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霊体マッサージで女神様を癒やしたら、異世界に飛ばされて異種族の娘たちにモテモテになって困る! 俺はただのおっさん整体師なのに!  作者: カクナノゾム


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第30話 死霊の森

 街を出て、数日が過ぎた。


 焚き火を囲んで野営を重ね、獣道をたどり、森の奥へと進む。

 夜は交代で見張り番。朝は簡単な食事。

 昼は黙々と歩く。


 だが――不思議と、危険は少なかった。


「おい、今のって……何かの獣か?」


 俺が遠くの茂みを指差すと、ミナが軽く笑った。


「うん。でも、もう逃げたよ。あたしの気配を感じ取ったみたい」


「すごいな……」


「狼の獣人は森で暮すから。森の中は庭みたいなもんだし!」


 確かに――森に入ってからのミナの動きは目を見張る物がある。

 森の獣たちは、彼女の存在に警戒し、むやみに近づいてこない。


 そして、リーネもまた――


「にゃっ!」


 茂みから飛び出してきた猪型のモンスターを、リーネが一瞬で魔法で拘束する。


「あたしだって、元冒険者だにゃ! このくらい朝飯前にゃ!」


 得意げに胸を張るリーネ。その動きには、確かな経験が滲んでいた。


「リーネ、魔法が使えたのか!!」


「リーネは魔法も使えて、少し戦えて、偵察もできる冒険者だったんですにゃ!」


「凄いじゃないか!!」



「――でも全部専門の人には叶いませんにゃあ。器用貧乏なんですにゃ。だからパーティーからも……」


 若干落ち込んだ風を見せるリーネを慌ててフォローする。


「いや、お前がいなかったら、こんなに順調には進めないだろう」


「そうだよ! キャンプの火起こしとか料理とかもね!」


 ミナと二人で慰めていると――。


「そろそろ、霊気が強くなってきています。気をつけてください」


 セレスが前を見て注意をくれた。

 こうやってみると、バランスが取れている。

 セレスが警戒し、ミナが獣を引きつけ、リーネがとどめを刺す。


「……お前ら、本当に強いんだな」


 俺の呟きに、セレスが穏やかに笑う。


「ユージさんは、癒やしの専門家ですから」


 ――ああ、そうか。

 俺は、守られているんだな。


 その事実が、少しだけ嬉しかった。


 ◇


 さらに一日歩くと、森の空気が変わった。


 鳥の声が消え、風が止まり、木々の影が濃くなる。


「……ここから先が、今、死霊の森と呼ばれている場所だと思われます」


 セレスが足を止め、目を細める。


「ギルドでは、現在、そのように指定しているとカレンさんが」


「死霊の森……か」


 リーネが地図を確認する。


「ダンジョンが活性化してから、ここまで死霊が広がったらしいにゃ。街から近いのに、こんなことになるなんて……」


 霧が立ち込め、視界が悪い。

 地面には、折れた剣、砕けた盾、そして――白い骨が散らばっている。


「セレス、何か感じるか?」


「……はい。森の奥に、複数の霊体反応があります。動いています」


 その言葉が終わるか終わらないかのうちに――


 ガチャリ、と音がした。


 森の影から、一体の死霊が現れた。

 半透明でぼろぼろの鎧をまとい、赤黒い瘴気を纏いながら、こちらへとゆっくり歩いてくる。


 日本で言うと幽霊って感じだ。

 本当なら怖がるべきかも知れないが、妙に怖くない。

 むしろ、哀れな感じすら覚える。


「来るにゃ!」


 リーネが魔法を放つ。炎の弾が死霊に直撃する――が、すり抜けた。


「効かない!?」


 ミナが斬りかかる。刃が死霊に当たる――が、手応えがない。


「ううっ、物理攻撃が通らないっ!」


「霊体を帯びた敵には、神聖魔法か聖なる力が必要だにゃ!」


 リーネが叫ぶ。

 セレスも剣を構えるが、彼女の攻撃も同じだった。

 死霊が、じりじりと距離を詰めてくる。


 そのとき――俺には、見えた。


「待て」


 俺は前に出た。


 霊体視を開くと、死霊の上に――うっすらと、人の姿が重なっていた。

 がっしりとした体格の男性冒険者。無精髭を生やし、疲れ切った表情。


「……お前も、苦しかったんだな」


 俺は、静かにその霊体に手を伸ばした。


 ◇


 霊体に触れた瞬間――死霊が、ぴたりと動きを止めた。


『……俺に、触れるのかよ!』


 低い、男の声が胸の奥に響く。


「ああ。お前を楽にしてやりたい。俺のマッサージでなっ!!」


『な、なんだって? マッサージ? 正気かあんた!? 俺はもう死んでんだぞ!?』


「正気だ。少し我慢してくれ」


 普通に意思疎通が出来た。

 これは霊体を通して、会話出来ているのか。


『あんたに触って貰ってると、狂気が消えてゆく……生きている者への恨みも憎しみも……』


 そうか、自分の意思ではなく誰かを襲わずにはいられない。そういうことなのか。

 俺は霊体の肩に、そっと手を当てる。


『お、おい! 本当に触って――あ、あああ!!』


 彼の霊体が、ぶるりと震える。


『な、なんだこりゃ、きもちいい!!』


 俺は軽擦法で、霊体の肩から背中へと手を滑らせる。


『うおおおー! 肩のこりがほぐれてゆく! 背中も! 腰も!!』


「……幽霊で肩のこりってなに?」


 ミナが小声でツッコむ。


「知らないけど……なんか、すごいことになってるにゃ……」


 リーネも呆然としている。


「生前の記憶が霊体に刻まれているのかもしれません……」


 セレスが冷静に分析している。


『そこ! そこだ! 背中! 背中最高だぁぁぁ!!』


 滞っていた苦しみが、ほぐれていく。

 長い間、ここに縛られていた痛みが――流れていく。


「もう少しだ。深く息を吸って」


『い、息って……俺、死んでるんだけど……ぐはぁっ!!』


 俺は心兪に指を当て、じんわりと押す。


『こ、腰まで……! 全身に……広がってく……!』


 彼の霊体が、ふわりと光を帯びる。


 骨の上に重なっていた姿が、次第に明瞭になっていく。

 若い頃の、まだ疲れていない顔。


『……あったけぇな……』


 彼の霊体が、急に静かになった。


『こんなの、生きてる時も感じたことねぇ……』


 声が、震えている。


『おっかさん……俺、ちゃんと……頑張ったよな……?』


 彼の霊体が、子供みたいに泣き出す。


「ああ。お前は、ちゃんと頑張ったよ」


『……ありがとよ……兄ちゃん……』


 光が、天へと昇っていく。


 残された骨だけが、静かに崩れ落ちた。


 ◇


「……ユージ?」


 ミナが、呆然とした声で呼ぶ。


「今の……何?」


「癒やしだよ。生きてる人だけじゃなく――死んだ人にも、届くみたいだ」


 リーネが、目を丸くしている。


「すごいにゃ……最初うるさかったのに……最後、泣いてたにゃ……」


 セレスが静かに言う。


「霊体が、確かに昇華されました。ユージさんの施術によって」


 俺は空を見上げた。


「……このために、ここに来たのかもしれないな」


 誰かを癒やす。生きてる人も、死んだ人も。


 それが、俺のやるべきことなんだ。


「さ、急ごう」


 俺は歩き出す。


 リーネの仲間が、まだ待っている。


 この手で、救えるなら――急がなきゃ。


 〈第22話 完〉


【次回予告】


 死霊の森を抜け、ついにダンジョンの入口へ。

 そこで待っていたのは――罠に苦しむ冒険者たち。


「みんな……! しっかりするにゃ!」


 リーネの仲間、グレイフェザーが、ついに姿を現す。

 だが、彼らの霊体は激しく乱れ、正気を失っていた。


「もう、逃げないにゃ! 今度は、あたしがみんなを救うにゃ!」


 ――第23話「ダンジョン突入」

 おじさん、リーネのかつての仲間と出会う。


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