表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊体マッサージで女神様を癒やしたら、異世界に飛ばされて異種族の娘たちにモテモテになって困る! 俺はただのおっさん整体師なのに!  作者: カクナノゾム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/40

第26話 セレスの不安(上)

 朝の光が、ユージ堂を照らしていた。

 開店前の静かな時間。


「今日は買い出しに行くよ!」


 ミナが元気よく言った。


「食材も足りないし、リーネの好きな魚も買わないとにゃ」


「うん! それとミナの肉もですにゃ!」


「あたし肉ばっかり食べてないから!」


 二人がわいわい言い合っている。

 セレスが静かに微笑んだ。


「私も……ご一緒してもよろしいですか?」


「もちろん!」


「一緒に行くにゃ!」


 俺は頷いた。


「じゃあ、三人で頼むな。俺は店番してる」


「はーい!」



 三人が市場へ向かう。

 朝の市場は賑やかで、活気に満ちていた。


「わあ、今日は魚が新鮮にゃ!」


「ミナ、こっちの肉も美味しそうだよ!」


 ミナとリーネが楽しそうに駆けていく。


 セレスはその後ろを、優雅に歩いていた。

 金色の髪が朝日に輝き、上品な佇まい。


「まあ、お嬢さん、綺麗だねえ」


 果物屋のおばさんが声をかけた。


「あ……ありがとうございます」


 セレスが丁寧にお辞儀をする。

 その仕草は完璧で、貴族の教育が滲んでいた。


 でも――

 値段を聞かれると、わずかに戸惑う。


「この林檎、三つでいくらですか?」


「ええと……その……」


 ミナがすかさずフォローした。


「銅貨五枚だよ、セレス」


「あ、はい……銅貨五枚で……」


 リーネが小声で呟いた。


「にゃあ……セレス、お金の感覚がないにゃ……」


「しょうがないよ。貴族の人だったんだから」


 セレスが小さく俯いた。


「……ごめんなさい。迷惑をおかけして……」


「迷惑じゃないよ! これから覚えればいいんだから!」


 ミナが笑顔で言う。


 セレスも、ほっとしたように微笑んだ。


 その笑顔は――

 わずかに、輪郭が揺れた。


 リーネが首を傾げる。


「にゃ……? なんか……セレス、今日ちょっと違う……?」


「え? そんなことは……」


 セレスが慌てて顔を背ける。


 ミナは気づかず、次の店へ駆けていった。



 野菜売り場で、ミナとリーネが小競り合いを始めた。


「この人参、あたしが先に見つけたんだから!」


「でも手に取ったのはリーネが先にゃ!」


「そんなの関係ないよ!」


「関係あるにゃ!」


 二人がむきになって張り合う。

 周囲の視線が集まり始めた。


 セレスが静かに歩み寄る。

 穏やかな笑顔で――


「お二人とも」


「な、なに?」


「にゃ……?」


 セレスが優しく、でもはっきりと言った。


「……その場で張り合うのは、ユージさんに迷惑だと思いますが?」


「「ッ!?」」


 ミナとリーネが固まった。


 セレスは微笑んだまま続ける。


「帰ってから『あの二人が喧嘩ばかりで困った』とユージさんが溜息をつかれたら……お二人、どう思われますか?」


「う……」


「それは……嫌にゃ……」


「ですよね? では、仲良くしましょう」


 セレスがにっこりと笑う。

 ミナとリーネは、ばつが悪そうに視線を逸らした。


「……ごめん」


「……ごめんにゃ」


 二人が人参を半分ずつ持つ。


 リーネが小声で呟いた。


「……腹黒いにゃ……」


「にゃ、にゃんだと……(狼なのに)」


 ミナも小声で返す。


 セレスは何も聞こえないふりをして、微笑んでいた。



 買い物を終え、帰り道。

 三人が並んで歩いている。


 ミナが楽しそうに言った。


「今日は楽しかったね!」


「にゃあ、また三人で来たいにゃ!」


 セレスも微笑む。


「ええ……楽しかったです」


 でも――

 その笑顔が、ふと曇った。


 セレスが立ち止まる。


「……私」


「ん?」


「どうしたの、セレス?」


 セレスが小さく俯いた。


「……私、皆さんと一緒にいてもいいのでしょうか」


「え?」


「にゃ……?」


 ミナとリーネが驚いた顔で見つめる。


 セレスは言葉を続けた。


「与えられた役割のない人生を……どう生きればいいのか……

 私には……まだ分からないんです」


 その声が震えている。


「影武者として生きてきた私が……

 ただのセレスとして生きることが……

 本当に許されるのか……」


 ミナが駆け寄った。


「いいに決まってるよ! 仲間だよ!」


「そうにゃ! セレスがいないと寂しいにゃ!」


 リーネも頷く。


 セレスは、二人を見つめた。


「……ありがとうございます」


 でも――


「ですが……そのお言葉に甘えてよいのか……

 私はまだ……怖いのです」


 風が吹いた。

 セレスの金髪が、ゆっくりと揺れる。


 その髪が――

 わずかに、銀色に見えた。



 ユージ堂に三人が戻ってきた。


「おかえり。買い物、どうだった?」


「楽しかったよ!」


「いっぱい買ってきたにゃ!」


 ミナとリーネが荷物を置く。


 セレスも静かに荷物を下ろした。


「ただいま戻りました、ユージさん」


 俺は、ふとセレスの顔を見た。


(……ん?)


 何か……違和感がある。


 俺は診気を集中させた。

 霊体視――


 セレスの霊体が、視えた。


 白金の光。

 美しい霊体。


 でも――

 その輪郭に、わずかな「二重の像」が重なっていた。


(これは……)


 俺は静かに言った。


「セレス」


「はい?」


「……お前、今、自分の姿じゃないだろ」


「!?」


 セレスの瞳が、大きく見開かれた。


 ミナとリーネも驚いて振り向く。


「え!?」


「どういうことにゃ!?」


 セレスは、ハッと息をのんだ。


 そして――

 ゆっくりと、変身を解いた。


 わずかに顔の輪郭が変わる。

 髪の色が、ほんの少し濃くなった。


「……ごめんなさい」


 セレスが俯く。


「気づいたら……つい……

 昔の癖で……誰かの姿を借りて……」


 ミナが息をのむ。


「セレス……無意識に変身してたの……?」


「にゃあ……それって……」


 セレスが小さく頷いた。


「不安だったんです。

 自分のままで、この場所にいていいのか……

 それが……怖くて……」


 その声が震えている。


「だから……つい……

 誰かの姿を借りて……自分を隠してしまって……」


 俺は、セレスの肩に手を置いた。


「セレス」


「……はい」


「施術をしよう」


「え……?」


 セレスが顔を上げる。


「でも……私などより……他に優先すべき方が……」


「セレスを後回しにする理由はない」


 俺ははっきりと言った。


「お前は、今、ここにいる。

 それだけで十分だ」


 セレスの瞳が、潤んだ。


「……ユージさん……」


〈第36話 続〉


「シェイプシフターは……霊体への接触を強く感じるんです……」


 セレスの霊体に隠された、黒い鎖の痕。

 長い従属生活が刻んだ、心の拘束。


「自由が……怖かったのです……


 自分のままで生きることも……」

 優しい手が、鎖をほどいていく。

 額の金色の紋章が、ふわりと光る。


「お前は、お前のままでいい」


――次回

第36話「セレスの不安(下)」

おじさんと本当の自分を、取り戻す夜。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ