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霊体マッサージで女神様を癒やしたら、異世界に飛ばされて異種族の娘たちにモテモテになって困る! 俺はただのおっさん整体師なのに!  作者: カクナノゾム


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第28話 門番の恋(上)

 昼過ぎのユージ堂には、穏やかな風が流れていた。

 施術の合間、ミナが帳簿を広げ、リーネがカウンターを磨き、セレスが花瓶の水を替える。

 どこか生活の音が満ちていて、ここが"仕事場"であると同時に、"家"でもあるのだと感じさせた。


 その空気をぶち破るように、扉が勢いよく開いた。


「ユージ殿、いるか!」


 鎧を鳴らしながら飛び込んできたのは、門番のガルムだった。

 普段は寡黙で揺るぎない男が、今日は耳も尾も落ち着きなく揺れている。


「どうしたんですか、そんなに慌てて」


 俺が問いかけると、ガルムは拳を握りしめ、真剣な面持ちで言った。


「……ユージ殿。俺には、想い人がいる」


 ――いや、幾ら何でも唐突すぎないか!?

 ミナたちも、わずかに息を呑んだ気配がした。

 この硬派な男が、恋を告げるなど誰が想像しただろう。


「相手は……マルガ殿という。

 酒場で働く熊族の女性だ。強く、優しく、凛とした方だ」


 その声音は戦場よりも震えていて、妙に人間らしく、愛おしさすらあった。

 ミナが小さく呟いた。


「熊族……」


 リーネも尻尾を揺らす。


「ガルムさん、ゴリラ族だよね……」


 セレスが静かに頷く。


「……異種族、ですか」


 ガルムは、ぐっと唇を噛んだ。


「……そうだ。

 俺はゴリラ族。彼女は熊族。

 種族が違う者同士が想い合うなど……

 周囲に認められるのか……」


 その声には、迷いと不安が滲んでいた。

 にしても話が見えない。

 それが俺にどう関係しているんだろう?

 とりあえず、話を聞いてみよう。

 ガルムには、色々とお世話になってるしな。

 

「種族が違って、何か問題でも?」


 ガルムが顔を上げる。


「……いや。

 だが、世間というものは……

 種族の違いを気にする者も、いる……」


「ガルムさん」


 俺は真っ直ぐに彼の目を見た。


「世間がどう思おうと、あなたの気持ちは変わらないんでしょう?」


「……っ」


「なら、思い切って話してみればどうです?

 相手の目を見て、思ったことを伝えるだけで十分ですよ」


 そのひと言に、ガルムの肩がほんの少し落ちた。


「……そうか……そうだな。

 礼を言う、ユージ殿。

 後、彼女が最近肩が痛いそうなので見てやってくれんか?」


「お安いご用ですよ、いつでもどうぞとお伝えを」


「うほっ、感謝する!」


 軽く頭を下げると、ガルムは急ぎ足で去っていった。

 彼の背中は、いつもより大きく、そして不器用に揺れていた。


 扉が閉まる。

 その余韻の中で、ミナがぽつりと呟いた。


「ガルムさん……すごく真剣だったね」


「恋をしている男の顔でしたわね」


 セレスが穏やかに言い添える。


「にゃ……でも、異種族かぁ……

 それで悩んじゃうの、分かる気がするにゃ……」


 リーネの声が、少し沈んでいた。


「しかし一旦何で俺にそんな話を!?」


「ユージ時々鈍いにゃ」


「そうですよ、今やユージさんは街の世話役ですもの」


「背中を押して欲しかったんだよ!」


 ――あ、なるほど!

 3人に言われて、俺はこの街に来て癒やしてきた人々を思い出した。

 ギルドにも入ったし、癒やし手としても認められている。

 貴族に呼ばれるくらいのネームバリューはあるんだもんな。


「そっか。上手く背中を押せてるといいなぁ」


 俺はガルムが出て行った扉を見て、小さく呟いたのだった。



 それから一時間ほど経った頃。


 控えめな鈴の音が鳴る。


 ゆっくりと扉が開き、影が差し込んだ。

 店に入ってきたのは、大柄な体つきをした女性獣人だった。


 熊族特有の茶色い耳と、ふさふさの尾。

 筋肉の厚みは圧倒的だが、目元は驚くほど優しい。

 体を小さく折りたたむようにして入ってくる姿は、巨体に似合わず慎ましく見える。


「……こんにちは。マルガとと申します。

 ガルムさんに、こちらを紹介されまして……

 その……肩が……痛くて……」


 マルガの声は低いが、どこか落ち着きを欠いている。

 むしろ緊張していると言ってよかった。

 この人がガルムさんの想い人か。


「どうぞ。お辛い場所を診せてください」


 そう言って施術台を指すと、マルガはまるで壊れ物に触れるような静かな動きで腰を下ろした。


 ミナが小声で呟く。


「この人が……マルガさん……」


 リーネも尻尾を揺らす。


「にゃあ……大きいけど……優しそうにゃ……」


 セレスは静かに観察していた。


「最近、重い荷物でも運んでいたんですか?」


 問診を始めると、マルガは戸惑ったように視線を落とす。


「い、いえ……

 最近、ガルムさんに避けられている気がして……

 それが……苦しくて……」


 ミナが素っ頓狂な声を漏らし、リーネが尻尾を逆立て、セレスが眉を寄せた。


「それは逆ですわ、完全に逆ですわね」


 俺は苦笑をこらえつつ頷いた。


「ガルムさんは、あなたのことで悩んでいましたよ。

 避けているわけではなく、むしろ……想い過ぎて距離を取ってしまっているんじゃないですか」


 マルガの頬が一瞬で紅潮した。


「そ、そんな……

 でも……わたし……熊族で……

 ガルムさんはゴリラ族……

 種族が違うから……迷惑になるんじゃないかって……」


 その声が、震えている。


「種族が違うと、迷惑なんですか?」


 俺が問うと、マルガは困ったように首を振った。


「わ、わからないんです……

 でも……周りの目とか……

 ガルムさんが困るんじゃないかって……」


「好きなら、種族なんて関係ないでしょう」


 マルガの瞳が、大きく見開かれた。


「で、でも……」


「肩の痛みも、その気持ちが原因かもしれません。

 では、触れますね」


 俺はそっと肩へ手を添えた。


 霊体視の感覚が広がる。


 マルガの霊体が――視えた。


 茶色がかった温かな光。

 強靭な筋肉の鎧をまといながらも、胸の中心にだけ小さく萎んだ光を抱えていた。

 その光は、不安と迷いで灰色に濁っている。


(これは……"想いながらも踏み出せない心"か……)


 そして――

 霊体の表面に、うっすらと「壁」のようなものが張りついていた。


(種族の違いを気にする心が……壁を作っているのか……)


「診ますね」


 俺は深く息を吸い、軽擦法から入った。

 掌で肩から背中へと、静かに撫でるように滑らせていく。


 ふるふる……


 表面の壁が、少しずつほぐれていく。


「あ……」


 マルガの声が、小さく漏れた。


 ミナとリーネが、じっと見守っている。

 セレスも、静かに目を閉じていた。


「次は摩法で、深いところを緩めていきます」


 俺は肩甲骨の内側へそっと指を沈める。

 霊体の芯に、じんわりと熱を流し込むように。


「んっ……」


 マルガの身体が、わずかに震えた。


「痛みますか?」


「い、いえ……

 こんな……優しく触れられたの……

 久しぶりで……」


 その言葉に、ミナたちが胸元を押さえた。


 ミナ(小声)

「マルガさん……寂しかったんだ……」


 リーネ(小声)

「にゃあ……気持ち、分かるにゃ……」


 俺は背中全体へ手を広げた。

 摩法――霊体の流れに沿って、ゆっくりと撫でていく。


「はぁ……っ……」


 マルガの呼吸が、深くなっていく。


 霊体の壁が、少しずつ薄くなっていく。


「ガルムさんのこと、どう思っているんです?」


 問いかけると、マルガはためらいがちに唇を震わせた。


「……好き、です……

 ずっと……ずっと好きでした……

 でも……種族が違うから……

 わたしなんて……釣り合わないと思って……」


「釣り合うかどうかじゃなくて。

 伝えたいかどうか、ですよ」


 俺は胸の中心、心兪のツボに指を当てた。

 按圧法――3秒押して、2秒離す。


「んんっ……」


 マルガの身体が、びくんと跳ねた。


 胸の中心にあった灰色の光が――

 ゆっくりと、ほどけ始めた。


「あ……っ……」


 マルガの瞳から、涙が一筋――頬を伝った。


「わたし……

 ガルムさんに……伝えたい……

 種族が違っても……

 好きだって……伝えたい……」


 その声が、震えながらも強くなっていく。


 俺は揉捏法で、背中全体を解していく。

 円を描くように、霊体の滞りを解きほぐす。


「はぁ……はぁ……っ……」


 マルガの呼吸が、さらに深くなる。


 霊体の壁が――

 パキン。


 音を立てて、砕け散った。


 茶色の光が――

 温かく、優しく、輝き始めた。


 ミナが息をのむ。


「綺麗……」


 リーネも尻尾を揺らす。


「にゃあ……マルガさんの霊体……すごく優しい色にゃ……」


 セレスが静かに微笑んだ。


「……種族の壁が、消えましたわね」


 俺は最後に、手のひらの中心――労宮のツボを押した。

 愛情を伝えるツボ。


「んっ……」


 霊体が、全身に広がった。


 光が――

 ふわり、と店内を包んだ。


「終わりました。

 心の重さが減ったはずです。これなら、言えるんじゃないですか」


 マルガはゆっくりと目を開けた。

 涙で濡れた瞳が、俺を見上げる。


「……はい。

 言いたい……です。

 伝えたい、です……

 種族が違っても……

 わたしの気持ちは……本物ですから……」


 その声は、もう震えていなかった。


 ミナが駆け寄った。


「マルガさん、頑張って!」


「応援してるにゃ!」


 リーネも尻尾を振る。


 セレスが静かに言った。


「……私も、種族で悩んだことがあります。

 でも……ここにいられる。

 マルガさんも、きっと大丈夫ですわ」


 マルガは、三人を見て――

 優しく微笑んだ。


「……ありがとうございます。

 勇気……もらいました……」


 そう言って立ち上がったマルガの背中は――

 さっきよりも、まっすぐに見えた。


〈第38話 続〉


【第38話(下)次回予告】


「やはり……種族の違いが……

 俺には……資格がないのではないか……」


 まだ迷うガルム。

 でも――三人娘が黙っていない。


「種族が違うから何? 好きなら関係ないよ!」

「そうにゃ! 心が大事にゃ!」

「お二人は……きっと結ばれるべきですわ」


 そして――運命の再会。


「マルガ殿……!」

「ガルムさん……!」


 異種族の壁を乗り越える、二人の告白。


――次回

第38話「門番の恋(下)」

おじさんの協力で、種族を超えて、想いを伝える。


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