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【朝が来る】2

 面接に現れた中年男性は、報告書の記述通りだった。

 いかにも急拵えの皺のついたスーツのポケットからはちらりとタグが覗いている。大方、駅前の量販店で買い揃えたに違いない。足元は薄汚れた白いスニーカーだった。

「それでは、面接を始めます」

「よ、よろしくお願いします」

 野々村(ののむら)は画面の向こうの男と目を合わせようとした。しかし、男の視線は落ち着かず、あちこちへ飛ぶ。

「私、面接を担当させていただきます、倖田(こうだ)研究所の野々村と申します。よろしくお願いします」

 画面の向こうで面接の相手、海老原洋二が頭を下げた。毛髪が薄くなった頭頂部がアップになる。

「顔を上げてください」

 洋二は言われた通り頭を上げた。畏まっているつもりかもしれないが、その背筋は丸まっている。不健康な生活が姿勢に表れているのだな、と野々村は思った。

「それでは、お渡ししたタブレットで、概要をご確認ください。今回の治験は、国の福祉支援制度の一環として行われています。生活保障も含まれていますので、その点はご安心ください」

 洋二は目の前のタブレットを手に取り、ごくりと喉を鳴らした。

 必要以上に力をこめて、人差し指で画面に触れる。

「本治験は国の認可を受けた福祉適応プログラムです。当研究所はその委託運営を行っています。参加はいつでも辞退出来ますが、辞退後は保護手続きの都合で退去に時間がかかります」

 面接場所はカラオケ店の一室だった。互いに設置されたカメラ越しに向き合っている。

 野々村は職場(ここ)を離れられない。直接会うことは出来ない。

 この面接は最終確認に近い。採否は既に統計的に決まっていた。海老原洋二は、倖田研究所が望む条件を満たしている。

「治験」

 洋二が画面の向こうで独り言を呟き、唇を噛んだ。野々村は頷いた。

 海老原洋二は治験者だ。

 倖田研究所が作り上げた治験場()で、機械と暮らし、その情報(データ)を提供する。それが彼の役割だった。

「福祉適応治験です」

 野々村の言葉と同時に、洋二が顔を上げた。

「あの、これ」

 洋二はカメラに不安そうな顔を見せ、もごもごと続ける。

「この給料とか待遇って、本当ですか?」

 疑うのも無理はない。今まで洋二が就いてきた職よりも、何倍も良い条件のはずだった。

「間違いないです」

 野々村が言い切ると、洋二はほっとした顔を見せた。

「他に質問はありますか?」

 洋二は首を横に振り、「ないです」と答えた。

「それでは、同意欄にチェックを入れて、次の画面に進んでください。次からは質問に答えていただく形になります。深く考えず、正直にお答えください」

 洋二はまた、タブレットに視線を落とした。

 野々村は洋二から送られてくる回答をリアルタイムで反映した情報をパソコンの画面で確認する。その情報を元に、相棒パートナーとなる機械ロボットの外見や性格が決まる。

 野々村の脇に控える白い卵型の機械が、内蔵カメラのレンズ(視界)を野々村のパソコンに固定し、じっと画面の遷移を見ている。

「ええと、好みの女性のタイプ、とは」

 洋二がまた情けない声を出し、顔を上げる。

「先ほど同意した説明文に明記してあったと思いますが、海老原さんには人間(ひと)機械(ロボット)と同居していただきます。外見の制限などは特にないので、好みをお伺いしています。深く考えず、正直にお答えください」

「はい、すいません」

 洋二は頭を下げ、タブレットに顔を向けた。背中を丸めて小さくなる洋二がタブレットに夢中になっているのを確認し、野々村はマイクをオフにした。小声で卵型の機械に話しかける。

「君の相手は、少し反応が鈍いようですね」

 卵型の機械は、頭頂部のライトをちかちかと点滅させ、野々村の言葉に反応した。

「適性がある、ということでしょう」

 野々村はふ、と少しだけ口の端を上げ、画面の向こうの洋二に視線を戻した。卵型の機械は点滅するのをやめ、静かに洋二の回答を追った。


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