【あなたと私】6
「あ。うっそ。ちょっと待って」
ゲームのコントローラーを持った楓子が、テレビ画面に向かって呟く。
「あー。だから、待ってって。ちょっと。あーあ」
画面では楓子の使用しているキャラクターが倒れていた。
楓子は最近、オンライン対戦ゲームにはまっていた。見知らぬ相手とチームを組んで戦うゲームだ。
楓子の操作キャラクターは復活したが、試合終了のカウントダウンが始まった。楓子はコントローラーを放り、「もー」と口を尖らせた。
「なんで何もしなかったの?」
横で見ていた悠真が問うと「だって」と楓子は頬を膨らませた。
「どうせ負けるし」
「そうなの?」
「そうだよ。ちょっと悪あがきしたところでもううちのチームは惨敗って感じ。全然連携取れてないんだもん」
先ほどの視覚情報を再生する限り、他にいくつも敗因はあるように感じた。しかしそのことには触れずに、悠真は「そうなんだ」と頷いた。
楓子はゲームを終了し、「あー」と言いながら左に倒れて悠真の膝の上に頭を乗せた。身体を仰向けにして足もソファーの上に乗せる。下から悠真を見て「勝てない」と言った。
「難しいんだねえ」
悠真は顔にかかった楓子の髪の毛を避け、頭を撫でた。
「そうなの。あたし単体だと超強いの。ストーリーモードとか圧勝なんだけど、チーム戦になると全然勝てない。みんな全然弱いんだもん。どうして参戦してくるのかね」
「足を引っ張られてるんだね」
「そうだよ。あたしがいなければもっと負けてたよ。みんな自分の役割を分かってない」
「役割?」
「そう。射程距離とか役割とかあるのに、それを理解せずに突っ込んでいく馬鹿が多すぎ。本当みんな頭悪いんだから」
「そっかあ」
悠真は緩やかに相槌を打ち、目を細めて楓子を見た。
「楓子、大変だねえ」
楓子は悠真の背中に腕をまわし、腹のあたりに顔を埋めた。
「でもこういうこと言うと、嫌われる。悠真もあたしのこと、性格悪いって思ったでしょ」
「思わないよ。楓子は正直で格好良いじゃない」
「本当?」
楓子は上目づかいで悠真の顔を見た。悠真は楓子を見つめ返して、微笑んで頷く。
「僕は楓子のそういう素直なところが好きなんだ」
「もう」
楓子は唇を噛んで視線を外し、それからはっとして悠真に問う。
「ねえ、相棒機械ってみんなそういうこと言うように設定されてるの?」
「そういうこと?」
「そう。好きだとか可愛いとか、悠真が良く言うこと」
「別に設定されてるわけじゃないよ。ただ楓子のことを思うと自然とそういう言葉が浮かぶんだ」
「ふうんじゃあさ」
楓子はまた後頭部を悠真の膝の上に乗せ、「樹は相棒失格なんだね」と言った。
「そうかな?」
「だってこのみ、全然好きだとか愛してるとか言われないらしいよ。このみも樹にそういう感情抱いてないっぽいし」
「そうなんだ」
「それにさ、悠真みたいに家事とか全然協力してくれないって。話聞いてると、いっつもこのみが働いてる。普通機械の方がするもんなんじゃないの? このみって昔から体が弱くて、やっと良くなったと思ったらお母さんが死んで、再婚する父親のところに居場所もなくて治験場に来たって言ってたじゃん。だったら普通はさ、余計大事にしない? 体の弱い彼女にさ、そういうことさせなくない?」
「うーん。そうかもねえ」
楓子は「そうだよ」と言った。
「それに、このみのことってあたしよく分かんない」
ぐるん、と体の向きを変え、楓子はうつぶせになった。悠真の膝に顎を乗せ、指先を弄びながら「だあってさあ」と言葉を続ける。
「このみって全然人の悪口言わないし、いっつも笑ってるし、なんかちょっと変。どっちかって言うとこのみが機械みたい。だって悠真にちょっと似てるもん」
「僕に?」
「そう。樹の方がずっと人間みたい。わがままで、自分勝手で、マイペースで、だけどその裏で、本当はいろいろ考えてる」
楓子は一度言葉を切ってふう、と息を吐いた。
「まるであたしみたい」




