あなたが欲しい
「さあ、こっちへ来てくれ」
俺が手を伸ばすと、彼女は妖艶に微笑みながら指先でそれをかわした。
「まだダメ♪ 約束の物を渡してから」
「ほらっ、頼まれてたもんだ」
俺が差し出した包みを、彼女は「カサカサ」と愛おしそうに開く。
「あ~、これよ、これ♪」
「なっ! あいつと違って、俺は約束を守る男だ。さあ、早く――おい、何してんだ?」
彼女は包みの中の黄金の液体を、迷わずグラスに注ぎ始めた。
「飲むのよ♪ スパルタの砦からあなたが命懸けで盗んできてくれた、このアムブロシアを」
「飲むって……話が違うじゃないか。これは二人の将来のために――」
「ふふ、あなたと素敵な夜を過ごしたかったから、ちょっと試したのよ♪」
彼女の誘うような瞳に、俺は毒気を抜かれた。
「……ったく、困った女だ」
「嫌いになっちゃった?」
「とんでもない♪」
俺はパンの皮で汚れた手を拭い、彼女が注いだグラスを受け取った。
「トットットット……」
「さあ、どうぞ♪ あなたの為に、塩気の効いた焼き菓子も作ってきたのよ」
「嬉しいね。……ん、旨いな。これなら酒が進みそうだ。……おい、水はないのか?」
「そのままぐっと♪ 男らしいところ、見たいの」
「…………お~け~。……ゴクッ、ゴクッ」
喉を焼くような熱さ。さすがは神の酒。視界が急速に歪んでいく。
「あ~、やばいな……これ以上飲んだら、夜の楽しみが……」
「飲んで♪ 飲みなさい! ねっ♪」
俺は彼女の気迫に押され、意識が遠のく中で最後の一滴まで飲み干した。
………………。
「……こ、ここは? 拘束……!?」
目が覚めると、俺は寝台に縛り付けられていた。
「あら、目が覚めたの? 食事は静かに済ませたかったのに……残念」
「お、おい……冗談だろ……?」
彼女の口元から、二本の鋭い牙が音もなく伸びる。
「ふふふ。まずは、首にキスしてあげるわ♪」
「よせーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
ガブッ!!!!
「ジュル……ゴク……ゴク……ゴク……」
俺の血管を流れる、神の酒で完璧に味付けされた極上の血液。
彼女は悦びに浸りながら、真っ赤な舌で唇をなぞった。
「はぁ~♪ アムブロシアで仕上げた男の血は……最高ね♪」
(完)




