映像を、二人で確認したばかりだった。
「疑われてんじゃねえかよ」
「いやそこまでではなかった、はず」
このみは眼鏡のふちをくい、と持ち上げた。
正直、楓子が自分に抱いている印象が悪いものだとは思えないし、正体がばれているとも断定出来ない。でも、どうやら今の状態は好ましくないと樹は判断しているようだ。
「結局、人間は自分勝手なんだよ。隙のない機械と一緒にいると、勝手に劣等感を抱く」
「なるほど。劣等感」
「実際お前は隙だらけなのにな」
「お恥ずかしい限りです」
このみは先ほど焦がした目玉焼きを前に肩をすくめた。
樹はちらりとこのみの皿に目をやると、被害の軽い自分の皿の目玉焼きの黄身を崩した。下の焼きそばにとろりと黄身が染みていく。
「どうしてこうなるんだ。機械なんだから時間と作業手順は間違わないはずだろう」
「ちょっと他のことをしてたら、時間過ぎちゃってて」
「他のこと?」
「あの、ドラマが気になって」
「余所見してただけじゃねえか」
樹が見ていたドラマの犯人確保のシーンが白熱していて、キッチンから画面を見ていたら、目玉焼きが焦げていた。
「面白かったから」
「あれは確かに面白いよな。分かる」
樹はうんうんと頷きながら焼きそばを口に運ぶ。このみも箸を手に取り、目玉焼きの黄身に箸の先で触れた。固まった黄身はびくともしない。
「でもお前、全然人間らしいけどなあ」
樹は少し上を向いて言った。
このみは思わず「本当?」とテーブルに手を付いて身を乗り出した。
「落ち着け」
「はい」
言われた通り大人しく椅子に座り直した。
「ほら。そういう興奮しやすいところも、好きなものがはっきりしたところも、すごく人間らしい」
このみは「うふふ」と笑った。
「嬉しいのか?」
樹は怪訝そうな顔をして尋ねる。
「それはもう。私、限りなく人間に近付くのが夢なので」
このみはうんうん、と頷いた。
樹は箸を置き「それはどうかな」と言った。
「うん?」
「人間は勝手だぞ。憧れる価値のあるもんじゃない」
「え」
「なんか、そこがお前に足りないんだろうな。だから楓子も違和感を感じてる」
「そこって、どこ?」
「さあな、自分で探せ」
樹はまた箸を手に取り食事に戻った。
樹の言うことは、いつも難しい。
このみは首を傾げながら、固まった黄身を丸ごと口へ運んだ。




