オリオンと見つけた熱
凍てつく荒野を抜ける道は、長く、寒かった。
ユキは時折、オリオンの温かい毛並みに顔を埋めながら、それでも足を止めなかった。足元の星屑は、何度もシャリ、シャリと、ユキの諦めを誘うように乾いた音を立てたが、オリオンの青い光だけが、二人の道標だった。
やがて、二人は荒野の先にそびえる、一つの丘にたどり着いた。
丘の頂上には、時間の止まった凍りついた時計台が、周囲の星屑と同じく冷たい銀色に染まって鎮座している。
そして、その時計台の根元。
他の星屑とは比べ物にならないほど大きく、深く冷たい銀色の光を放つ、巨大な氷塊があった。その氷塊は、静かに、しかし、近寄る者を拒むように強く輝いていた。
「あれが、君の希望の星だ」オリオンが静かに告げた。
ユキは震える手で、その氷塊に触れた。
キンッ。
瞬間、手のひらから鋭い冷たい痛みが走り、身体中が麻痺したように動かなくなる。
氷塊はユキに、最も恐れていた感情を突きつけた。
――治らないかもしれない。どんなに強く願っても、もう、お母さんと一緒に笑ってクリスマスを過ごすことは叶わないかもしれない。
絶望の冷気が、銀色の粉となって手のひらに残り、ユキの心の熱を奪っていく。ユキは力なく座り込み、顔を覆った。世界からすべての色が消え、すべてが灰色に見えた。
「もう、だめだ。私には、こんな冷たいものを暖める力なんてない…」
そのとき、ふかふかの温かさが、背中を包んだ。オリオンが、身を乗り出して、ユキの冷たくなった体を全身で覆っていたのだ。
「諦めるな、ユキ」オリオンの声は、雪が積もる音のように静かだった。
「諦めることが一番の病だ。この冷たさの原因は、君が自分自身の希望を信じられなくなったことにある」
オリオンの青い光と温かい毛並みに包まれながら、ユキの心の中に、少しずつ熱が戻ってきた。オリオンの毛先からは、まるで小さな炉のように温かい星の粉が立ち上っている。
ユキは、その温もりの中で、ある光景を思い出した。
病気になる前のお母さんと、二人で飾った手作りのクリスマスツリー。不器用ながら、飾り付けの最中、お母さんは言った。
「ユキ。どんな小さな願いも、このツリーの飾りみたいに、たくさん集まれば、きっと叶うんだよ」
そして、二人で作った、生クリームがよれたパンケーキのクリスマスケーキ。見栄えは良くなかったけれど、笑い合ったあの時間こそが、ユキにとって最も暖かくきらきらした時間だった。
ユキは強く、胸の奥から叫んだ。
病気が治るかどうかは、誰にも分からない。だけど、私が、お母さんとの暖かい夢を、諦めない。私の中に、希望の光を灯し続ければ、必ず、お母さんの心にも届くはずだ!
ユキがそう決意した瞬間、凍りついた氷塊に触れていた手から、微かなオレンジ色の熱が生まれた。それは、オリオンの青い光と混ざり合い、優しい光の渦となって、ユキの胸へと昇っていく。
ユキの心はもう凍えていない。あの巨大な氷塊よりも、強く、熱い光が、彼女の胸の中で脈打っていた。




