【あなたと私】2
悠真が面談室で顔を合わせたとき、楓子は目を丸くして固まった。その口から「コウ……」という呟きが漏れたのを、悠真の聴覚が捉えた。
「よろしくお願いします。悠真です」
悠真の声を聞き「声はちょっと違うみたい」と楓子は言った。
「でも、そっくり」
楓子は目を丸くしたまま、しげしげと悠真を見る。
悠真の外見は、楓子の強い要望で、元恋人、成瀬聖の外見を模している。
「あ。初めまして。あたし、楓子。石出楓子。楓子って呼んで」
「はい。分かりました」
悠真の返事に、楓子は首をぶんぶんと横に振った。
「敬語はやめて。あたしそういうの苦手なの」
悠真は言語モードを切り替えて「分かった」と返事をした。楓子はにっこりと笑うと「完璧」と満足げに頷いた。
野々村の説明を終え、中央公社を出て白色乗用車に乗った。
楓子は興味深そうに外を眺め、ときどきスマートフォンで写真を撮った。
スマートフォンを掲げる左手首に横並びの傷跡が見えた。悠真は見ないふりをして、「いい天気だね」と言った。楓子は頬を赤くして頷いた。
二人の部屋は、島の東側のアパートの四階の角部屋だった。
「わあ。綺麗だね」
楓子は目を輝かせた。
「治験とか言うからもっとボロボロの部屋に住まわされるのかと思ったよ」
ぺろりと舌を出した楓子に、悠真は笑顔の表情パターンを選び、「そっちの方が良かった?」と問う。「やだ」と即答して、楓子は笑った。
エレベーターで四階に上り、悠真が部屋の鍵を開ける。
楓子は待ちきれない様子で靴を脱ぎ、廊下に並ぶ扉を片っ端から開けた。
廊下の突き当たりの扉を開けると、広いリビングとダイニングがあり、奥の大きなガラス窓から海が見えた。
「海!」
楓子は目を輝かせて窓に駆け寄り、外を見た。窓を開けると風が吹き込んで、「うわ」と言いながら目を細めた。
「いいじゃんいいじゃん。あたし、海の見える家に住むの、夢だったんだよねー」
楓子は嬉しそうに言い、スマートフォンを取り出して写真を撮った。
「写真撮るの、好き?」
悠真が後ろから声をかけると「うん。大好き」と言って悠真の顔にレンズを向けた。
「だってさ、写真で残しとけば、後から何回でも見返せるじゃない。楽しかったときのこと」
言いながら悠真の写真を何枚も撮る。シャッターの音が響く。
「格好良く撮れた」
楓子は満足げに言って、悠真に写真を見せた。
「うん。ありがとう」と返事はしたものの、格好良く映っているかどうかの評価は生成されなかった。ただ自分を映した写真である、という以上の感想はない。
楓子は悠真に顔を寄せて、インカメラにして写真を撮った。
「ふふふ。同棲初日の記念写真」
二人並んだ写真が楓子のスマートフォンに表示されていた。悠真と楓子が映っているだけの写真だったが、楓子はその写真を嬉しそうににやにやと眺めていた。




