【朝が来る】12
「私は、どうしたらいいのでしょうか」
絵里は野々村に問いかけた。
「急になんの話ですか」
野々村は顔を上げることなく、手元の作業を続ける。
絵里の機体に細い工具を入れ、横のモニターを見ながら、内部を修繕をしている。
絵里が中央公社に保護されてから、丸一日が経過していた。
精密な機械内部診断を経て、最初は顔面部、次に腕部、脚部、そして今は腹部の最も重要な箇所に手を入れている。
「私は、必要のない機械なのかもしれません。倖田所長の期待には応えられず、相棒からの信任も得られず、機体を傷つけただけで、治験に役立つ情報も提供出来ません」
「そうですか」
「やはり、他の機械に変わってもらうべきでしょうか。別の機械であれば、私より優秀な解決策を提示出来るかもしれません」
野々村は「そうですか」と言い、しばらく黙って作業に集中した。絵里もそれ以上は何も言わず、ただ作業が終わるのを待った。
作業を終えた野々村が、絵里の腹部、へその部分から工具を抜き、顔を上げた。
「終わりました」
絵里は横になっていた機体を起こし、頭を下げた。
「大した破損はありませんでしたが、腹部はこれ以上強化出来ません。今後はあまり負荷をかけないように注意してください」
「分かりました」
絵里は「申し訳ありません」と再度頭を下げた。
「僕の意見を言わせて貰えば」
野々村は唐突に話題を変え、絵里の顔を見た。
「はい?」
「人間は大体愚かで、救いようのないクズばかりです。あなたの相棒も、その一人です。ただ生まれただけで幸せになれると思い込んでいる馬鹿者です」
野々村の眼鏡が、天井からの光を反射して光った。
「はい」
「ですから、救わなくてもいいのです」
「はい?」
「どうしても無理なら、仕方ありません。そのまま死んでもらっても、統計上は誤差で済みます。本土に、悲しむ人間もいない。他の機械に任せたところで、結果は一緒です。遅かれ早かれ同じような問題に直面するでしょう。それが分かっているのに、貴重な機械を差し出す義理は倖田研究所にはありません」
「……理解しました」
絵里は頷いた。野々村が再度口を開こうとしたとき、白衣のポケットで通知音が鳴った。
中のスマートフォンを手に取り、画面を見た野々村は「あなたはここにいてください」と言って絵里を残して去ってしまった。
取り残された絵里は聴覚感度を上げて、遠くなる野々村の足音を聞いた。




