表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊体マッサージで女神様を癒やしたら、異世界に飛ばされて異種族の娘たちにモテモテになって困る! 俺はただのおっさん整体師なのに!  作者: カクナノゾム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/40

第27話 老婆マーサのアンチエイジング(上)

 夕暮れのユージ堂。

 最後の客を送り出し、店の中にほっとした空気が満ちていた。


「ふぅ……今日もよく来てくれたね」


 俺が背伸びをすると、ミナが尻尾をぱたぱた揺らしながら振り向いた。


「ユージ、拭き掃除は終わった?」


「ああ。そっちはどうだ?」


「こっちももうすぐ終わるよ」


 リーネがカウンターの上を磨き上げ、セレスが椅子の位置を揃える。

 そんな平和な時間に――


「おーい、ユージ! 開いてんだろうね!」


 ガラッと勢いよく扉が開いた。


「わっ」


 狐族特有の白い尾を揺らしながら入ってきたのは、この一角の主でもある老婦人――マーサだった。腰は曲がっているが、その声と目の力強さは若者にも負けていない。


「マーサ婆ちゃん!」


 ミナがぱっと顔を輝かせる。


「やあ、ミナ。ちゃんと働いてるかい?」


「もちろん! ユージの右腕だからね!」


「左腕はあたしにゃ」


 リーネがすかさず割り込む。


「では私は……心臓辺りを目指して精進しますわ」


 セレスがさらっと物騒なことを言う。


「怖いこと言わないでくれ」


 俺は苦笑しながらも、マーサの様子をそっと観察した。


(歩幅が……少し、狭くなったか)


 以前なら、もっと軽快にずかずかと歩いてきたはずだ。

 今の足取りは、わずかだが重さが混じっている。


「どうしたんですか、マーサさん。今日は珍しいですね」


「ん? 用事がなきゃ来ちゃいけないのかい」


「いえ、そういう訳では」


「冗談さ。今日は、ちょっと体の具合を見てもらおうと思ってね」


 マーサはどっかと椅子に腰を下ろした。

 笑顔はいつも通り豪快だが、その尻尾は少しだけ力なく垂れている。


「……やっぱり、どこか悪いんじゃない?」


 ミナが眉をひそめる。


「悪いところの一つや二つ、歳を取れば当たり前さね」


 マーサはそう言って肩をすくめた。


「でもまあ……

 せっかく癒やし手が同じ長屋に住んでるんだ。

 たまには、甘えたって罰は当たらないだろ」


「甘えてくれるなら、大歓迎ですよ」


 俺は笑って、施術台を指さした。


「よかったら……霊体、診せてもらえますか」


「ふん。あんたの"目"には、最初から誤魔化しは利かなそうだねぇ」


 そう言いながらも、マーサは素直に施術台へと腰を移した。


「ミナたちも、見てていいぞ」


「うん!」


「勉強になるにゃ」


「先生の施術は、いつ見ても興味深いですわ」


 三人娘が周囲に集まり、マーサを見守る。


「じゃあ、楽にしてください。目を閉じてもらっても構いません」


「はいはい。任せたよ、若いの」


 俺は静かに目を閉じ、霊体視の感覚へと意識を沈めた。


 ――そっと、マーサの肩に手を置く。


 ぴり、と指先に温かい反応が走った。

 狐族の霊が持つ柔らかな金色の光。その中に、幾重にも重なった年輪のような筋と、ところどころ薄れて揺らぐ影。


(……やっぱり、長い時間を生きてきた霊体だな)


 疲労や病ではない。

 歳月の積み重ねそのものが、霊体を重くしている。


「どうだい」


 マーサが目を閉じたまま尋ねる。


「……ずいぶん、頑張ってきた霊体だと思います」


「そりゃそうさ。若い頃はねえ、薬草背負って山から山へ飛び回ってたんだ。

 男どもより速く登って、男どもより重い荷物を担いで、男どもより稼いでやったよ」


 自慢げに言う声が、どこか誇らしげだ。


「かっこいい……」


 ミナが素直に呟く。


「にゃ、完全に男前にゃ……」


「その気質で、なおかつ家を束ねている……恐るべき方ですわね」


 セレスが小声で感想を漏らした。


「実際、嫁に来いって口説いてきた男もいたよ。断ったがね」


「ですよね……」


 俺は苦笑しつつ、軽擦法から入ることにした。


「まずは、軽く擦って表層を整えます」


 掌で肩から背中へと、静かに撫でるように滑らせていく。

 表面のくすみが、ゆっくりと薄くほぐれていくのが分かる。


「……ふむ。こりゃ、不思議なもんだね。

 体の上から触られてるのに、奥の方が撫でられてるみたいだ」


「霊体の表面に溜まった細かい澱を、拭っている感じですね」


 何度か往復するうちに、金色の光がわずかに澄んできた。


「次は摩法で、深いところを緩めていきます」


 俺は肩甲骨の内側、霊筋が固まっている部分へそっと指を沈める。

 霊体の芯に、指先からじんわりと熱を流し込むようなイメージで、ゆっくりと撫でる。


「……ふっ……」


 マーサの胸が、わずかに上下した。


「痛みますか?」


「いや……これは……懐かしいねぇ……

 若い頃、焚き火を囲んで仲間と背中を預け合ってた時の……

 あの温かさに、少し似てるよ」


 霊筋は固い。しかし、その奥に灯っている火はまだ消えていない。


(本当に……よくここまで、走り続けてきたな)


 少しずつ摩法の範囲を広げ、背中全体を丁寧になぞっていく。

 固くなっていた筋の表面に柔らかさが戻り、光がじわじわと濃くなる。


「じゃあ、按圧法いきます。

 少し強く押しますから、苦しかったら教えてください」


「ふふ。若いのに遠慮されると、かえって腹が立つね。

 遠慮なくやっておくれ。まだまだ若い連中の前で弱音は吐けんよ」


「了解です」


 その言葉に、長い時間を生きてきた者の誇りが滲んでいた。


〈第37話 続〉


【第37話(下)次回予告】


「昔の仲間……ですか」


「そうさね。

 一緒に山を駆けて、戦場を抜けて、酒場で馬鹿笑いして……

 気付けば、みんな先に逝っちまった」


 老いた霊体に刻まれた、歳月の重み。

 背負ってきた時間を、優しくほどいていく。


「あの子が笑える場所を、ずっと作ってやりたかったんだよ」


 育ての親の願い。

 若返る霊体。

 そして――最後の言葉。


――次回

第37話「老婆マーサのアンチエイジング(下)」

おじさん、背負ってきた時間を、軽くする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ