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【あなたと私】1

 段ボールから取り出した漫画本を、棚に綺麗に並べていく。

 未来の国から来た機械(ロボット)が冴えない少年の友達として力を合わせたり喧嘩をしたりするこのお話が、このみは好きだった。自分も似た境遇になることが、少し嬉しかった。

 漫画本の横にはDVDを並べる。綺麗に棚に収まったお気に入りの私物を見て頷き、空になった段ボールを潰した。

 今日からここが、このみの家だ。

 漫画の中で何度も見た「帰る場所」という言葉が思い浮かんだ。

 同居人の(いつき)も、隣の部屋で段ボールを開けている。

 家には家具と家電が備え付けられていたので、作業はすぐ終わり、二人はリビングで顔を合わせた。

 このみは今回初めて相棒機械(パートナーロボット)の任に就く新米で、樹は以前治験者と暮らした経験者だった。だから自然と、このみが教えを請う形となるだろうと判断していた。

 二人は明日隣室に引っ越して来る治験者の相棒(パートナー)となる機械(ロボット)だった。

 今回はもう一人、主相棒(メインパートナー)となる悠真(ゆうま)を合わせて三人で任に当たる予定だった。治験者の彼氏役の悠真、友人役のこのみ、その相棒(パートナー)役の樹。

「俺はあまり治験者と接する気はない」

 樹はこのみと目を合わせず、そう宣言した。

 せっかく相棒(パートナー)に選ばれたのにちっとも嬉しそうではない樹の態度を、このみは不思議に思った。

「どうしてですか?」

 リビングのソファーに座った樹に、このみは問う。樹はその切れ長の目をちろりとこのみの方に向け、面倒臭そうに答えた。

「所詮俺は治験者の彼氏でもないし旦那でもない。俺は悠真をフォローする役に徹するよ」

 このみは「でも」と言った。

「せっかく相棒(パートナー)となれたのですから、力一杯仕事をしましょうよ。最初からそんな風に言うのはどうかと思います」

 樹は背中を丸め、膝の上に肘を乗せた。およそ機械(ロボット)らしからぬ姿勢で、斜め前に座ったこのみに諭すように語りかける。

「あのなあ、お前にはまだ分かってないんだよ。人間の怖さが」

「怖さ、ですか」

「俺はもう辛い思いをしたくない。だからあまり肩入れする気はない。俺の仕事はお前が機械(ロボット)であることを悟られないように疑似相棒(パートナー)の役をきっちりこなすことと、主相棒(メインパートナー)の悠真と治験者の石出楓子(いしでかのこ)が二人で幸せな暮らしを送れるように見守ることだ。前に出る必要もないんだよ」

 このみは治験者の友人役であるが、樹の言うように機械(ロボット)と明かすことは禁止されていた。あくまで人間の治験者(同じ立場)として接するようにと厳命を受けている。

 難しい任務ではあるものの、このみはきちんとやりこなすつもりでいた。そして役割としてではなく楓子の友人になる。それがこのみの目標だ。

「そうですか」

 このみの返事を聞き、樹は「あとな」と言葉を続けた。

「俺に敬語を使うのはやめてくれ。お前、相棒(パートナー)役になる前、勉強の為にドラマや映画を見せられなかったか?」

「見ました」

「その中で、敬語は頻繁に使われていたか?」

「いえ。特定の関係性でのみ使用されていて、あまり頻繁とは言えませんでした」

「基本言語ではあるが、相棒(パートナー)という一番親しい間柄でいなければならない機械(ロボット)がこの言語を使い続けることは、あまり得策ではないと俺は思う。だから俺は今回敬語を使わない。お前も俺の相棒(パートナー)という設定上、俺に敬語を使うのは不自然だ」

「なるほど」

「だから気を遣わずに、樹と呼び捨てにしてくれ。俺は先輩かもしれないけど、そんなに大層な機械(ロボット)じゃないんだ。教えられることも、大してない。お前は、俺みたいになるなよ」

 言い終えて深い溜息を吐いた樹は、とても疲れた顔をしていた。

 このみは「はい」と答えそうになり、慌てて言語モードを切り替えた。「分かった」と答えると樹は満足そうに頷き、「これからよろしくな」と言い、右手を差し出した。このみは「こちらこそ」と返事をしてその手を握り、握手をした。

 誰かと握手をするのは、生まれて初めてだった。こういうとき、握手をするのだと、このみは覚えた。手の感触が、しばらく記録領域から消えなかった。

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