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霊体マッサージで女神様を癒やしたら、異世界に飛ばされて異種族の娘たちにモテモテになって困る! 俺はただのおっさん整体師なのに!  作者: カクナノゾム
第四章 死霊の森

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第31話 ダンジョン突入!

 森を抜けると、空がぱっと開けた。

 遠くに、赤黒い山がそびえている。山肌はひび割れ、ところどころがうっすらと光っていた。


「……あれが、魂喰いの山か」


 思わず、つぶやいた。


 近くに来て、ようやくわかった。

 この山は、生きている。

 火山というより、何かが息づいているような、不気味さがあった。


 風が吹いた。

 熱を含んだ風だった。鼻の奥が、かすかに焼ける。


 空気が、重たい。


「気をつけて」


 セレスが言う。


「霊体の波が、ここで大きく揺れています。まるで……怒っているような」


「地面も不安定にゃ。足をとられないようにするにゃ」


 リーネがしゃがみこみ、岩肌を確認する。


「罠の臭いがする」


 ミナが、鼻をひくつかせた。


「誰かが戦ったあと……それと、血のにおいも少しする」


「他のパーティが……?」


 俺の問いに、ミナがうなずいた。


「多分、罠にかかったんだ。焦げた土の匂い……魔法罠だと思う」


「罠……まさか」


 リーネの顔が、強張る。

 拳を握る手が、小さく震えていた。


 彼女の視線の先に、崩れた石の裂け目があった。

 その先に、黒い空間がぽっかりと開いている。


 ダンジョンの入口だ。この火山の内部の洞窟が迷宮になっている。


「行こう」


 俺は、声をかけた。

 誰かが、助けを求めているかもしれない。

 癒やし手の手が、届くなら――行かなくては。

 


 ダンジョンの中は、思ったより暗くなかった。

 岩肌のあちこちに、蛍火のような明かりがゆらめいている。

 青白い光が、壁に影を落としていた。


 奥へと続く道は、広くて、緩やかに下っていた。

 床は荒れているが、足場は悪くない。


 そのかわり――空気が、重い。


 息をするたび、胸がざらつく。

 肌にまとわりつくような霊圧。

 ここが、死霊に満ちている証拠だった。


「いたにゃ……!」


 リーネが指差す。


 通路の先、岩陰に、四つの影があった。

 人影だった。人間の背丈で、動いていた。


「グレイフェザーの皆にゃ!」


 リーネが走りかけて、すぐに止まる。


 ――集中。

 ぼんやりと、彼らの身体に重なり生ある者の霊体が浮かび上がった。

 良かった、生きている!


(元々はリーネを入れて五人だったんだよな。今、目の前にいるのは四人……)


 彼らは、何かに苦しんでいるように見えた。

 ひとりは壁にもたれ、うめいていた。

 ひとりは、呆けたように一点を見つめている。


 ――正気じゃない。


「霊体が、乱れています」


 セレスが静かに言う。


「強い瘴気に当てられ、心が崩れかけている……このままだと、廃人になるかもしれません」


 彼らの正気を奪った何かがいる、ということか。


「そんな……!」


 リーネが、一歩前に出た。


「マーカス! レオ! アリシア……リディア!! みんな、あたしだよ! リーネだにゃ!!」


 その声に、ひとりが振り返った。

 長身の男だった。顔は土と血にまみれて、よく見えない。

 だが、リーネを見た瞬間――目を見開いた。


「お前は……!」


 男が唸るように声を上げた。


「……リーネ……貴様が……!」


「っ……マーカス……?」


 その声に、怒気が混じっていた。

 そして――彼は、剣を抜いた。


「く、来るにゃ……っ!!」



 マーカスが剣を振りかぶった。

 リーネが、すんでのところで飛び退く。


 鋭い金属音が、床に響いた。


「落ち着けマーカス! リーネだよ!! 仲間だったにゃ!」


 叫ぶような声。

 だが、マーカスの目は、正気を失っていた。

 焦点が合っていない。唇がひきつっている。


「お前が来てからだ……」


「お前のせいで、パーティは変わった……!」


 剣先が、震えている。

 怒りか、混乱か――いや、それだけじゃない。


 霊体視を開いた。

 マーカスの全身を、荒れた光が包んでいた。

 ぐちゃぐちゃに渦を巻いて、内側から蝕んでいる。


「これは……」


 セレスが、俺の隣で呟く。


「強い瘴気に当てられたせいで、霊体が耐え切れずに崩れているんです。感情がぐちゃぐちゃになって……記憶まで混濁しています」


「わかるのか?」


「はい、シェイプシフターは対象の霊気を読みます」


 セレスが静かに言う。


「あの戦士さんの姿を借りて、牽制します! 同じ姿を見せれば、混乱して動きが鈍るはずです」


 いうと同時にセレスの姿が逞しい戦士の姿に変わってゆく。

 マーカスと同じ体格、同じ鎧。


「すごい……能力まで写し取れるのか」


「あ……ああああっ!」


 戦士の男――マーカスが混濁した叫び声をあげた。

 自分と同じ姿を見て、さらに混乱している。


「また、いきなり切りかかってきそうにゃ!!」


 ミナがリーネの前に立ち、短剣を構える。


「ちょっとでも切りかかったら、許さないからね……!」


「待って……待って欲しいにゃ!」


 リーネが小さく叫ぶ。


「……マーカスは、仲間だったにゃ。あたしに、冷たかったけど……でも、仲間だったんだよ」


 声が震えている。


「お願い……ユージ。なんとかしてやってほしいにゃ」


 その目に、強い願いがこもっていた。


 俺は一歩、前に出た。


「やってみるよ……きっと、届くはずだ」


「リーネとセレスは他の人たちを牽制して! ユージを援護する!」


 ミナの叫びで俺たちは一斉に動き出した。



 俺は、ゆっくりとマーカスに近づいた。

 剣先が、ぴたりと止まる。


「……俺に、近づくな……お前も幻覚か……?」


 呻くような声だった。

 怒っているのではない。怯えていた。


「マーカス……俺は幻覚じゃない」


「リーネは、ここにいる。お前の仲間だった人間だ」


「違う……違う……!」

「俺は……間違ってたのか……?」

「でも、どうしたらいいか、もう分からない……!」


 霊体が激しく揺れている。

 自責、混乱、孤独――それが、霧のように全身を包んでいた。


 俺は、そっと手を伸ばした。

 マーカスの肩に、掌を当てる。


 ぴくん、と身体が跳ねた。


「大丈夫。怖くない……今、ほぐしてやるから」


 軽擦法。

 鎧の上から、霊体に触れる。

 肩から背中へ、ゆっくりと掌を滑らせていく。


 荒れていた光が、すこしずつ静まっていく。

 乱れていた霊体が、波紋のようにやわらいでいく。


「そこ……何か……流れていく……こんな感覚、初めてだ……」


 声が震える。


「押し込めてたもの、全部……抜けていく……」


 俺は心兪へと指を移した。

 内に溜め込んでいた苦悩が、にじむように浮かび上がる。


「……弱音を吐く暇なんて、なかった……みんなを守るって、言ってしまったから……」


「苦しかったんだな……でも、もう抱えなくていい。ここでは、お前も――ただの"ひとり"でいい」


 霊体が、ほのかに光を帯びた。

 肩の力が抜け、剣がカランと落ちる。


「リーネ……俺は……」


 ゆっくりと、マーカスが顔を上げる。

 焦点の戻った目が、リーネを捉えた。


「……ほんとうに、お前か……?」


 リーネが、ぎゅっと拳を握った。

 そして、頷いた。


「うん。あたしだにゃ」


 リーネは笑う。


「……マーカス、ちょっと老けたかにゃ?」


 しばしの沈黉。

 マーカスは、浅く息を吐いて、少しだけ笑った。


「……ああ。お前も、少しは……大人になったな」



 ミナたちが牽制してくれている間に、1人ずつ治療を施す。


 ほかの仲間たちも、ゆっくりと意識を取り戻し始めた。

 セレスとミナが順に落ち着かせていく。


 ひとりの女性――リディアが、リーネを見て目を見開いた。


「リーネ……? 本当に、あなた……?」


「うん。久しぶりだにゃ、リディア」


 二人が、そっと抱き合う。


 俺は少し離れて腰を下ろした。


「……まいったな。これは、想像以上に……しんどい」


 続けざまの治療のせいか、霊力を吸われたような感覚が、腕から肩へ残っている。

 でも、それでも、やってよかった。


 リーネが俺のそばに来て、そっと隣に座った。


「ありがと、ユージ」


 少し泣きそうな顔で、でも笑おうとしている。

 いつもの軽口も、今は出てこないみたいだ。


「マーカスはユージの手でしか……戻れなかったにゃ」


「……でも、お前の声が届いたからだよ」


「……そっかにゃ」


 リーネが、ほんの少しだけ微笑んだ。


「やっぱり、来てよかったにゃ」


 ――俺たちは、ひとつの節目を越えた。


 この先に、何が待っているかはまだ分からない。

 けれど、今はただ――癒やしが、誰かを救えたことが嬉しかった。


〈第31話 完〉


【次回予告】


 意識を取り戻したマーカスたち。

 だが、彼らの口から語られたのは――このダンジョンの恐ろしさだった。

「奥に……化け物がいる……俺たちじゃ、太刀打ちできない……」


 ――第32話「和解と再会」

 おじさん、仲間の絆を見守る。

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