灰色に凍る夜
ユキは知っていた。願いなんて、粉雪みたいに弱くて、すぐに地面に消えてしまうってことを。
窓の外は、凍てつく真冬の夜だった。吐く息が白く、部屋の隅々にまで冷たさがしみ込んでいた。
今年の冬、たったひとりの家族であるお母さんは病院にいる。温かい言葉や笑顔が、病室の冷たい壁に吸い込まれてしまうように感じていた。
きっと、今年も一緒にクリスマスを過ごすことはできない。
ユキの心の中は、すっかり静かで、きらきらとした光は一つも見つからなかった。光がなければ、影もできない。すべてが灰色に凍りついているようだった。
ユキはベッドの下から、古い木箱を引っ張り出した。開けると、一冊の本が収まっている。その表紙は何度もめくられたせいで角が丸くなり、タイトルもほとんど読み取れなくなっていた。
どうせ、読んだところで何も変わらない。
そう思いながらも、ユキはその本を静かに開いた。
――次の瞬間、本のページから、一筋の青い光がこぼれ出た。
その光は、真夜中の空を切り取ったように深い青色をしていた。それは小さな塊となり、やがて、しなやかな猫の姿に形を変える。
青く光る毛を持つその猫は、ユキの目の前でぴたりと立ち止まった。耳の先から尻尾の毛先まで、星の砂をまぶしたように繊細にきらめいている。その瞳の中には、無数の小さな星が静かに瞬いていた。
「迎えに来たよ、ユキ」
猫は、オリオン、と名乗った。その声は、雪が降る音のように静かだった。
「君の心の中に、一つだけ、特別に冷たく凍りついた星がある。それを見つけに来たんだ」
オリオンが尾を静かに揺らすと、古びた本はギシリと音を立てて、巨大な、異世界への扉へと姿を変えた。その向こうに広がるのは、夜空のように暗く、冷たい星屑の荒野だった。




