5話 ゲーマーJKととある放課後
高校に入学して授業が始まってから早一週間。
今日の昼休みも留美と葵の三人で昼ご飯を食べに学食へ来てそれぞれ好きな物を食べている。
「んーー、ここの学食はどれも美味しいねぇ」
「うん、安くて美味しいのはとても助かる」
「ホントにね。お弁当買って持って来るのを最初は考えてたけど、あたしもすっかり学食派になっちゃったなぁ」
高校の特徴の一つで学食の評判が良いと聞いてたから期待してたけど、本当に学食が美味しくて無限に食べれるかも。
学食の部屋は広く、席の数も多くてパッと見た感じは二クラス分の人数は余裕で入りそうだがほとんど全ての席が埋まっていて、男子も女子も合わせて多くの生徒で賑わっている。
「……で、毎回スズを見てて思うんだけどさ」
「うん?」
「スズって学食以外でもいつも同じくらい大量に食べてるの?」
留美が指さすのは、私が持っているカツ丼のどんぶりと、私の横に積み重なって置かれている四つの空になったどんぶり。
「そうだねぇ、確かに家で食べる時とかもここの学食ほどじゃ無いけどたくさん食べてるかな」
「その身体の何処にそんな量のご飯が入ってるのか不思議……」
「それでいてこの前の身体測定で五十キロちょっとだっけ?何か運動とかしてるの?」
「いや、特に運動とかそういうのはしてないかな」
「じゃあ、太らない体質の超大食いだった……?」
「私は気にした事無かったけどそうなのかな?」
「はーー、世の中の全女性が羨む肉体を持ちよって〜羨ましいな〜」
「たくさん食べても太らないのは……ズル」
「そ、そう言われても私にはどうにも……」
と二人に「羨ましいぞ〜」と昼ご飯を食べ終わって学食から教室に戻る間、二人に頬やお腹をずっとぷにぷにされる事に。
あの、周囲からの視線が……ね?
● 〇 ● 〇 ● 〇
午後の授業も終わり放課後。
留美と葵とは学校で別れ、寄り道に私は普段行きつけのゲーセンへと足を運んでいた。
お母さんにはメールで帰りが遅くなる事と晩ご飯は食べて帰ると伝え済みなので、後の事は気にせず遊びまくるつもりでいる。
「学校からだと距離ある気がするけど、地図アプリだと片道二十分ってなってるし、地図での見た目より近いのかな」
学校から行くのは初めてだからスマホの地図アプリで現在地を調べつつ、目的地へと歩いていく。
そうして町の大通りに出てからたどり着いた私の行きつけのゲーセン『Happy天塚店』
一階はクレーンゲームやシューティングゲーム、音ゲーが中心に置いてあり、格闘ゲームや麻雀系のゲーム、チーム対戦ゲームが二階に置いてある。
そしてこのゲーセンの特徴として、三階はフリースペースとなっている。
一階や二階と違って一般家庭にあるような部屋のようになっているのだが、有志によるゲーム機やソフトの持ち込みが可能で、部屋の使用料金を支払えば人で集まって家庭用のゲームが遊べるという素晴らしい場所となっている。
格闘ゲームでたまにいる『オンラインはラグとかあるから嫌だけど、オフライン対戦なら好き』という人もこれにはニッコリである。
そして私が今日このゲーセンに来た目的は二階にある格闘ゲームコーナー。
千円札を百円玉に両替してから座るのは『BATTLE OF STREET6』という世界的格闘ゲームの六作目、そのアーケード版だ。
家庭用は当然持っていてプレイしているし、最近の格闘ゲームは家庭用がメインになっている世の中だけど、アーケード版にはアーケード版の良さがあってこうして時たまに遊んでいる。
『Here Comes a New Challenger』
「お、もうさっそく当たった」
最近のアーケード版格闘ゲームはオンライン対戦で全国の人とも対戦可能で、対戦発生時に画面の右下に『店内対戦』か『全国対戦』のどちらかで判別できるようになっている。
今回は『店内対戦』と表示されているから、反対側の筐体に先客が居たらしいね。
私の選ぶキャラはコマンド投げと技のリーチが長いのが特徴のブルーレスラー、対して相手のキャラは主人公キャラのタカシ。
キャラ相性は悪くない……さて、闘ろうか。
『ROUND1 FIGHT!』
まずは相手が距離を取って飛び道具を撃ってくる。
なるほど、確かに私の使うブルーレスラーは技の出る速度や移動速度が遅くて飛び道具による牽制は効果的だ。
でも、ただ飛び道具を撃ってくるだけならガードしながら近づけば良い。
距離を取って飛び道具を使う……ということはその実、自分から画面端に下がっていってるとも言えるからね。
ブルーレスラーの強みであるコマンド投げと打撃の二択が輝くのは画面端、その画面端に相手を追い込むのが課題のキャラとしてはむしろ有り難い状況なんだ。
相手との距離を近づけつつ、時にはボタンを押して技を見せ、何発か飛び道具に当たりつつも画面端に相手を追い込んだ私は相手が飛ぼうとした所に打撃を通してダメージを取り、逆に打撃を受けないようにガードしたらコマンド投げを通してそのままラウンドを取っていく。
『ROUND2 FIGHT!』
「うわわ、動き変えてきた!」
次のラウンドでは相手は今までの距離を取る動きと違って、今度はこちらが技を振れないように近距離で小技を出してガードを強要させる動きへと変わっていた。
これは迂闊に技を振ったら発生の速さで負けてコンボされるやつかな……何処かで技に隙間があれば……。
上段、下段と発生が速くて隙が少ない技はしゃがみガードで対応できるけど、しゃがみガードできない中段攻撃を出されるとしゃがんだままでは喰らってしまう。
ただ、中段攻撃は技の発生速度が遅いから、何処かで出してくれれば……!?
「そこだ!!」
相手の攻撃の隙間、発生が遅い中段攻撃の動きが見えた私は瞬間的にレバーを二回グルグルと回し、画面下にある必殺技ゲージを消費して放つこのゲーム屈指のダメージを誇るコマンド投げ『ギャラクシーパワーボム』を通す事に成功した。
ふっ、これが若さ……若さから来る反応の良さ……!
反対側の筐体から「マジかよ!」と男性の叫び声が聞こえてきて、この相手の悲鳴が生で聴けるのがアーケードの良いところだなぁ〜とギャラクシーパワーボムの派手な演出と共に思う私。
しかし、ギャラクシーパワーボムを決めても相手の体力は四割ほど残っている。
演出が終わり次第すかさずダウンしている相手キャラと距離を詰め、相手の起き上がりにしっかりもう一度コマンド投げを決めて残り一割。
流石に次はコマンド投げは警戒されるだろうともう一度コマンド投げでダウンした相手に近づき、今度は打撃技を重ねにーー
「とでもすると思った?」
ーー私の予想通り、起き上がりに合わせてのコマンド投げを読んでいたみたいで相手はジャンプして、地上のコマンド投げを喰らわない動きを見せてきた。
しかし残念、このブルーレスラーというキャラにはね……
「空中で出せるコマンド投げもあるんだよねぇ〜!」
相手が地上のコマンド投げを読んで飛んだ?でも私は相手がそうする事を読んで飛んだ。
そして空中で相手のキャラと私のキャラの横軸が合わさった瞬間にレバーを一回転してボタンをバシッと叩く。
すると画面内でブルーレスラーが空中の相手をガッシリと掴み、地上に叩きつけて相手の体力がゼロになった事で画面いっぱいに表示される『KNOCK OUT!』の文字。
「ああああああ!!!」
……んん〜〜!!
この地上投げを嫌がって飛んだ相手に空中投げを決めて勝つの、何度やっても気持ちいい〜!!
再び相手の悲鳴が筐体の反対側から聴こえてくると共に『チャリン』というコインが筐体に入る音。
このボイスチャットとは違う生の声とコインの音が聴けるのがゲーセンの、アーケード版の好きなとこなんだよね。
仲の良い格ゲーマーとゲーセンの話題になった時にこの話をしたら「ゲーセン勢にしか伝わらないやつ」「なんかやべー女がおる」とか言われたけど。
さて、さっきのコインの音からして相手は連コインしてきたっぽいし、また私が勝たせてもらおうかな〜。
〇 ● 〇 ● 〇 ●
「ふー、だいぶ対戦したなぁ」
相手の連コインが終わってからも満足するまでオンライン対戦し続け、気がつけば夜の七時に。
そろそろ何処かでご飯食べて帰らないとなぁ。
気分的に炒飯とかご飯物が食べたい気分だけど、近くにあったかな。
スマホの地図アプリで近くの飲食店を調べてみると、このゲーセンからそう遠くない場所に一件中華料理屋がヒットした。
中華料理かー……ここなら炒飯とか定食でご飯物はあるだろうし、今日はそこで食べて帰ろっと。
私は足早にゲーセンを出て中華料理屋へと向かって行き、ものの十分で目的の中華料理屋へ着いた。
普段通らない場所とはいえ、ゲーセンの近くに中華料理屋があったなんて知らなかったな。
外観は昔からありますという雰囲気がある建物で、入り口のガラス扉は横にスライドする形式で幟には『中華飯店』とだけシンプルな赤文字で書かれている。
中には何人か客が来ているみたいで、外にも美味しそうな料理の香りが漂ってくる。
……よし、入ろう!
「いらっしゃっせー、空いてる席にどうぞー」
ガラス扉を開けて店に入り、空いているカウンター席に腰をかける。
さーて、何があるのかな〜とメニュー表を見ていると、ラーメンや炒飯に餃子といったザ・中華料理から回鍋肉に唐揚げ定食といった定食系のメニューもあって、いざ来てみるとどれを食べようか悩んじゃうね。
「しかも、外から見るよりも店の雰囲気も良いねこの店」
店に居るのは会社終わりのサラリーマンらしきスーツ姿の男性数人がテーブル席でビールを飲みながら騒いでいて、他のテーブル席には女性が一人、私とは離れた位置だけど同じカウンター席には男性が一人。
店の広さはそう広くないけど、かといって狭いとも感じられない。
「……ん?」
店の中をキョロキョロと見回していると、壁に貼られているポスターの一枚がふと気になって良く見てみる。
なになに?『チャレンジメニュー特大炒飯!三十分で完食できたら五千円!ただし完食できなかったら五千円いただきます』だって……?
「今財布の中に五千円以上あったかな……?」
カバンの中から財布を出して中身チェック。
財布の中には……よし、五千円以上ある!
それにこの中華料理屋に来たのも、何かご飯物が食べたかったからで私にとってとても好都合。
「すいませーん、注文なんですけどー」
「はーい、何にしましょう?」
私はチャレンジメニューのポスターを指差しながら店員の男性に「あのチャレンジメニュー……あります?」と告げる。
「……お嬢ちゃん、悪い事は言わないけど普通のメニューの方が良いと思うよ。あのチャレンジメニューの炒飯は男性だってそう簡単には食いきれないんだ」
……まぁわかってた。
普通なら食べ切れないからやめた方が良いって言われるだろうなって予感はあった。
だけどね……
「私がその男性の数倍以上を食べるって言ったら……?」
「……っ!?なるほど、お嬢ちゃんのその眼、どうやら嘘や虚勢で言ってる訳じゃ無さそうだな」
「当然。……じゃあチャレンジメニューの注文、良いですか?」
「時間がかかるからゆっくり待ってな。……言っておくが、食いきれなかったらポスターにある通り五千円は頂くからな」
「分かってますよ。……その代わり、私が食べきったら五千円、くれるんですよね?」
「言うじゃねえか……完食できたら賞金の五千円は持っていきな」
さて、店員さんがチャレンジメニューの炒飯を作っている最中、店内にあるテレビで流れているバラエティ番組を観ながら待つこと十数分。
店員さんから「お嬢ちゃん、チャレンジメニューの炒飯お待ち」と声をかけられたのでカウンターに向き合って目の前に置かれた、巨大な皿に山盛りに盛られた炒飯を見る。
「おぉ……!」
「米一升を使った特大炒飯だ。今から時間を計るから、三十分以内に完食できたら五千円の賞金を差し上げよう」
「オッケー、では早速……いただきます」
私はスプーンを持って炒飯を一口ーーうまっ!
この炒飯、美味すぎて食が進む!
スプーンを動かす手が止まらない……口が止まらない!
「良い食べっぷりだな……だが、完食できるかどうかは別の話だぜ」
店員さんが何を言ってるか耳に入ってこないけど、特に気にせず次々食べていく。
「す、凄い……あんなに量があった炒飯がみるみる減っていってる!」
「最近の女子高生ってあまり食べないイメージがあったけど、意外とそうでも無かったのか?」
「もしかしてあの娘、フードファイターか何かだったのか……?」
周囲から視線を感じるけど、特に気にする事も無く食べ続ける。
「おいおい……マジで?」
食べる、食べる、食べる、食べる、食べる、食べる、食べる、食べる。
そして最後の一口を食べ終えてコップに入った水を一気に喉へと流し込む。
「美味しかったぁ〜!!」
「まさか本当に全部食べきるとはな……しかも時間に余裕を残して」
ほれ、と店員さんから時間計測に使っていたストップウオッチを見せられると、ストップウオッチには五分ほど残り時間があった。
「炒飯、ごちそうさまでした」
「おそまつさま。ちょっと待ってな……持っていきな、賞金の五千円だ」
店員さんから賞金の五千円札を受け取って財布に入れると、他の客から歓声を浴びながら「また来ます」とだけ伝えて店を出る。
「さーて、いっぱい食べて満足したし、そろそろ帰らないとね」
あ、せっかく賞金貰えたんだし帰りのついでにコンビニで何かお菓子買って帰ろ。
いっぱい食べる君が好き