星屑界の静かな歩み
ユキが、古びた本から変わった大きな扉をくぐり抜けると、足元がシャリと、乾いた音を立てた。
目の前に広がっていたのは、空も大地も、すべてが同じ銀色の粉で覆われた荒野だった。
部屋にいた時とは比べものにならないほどの冷たさだ。それは、物理的な寒さというより、誰かの心が永遠に冷え固まったような、絶望の冷気だった。
「ここが、星屑界」オリオンが言った。
「夢や希望を諦めた者が、その気持ちを捨ててしまう場所だ」
足元の星の粉は、まるで大量の粉砂糖を敷き詰めたようにサラサラとしていたが、触れると手のひらに氷のような冷たい痛みが走る。
ユキが踏みしめるたびに、シャリ、シャリと、脆いガラスが砕けるような、寂しい音が響いた。
「この星の粉は、かつて輝いていた人々の希望の結晶だ。だが、見ての通り、ほとんどが冷たい銀色で、光を失っている」
オリオンの瞳だけが、この世界で唯一の深い青色でユキを見つめた。
「そして、ユキ。君の心にも、一つ凍りついた星がある」
ユキはハッとして、自分の胸を押さえた。
「それは、君がお母さんの病気が治らないのではないかと、心の底で恐れ、諦めかけた瞬間に生まれた希望の星だ。君が手放したくないと願っても、その冷たさに触れる度に、君自身も、お母さんとの暖かい夢も、永遠に凍りついてしまう」
ユキは言い返せなかった。どんなに「大丈夫」だと自分に言い聞かせても、心の奥底で感じていた不安と絶望を、オリオンは正確に言い当てたからだ。その冷たい真実に触れ、体が動かない。
「その星をこのままにしておけば、君の希望は、この冷たい銀色の星屑になってしまう。さあ、見つけに行こう。君の凍りついた希望を、もう一度暖めるために」
オリオンの毛先が、一瞬、青い星の砂のように強く輝いた。その光は、遠く、荒野の奥にある、ぼんやりと冷たい光を放つ時計台のある丘を指し示している。
ユキは、もう逃げない、と決意した。自分の諦めがお母さんとの暖かいクリスマスという夢を遠ざけているのなら、これ以上、心を凍らせるわけにはいかない。
オリオンの温かい友情という小さな火を頼りに、ユキは凍てつく星屑の荒野へと、小さな一歩を踏み出した。




