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霊体マッサージで女神様を癒やしたら、異世界に飛ばされて異種族の娘たちにモテモテになって困る! 俺はただのおっさん整体師なのに!  作者: カクナノゾム


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第33話 古代の将(下)

「ソウル・トランスファー……」


 小さく呟いて、俺は将の胸に両手を当てた。

 ――ごめんな、ルナリア。また、使わせてもらう。


 手の甲の紋章が、強く輝いた。

 俺の霊力が、将の霊体に直接流れ込んでいく。


「っ……!」


 頭の奥が、きしむように痛む。

 魂が削られていく感覚。


 でも――


「お前を、救いたいんだ」


 俺は、歯を食いしばって、霊力を注ぎ込み続けた。


 将の霊体が、ゆっくりと光を帯びていく。

 黒い炎が、淡い金色へと変わっていく。


「これは……何だ……?」


 将が、呆然と呟く。


「温かい……こんな感覚、久しく……忘れていた……」


 紋章の光が、さらに強くなる。


 ――女神の声が、聞こえた気がした。


『……また、無茶をして……でも、あなたはそういう人ですね』


 録音された声のような、一方通行の声。


 でも、それが俺を支えてくれた。


「ありがとう、ルナリア……」


 小さく呟いて、俺は最後の霊力を注ぎ込んだ。



 黒い炎が、少しずつ、やわらいでいく。


「……貴様、何をして……」


 将が低く呻く。


「お前は……部下を失ったことを悔やんでる。その痛みを、ずっと抱えてる」


「当然だ……! 王命であった竜退治も果たせず、我が指揮で、全員を……! 部下たちを、あんな……ッ!」


 言葉にならない叫びが、霊体からにじみ出す。

 それが、まるで濁った波のように、俺の身体に流れ込んできた。


「……怒っていいんだ」


 俺は、静かに言った。


「苦しかったろ。悔しかったろ。……でも、それを抱えてここに居続けるのは、違うだろ」


「黙れ……貴様に何が分かる……」


「分かるさ。俺も、後悔を抱えたことがある」


 霊体の核心――心兪のあたりに、指を添える。

 押し込むように、ゆっくり、じんわりと按圧する。


 重く冷たかった霊体が、ほんのわずかに震えた。


「俺の施術は、肉体じゃなく“心”に届く。お前が背負ってきたものを、ほんの少しでも楽にしてやりたい」


「そんなことが……できるわけが……!」


 ぐっと指に力をこめる。

 内側に染みついた怒りのしこりが、押し出されていく。


「部下たちは、お前を責めてない。むしろ、お前がこんなふうに、ひとりで戦い続けることを……悲しんでる」


 ――静寂。


 その言葉が、将の霊体に染み込んでいくのがわかった。


「……我は……まだ……戦っていると、思っていた……」


「……もう、終わったんだよ」


「……そうか……終わって……いたのか……」


 将の霊体が、すこしずつ光を帯びる。

 黒い怒りが、淡い金色へと変わっていく。


 その顔に、わずかだが――穏やかな、表情が浮かんでいた。


「名も知らぬ者よ……礼を言う……この痛みから、解き放ってくれて……ありがとう」


 将の霊体が、光となって崩れ落ち始める。


 ――その瞬間。


「……待て」


 将が、もう一度、こちらを見た。


「貴様の名を、聞いておきたい」


「……桐谷悠司だ」


 俺は答えた。


「癒やし手、桐谷悠司……覚えておこう」


 将が、小さく頷く。


 そして――


「我が名は、グレイヴァルド」


 将は誇り高くその名を告げる。


「かつて、この地を治めし王に仕えた、近衛騎士団長……貴様のような者に出会えて……光栄だった」


 その言葉を最後に、将の霊体は、淡い光となって消えていった。

 静かに、でも――誇り高く。


 空間が、しんと静まり返った。

 怒りに満ちていた霊圧は、まるで夢だったかのように跡形もなく消えていた。


「……グレイヴァルド、か」


 俺は、小さく呟いた。


「……その名前、覚えておくよ」


 静かに、将の霊体が、光となって消滅した。

 重かった空気が、ふっと軽くなる。


 そして、そこには――

 朽ち果てた、誇り高き一振りの剣だけが、残されていた。


「……終わった、の?」


 ミナが、そっと呟く。

 緊張で張り詰めていた気配が、ふっとほどけたのがわかった。


「うん……ユージが、ちゃんと癒やしたにゃ」


 リーネが、小さな声で答える。


「これが……あの人の、魂の欠片かもしれません」


 セレスが静かに言う。


「……怒りに囚われた魂が、最後に残した誇り。そんな気がします」


「なら、そっとしておこう。これが彼の墓標だ」


 俺はその剣を地面に突き立て、そっと手を合わせる。

 冷たかったはずの金属が、少しだけ温かい気がした。


「ユージ……それ、どういう意味?」


 ミナが首を傾げる。


「俺の世界では、死者に敬意を払うとき、こうやって手を合わせるんだ」


「そうなのか……」


 ミナが、俺の真似をして手を合わせる。


「あたしもやるにゃ」


 リーネも、小さく手を合わせた。


「……私も」


 セレスが、静かに手を合わせる。

 四人で、将の剣に手を合わせる。

 静かな、祈りの時間だった。


「……安らかに眠ってください」


 セレスが、小さく呟いた。

 その言葉が、空間に溶けていった。


 ――その瞬間。


 ぐらり、と視界が揺れた。


「っ……!」


 膝が、がくんと折れる。



「ユージ!?」


 ミナが駆け寄ってくる。


「大丈夫にゃ!?」


 リーネが俺の肩を支える。


「ユージさん、顔色が……」


 セレスが心配そうに見つめる。


「……平気だ。ちょっと、霊力を使いすぎただけだ」


 俺は、小さく笑った。


 でも、本当は――分かっていた。


 ソウル・トランスファーの代償。

 俺の魂が、削られている。


 左手の甲を見ると、紋章の光が、少しだけ薄くなっている気がした。


(……多用はできない。次は、もっと慎重にならないと……)


 俺は、三人に支えられながら、ゆっくりと立ち上がった。


「本当に、大丈夫?」


 ミナが、俺の顔をのぞき込む。


「ああ。少し休めば、すぐに回復する」


「無理しないでにゃ。ユージが倒れたら、あたしたち困るにゃ」


 リーネが、心配そうに言う。


「私たちが、ユージさんを守ります。だから、無茶はしないでください」


 セレスが、静かに頷いた。


 俺は、三人の顔を見て、少しだけ笑った。


「……ありがとな」


 将の残した剣が、床に転がっていた。

 その刃には、今にも消えそうな淡い光が宿っている。


「これが……あの人の、魂の欠片かもしれません」


 セレスが静かに言う。


「……怒りに囚われた魂が、最後に残した誇り。そんな気がします」


「なら、そっとしておこう。これが彼の墓標だ」


 俺はその剣を地面に突き立て、そっと手を合わせる。

 その誇りに、その名に、手を合せずにはいられなかった。

 冷たかったはずの金属が、少しだけ温かい気がした。


「ユージ……それ、どういう意味?」


 ミナが首を傾げる。


「俺の世界では、死者に敬意を払うとき、こうやって手を合わせるんだ」


「そうなのか……」


 ミナが、俺の真似をして手を合わせる。


「あたしもやるにゃ」


 リーネも、小さく手を合わせた。


「……私も」


 セレスが、静かに手を合わせる。


 四人で、将の剣に手を合わせる。


 静かな、祈りの時間だった。


「……安らかに眠ってください」


 セレスが、小さく呟いた。

 その言葉が、空間に溶けていった。


「でも……まだ奥があるにゃ」


 リーネが、先を見て言った。


 将のいた部屋の奥。

 暗く、静かに口を開けた通路がひとつ、続いている。


「この人達も、きっと竜のせいで――」


 ミナが悲しげな顔で言う。


「セレス、どうだ」


 俺が問うと、セレスが目を閉じ、静かに霊体視を開く。


「……感じます。この先に異常な濃度の魔力と瘴気。将とは、比べ物にならない……まるで、天災のような……」


 その言葉に、全員が息をのんだ。

 俺は、ふっと、天井の岩肌を見上げた。


 かつてこの将も、この地の災いを収めるためにここに来たのだろう。

 そして破れた。

 その後、痛みと怒りを、たったひとりで抱えて――ここに縛られてしまった。

 でも、俺は独りじゃない。


 俺には、仲間がいる。

 癒やす力も、届くと信じてくれる人がいる。

 なら、俺のやることは――決まっている。


「行こう」


 静かに、でも力を込めて言った。


「まだ、“救えていない魂”がある」


 そして――俺たちは、さらに深くへと踏み出した。


〈第33話 完〉


【次回予告】


 火山の最深部に眠る、巨大な影。

 それは、かつて竜騎士とともに戦い、命を落とした霊竜だった。


「我が名はラグナ……これは、我が友の墓標……」


 霊体となってもなお、主を守ろうとする魂に、

 癒やしの手は届くのか。


 ──第34話「竜の間」

 おじさん、ついに古代竜と対面する!


 ◇◇◇

 作者からのお願い。


 ここまで読んでいただいてありがとうございました。


 よろしければブックマークと応援、そしてレビュー【☆☆☆】の方、何卒よろしくお願いします。これから物語を続けていく上でのモチベーションに繋がります。

 コメントも頂けると、深く礼をします!

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