【あなたと私】5
このみと楓子の交流は順調だった。
楓子は頻繁にこのみの部屋を訪ねてきて、そのまま滞在した。
このみはもちろん歓迎し、お茶を飲みながら下らない話しをしたり、一緒に買い物に出かけたりした。
「あたしたち今、青春なんだよ」
楓子はそう言って、十六歳の一日がいかに貴重なものであるかをこのみに説いた。
このみには、年齢によって一日の価値が変わるという感覚がよく分からない。しかし、外見年齢は楓子とさほど変わらないのだから、同調を示すことが適切だと判断し、頷いた。楓子は気分を良くしたようで、「だよねー」と笑った。
「ねえ、悠真もそう思わない?」
楓子は同意が欲しいとき、悠真に話しかけた。
悠真はいつも楓子の傍に静かに控えていて、あまり自主的に発言することはない。
「うん。楓子の言う通りだ」
微笑んで頷く悠真を見て、楓子は「やっぱり」と満足そうに鼻の穴を広げてこのみを見た。それからテレビに夢中な樹に向け、聞こえるように嫌味を言った。
「十代女子の青春だって言うのに、テレビばっかり見てる彼氏ってどうかと思うけどねえ」
樹は全く無反応で、ドラマに集中している。
「ねえこのみ」
話を振られたこのみは「でも」と言った。
「樹はあのドラマが好きなんだよ」
海外の刑事ドラマが最近の樹のお気に入りだ。テレビで見て気に入ってからというもの、動画配信で一話から見直している。放っておけばずっと画面に集中している。
「でもさあ、うーん」
楓子はつまらなさそうに天井を見上げ「よし」と言った。
「じゃあ、出掛けよ。家にいるからあんな感じなんでしょあの人」
楓子はそう言うと座っていたソファーから少し尻を浮かせてテーブルの上のリモコンを手にした。画面に向けて停止ボタンを押す。
「あ」
激しい銃撃戦の場面で画面の俳優と一緒に一時停止した樹に向けて、楓子は「このみが出かけたいって言ってるよ」としれっと嘘を吐いた。
樹は「はいはい」と立ち上がり、「で、どこに?」とこのみに尋ねる。このみは視線を泳がせ、最終的に楓子の顔を見た。
「お買い物したいって」
「どこで?」
「商業施設?」
「別にいいけど、なんでお前が返事するんだよ」
樹は楓子をちらりと見て、すぐに視線を逸らした。
「遠慮がちな彼女が可哀想だったから、心の声を通訳してあげたの」
楓子はふん、と樹から顔を逸らし、「行こ」とこのみの手を引いて玄関へ向かった。
このみが歩きながら振り返ると、悠真はスマートフォンを取り出して白色乗用車の手配をしながら立ち上がった。樹は頭をぽりぽりと掻きながら、名残惜しそうにテレビの画面を見ていた。
商業施設で買い物と食事を済ませたあと、二人は女子トイレに立ち寄った。
手を洗っているこのみに、楓子が「ねえ」と話しかけた。
「このみ、樹のこと好き?」
「え? 急にどうしたの」
このみは目を丸くした。それ以上の言葉が出てこなかった。
「いや。だってさ、樹って勝手じゃん。自己中って言うか、あんまりこのみに尽くそうっていう姿勢も見られないしさ」
「まあ、マイペース、ではあるかな」
少し迷ってから返事をし、鞄の中に入っていたハンドタオルで手を拭く。楓子は濡れた手のひらをぴっぴっと払いながら「悠真はいいよお」と言った。
「だってなんでも言うこと聞いてくれるしね。あたしが言わなくても、あたしの言いたいことを察するって言うかさ」
「ああ、うん。悠真は優しいよね」
楓子に献身的に尽くす悠真の姿を思い浮かべて、このみは頷いた。
「優しいって言うか、当然だよね」
鏡に映る自分の前髪の位置を少し調整しながら、楓子はふん、と鼻を鳴らした。
「当然?」
「だって悠真は機械だから。ご主人様であるあたしの言うことを聞くのは当然じゃない?」
「ご主人様……」
このみは少し考えて「でも、悠真は彼氏でしょ」と言った。
「恋愛対象って言われると微妙じゃない? あたしって逆に尽くしたいタイプだからさ。悠真は元彼にそっくりだけど、中身は全然違う。まあ、一緒に暮らしてて、楽っちゃ楽だから、特に不満はないけど」
返すべき言葉が分からず、このみは黙って楓子を見る。
「でもときどき、恋愛してー! って思うことあるよ。だってあたしたち、青春真っ盛りだからね」
楓子は「ふふ」と嬉しそうに笑うと、「行こ」とこのみの手を引いて歩き出した。
このみの頭の中に、先ほどの「ご主人様」が処理出来ずに引っ掛かっている。




