【あなたと私】4
隣室にも同じ境遇の治験者と機械が同棲していると聞いて、楓子は「友達になれるかなあ」と悠真に聞いた。
悠真は「大丈夫だよ」と答えた。そしてすぐに、「これはここでいい?」と確認した。
楓子はこだわりが強く、「これだけは譲れない」というものが多い。ぬいぐるみ一つとっても、並び順が決まっているらしい。悠真はいちいち楓子に尋ねながら、段ボールから取り出した荷物を丁寧に並べていく。
「あ。引っ越しの挨拶とかって、するべきなの? あたし全然そういうの考えてなかったけど、なんか手土産とかっているのかな?」
楓子はコレクションボードの中に、花瓶と黒い薔薇を飾った。黒薔薇はガラスで出来ていて、きらきらと光っている。角度が気に入らないらしく、細かく調整を繰り返す。
「別にそんなに気にしなくてもいいと思うけどね」
悠真は段ボールから緩衝材に包まれたティーポットとカップを取り出した。
「これ、どこ?」
「あ、こっち」
楓子はティーポットとカップを黒薔薇の花瓶の横に飾った。またしても角度の調整をしている。こんな調子だから、荷解きがなかなか終わらない。
「じゃあ、なんか買いに行こうか。挨拶あんまり遅いと感じ悪いよね。これからの関係に響いたら嫌だし」
楓子は作業を中断し、立ち上がった。
「え。でもまだ終わってないよ」
「別に帰って来てからまたやればいいし。隣の人、どんな感じか気になるもん」
悠真は作業を中断することに躊躇いを覚えた。やり始めた作業をやり終えてしまいたい衝動を抑え、玄関へ歩いて行ってしまった楓子の後を追う。
「ここでいいかなあ」
アパート一階のコンビニに入り、楓子が立ち止まったのはスイーツコーナーだった。
「ネットでなんかお取り寄せとかしてさ、とりあえず今日のところはこのケーキだけ持っていくってのはどう?」
「別にいいと思うけど」
悠真の返事を最後まで聞かず、楓子はカップに入ったチョコレートケーキとショートケーキを手に取り、レジに並んだ。会計を済ませると、エレベーターに乗り、四階まで上がる。悠真はずっと後ろを歩いていた。
楓子が隣室のインターフォンを押すと、「はい!」と勢いの良い返事が聞こえて、「隣に引っ越して来ました」と楓子が言いかけているうちに玄関の扉が開いた。
「初めまして!」
楓子は目を丸くして、少し後ずさりをした。
「お隣さんですね! よろしくお願いします! 同い年くらいですか? 私ここに友達いなくって、良かったら友達になってくれると嬉しいです!」
このみは一息に喋って、右手を差し出して頭を下げた。楓子は数秒固まった後、「ふふ」と笑った。
「こちらこそよろしくお願いします」
楓子が右手を握ると、このみは顔を上げ、きらきらとした目で楓子を見た。
このみの後ろに立つ樹と目が合う。樹が軽く首を下げたので、悠真も会釈を返した。樹が軽く溜息を吐いたのを、悠真は見逃さなかった。




