第20話A 帰還と予感(上)
夕暮れ時。
馬車がファングレストの門をくぐった。
「……着いた」
ミナが窓から身を乗り出す。
「ただいま、ファングレスト!」
リーネも尻尾を振る。
「帰ってきたにゃ!」
セレスは、初めて見る獣人の街に目を丸くしていた。
「……すごい」
石畳の通り、木造の家々、そして――行き交う、様々な種族の人々。
狼族、猫族、熊族、狐族。
みんな、思い思いに歩き、笑い、話している。
「ここが、ファングレスト……」
「ああ。獣人の街だ」
俺が答える。
「人間は少ない。でも――みんな、温かい」
まずは、帰還の報告をしに、マーサさんの家を訪問する。
コンコン、とノックすると扉が開き、マーサさんが現れた。
「おや、やっとお戻りかい!」
「はい、なんとか戻りました。留守の間管理して頂き、ありがとうございます」
「ふん、無事に帰ってきたね。ミナ、リーネ、ユージ――それに、新しい子も?」
「はい。セレスと申します」
セレスが丁寧に礼をする。
「まあ、綺麗な子だねえ。ユージ、また一人増やしたのかい?」
「まあ、そんなところです」
俺が苦笑すると、マーサさんが笑った。
「いいねえ。賑やかになる。まぁ、入りな。お茶、淹れるよ」
ぶっきらぼうだが暖かいマーサさんの言葉に甘え、俺たちは扉をくぐった。
◇
――日が落ちる頃、俺たちは帰ってきた。
皆で足を止め、ユージ堂の前に立つ。
看板が、夕陽に照らされて光っている。
『おかえりなさい、癒やし処 ユージ堂』
「……いい看板ですね」
セレスが、看板を見上げた。
「そうだろ?」
俺が頷くと、ミナが誇らしげに言う。
「あたしたちが考えたんだ」
「ミナが考えたんですにゃ」
リーネが訂正する。
「リーネも手伝ったでしょ!」
「手伝っただけにゃ」
二人の掛け合いに、セレスがくすりと笑った。
◇
ユージ堂の中。
懐かしい木の香り、柔らかな光。
セレスは、ゆっくりと室内を見回した。
「……ここが」
「ああ。俺たちの家だ」
ミナが、セレスの手を引く。
「こっちが施術室。こっちが居間。奥に寝室があるの」
「リーネと相談して、セレスさんのベッドも用意するにゃ」
リーネが尻尾を揺らす。
「え……本当に?」
「当たり前だろ。今日の所はミナかリーネと一緒にベッドを使ってくれ」
俺が言う。
「お前も、ここの一員だ」
セレスの目に、涙が滲んだ。
「……ありがとう、ございます」
その声は震えていた。
「私……居場所を、もらったんですね」
「もらったんじゃない。お前が選んだんだ」
俺は微笑んだ。
「ここが、お前の帰る場所だ」
セレスは両手で顔を覆った。
「……うれしい」
涙が止まらない。
ミナとリーネが、セレスを抱きしめた。
「泣かないで」
「泣いていいにゃ。嬉しい涙は、いい涙にゃ」
三人は、しばらく抱き合っていた。
◇
夜。
久々に俺が腕を振るい、皆で食卓を囲む。
「人族のお貴族が獣人に謝るの初めて聞いた!!」
ミナが興奮気味に話す。
「あの時、ミナすごかったにゃ! 貴族に向かって、堂々と言い返したにゃ!」
「だって、ユージが正しいんだもん!」
ミナが照れたように笑う。
セレスも微笑む。
「お二人とも、本当にありがとうございました。あなたたちがいなければ、私は――」
「いいの、いいの」
ミナが手を振る。
「あたしたち、仲間だから」
「そうですにゃ」
リーネも頷く。
俺は三人を見つめた。
(ミナは、人を守る強さを知った)
(リーネは、自分の痛みを言葉にできた)
(セレスは、自分自身を見つけた)
(三人とも――成長した)
感慨にふけって皆を見ていると、ミナが、少し妙な顔で俺を見ている。
「なんだ?」
「ユージ、おじさんくさい。ニヤニヤと締まりのない笑顔を浮かべちゃってるよ?」
やめろ! その一言は俺に効く!!
暖かく見守っていたつもりだったんだよ!!
確かにおじさんなんだが、改めて言われると切ない!!
と、リーネがニヤニヤと笑みを浮かべて話しかけて来た。
「長い旅で私たちもお疲れモードですにゃ。ここはひとつユージに癒やして貰わないとですにゃ?」
「ねぇ、ユージ」
ミナがそわそわと耳を揺らす。
「今日は……あたしを、癒やしてくれない?」
「わ、私もですにゃ!」
リーネが手を挙げた。
「長旅だったから、ちょっと腰が……」
セレスも、少し恥ずかしそうに口を開く。
「私も……ユージ様の施術、受けてみたいです」
視線が、三方向から集中する。
(これは……困ったな)
ミナ、リーネ、セレス――それぞれが、俺を見つめている。
(誰か一人を選ぶしかないのか……?)
「順番でもいいけど……今日は、時間が遅いから、一人だけ」
「え〜〜っ!」
三人の声が揃った。
「じゃあ、誰にするのか、決めてくださいにゃ……!」
ミナは腕を組んでいる。
「さあ、ユージ」
セレスも微笑む。
俺は、三人を順に見た。
(誰を癒やすか……今夜、選ばなければ)
【次回予告】
帰還の夜、三人の少女が悠司を見つめる。
「今日は……あたしを、癒やしてくれない?」
「私もですにゃ!」
「私も……ユージ様の施術を……」
ミナ、リーネ、セレス――
悠司は、誰を選ぶのか!?
――次回 選択回
第20話-1「ミナを癒やす」
https://ncode.syosetu.com/n0982lh/21/
第20話-2「リーネを癒やす」
https://ncode.syosetu.com/n0982lh/22/
第20話-3「セレスを癒やす」
https://ncode.syosetu.com/n0982lh/23/
おじさん、誰を選ぶのか!
※出来れば、1人だけ選んで読んでいただければ!
今のヒロイン人気がわかるので、この先の参考に!
――勿論、全員を癒やしてあげてもいいのですが!




