1話 受験後JCと降臨天使
始めまして、文才の無い文章で良ければ楽しんでもらえると嬉しいです
突然だけど、みんなは『天使』という言葉を聞いて何を想像するだろうか。
天使と言うと頭の上に輪っかがあって背中に翼を生やした裸の小さい人のイメージがあるだろうし、ゲームやラノベといったサブカルモノでも白い翼を背に生やした人の事が多いと思う。
他にも良くあるのは容姿端麗な少女だったり可愛い子供の事を『天使』と表現する事があるかな。
とまぁこんな事を言い出したのは理由があって、最近我が澄川家に住む事になった居候が関わっている。
その居候は長い金のストレートヘアーに金色の瞳に切れ長の目、整った鼻に滑らかな肌という容姿端麗でかつ可愛さのある女性でまさに『天使』と言う言葉がピッタリな存在だ。
ただ、この女性の場合はこの『天使』と言う言葉の使い方がちょっと違っていてーー
「スズ、周りの人が私の事をチラチラと見てくるんだが……」
「たぶんだけど、その背中の翼が原因じゃないかな?」
「ふむ、人間には無いものだから皆この翼が気になってしまうという事か」
「まぁ嫌でも目立つからねぇ……」
ーー比喩表現で使われる言葉としての『天使』ではなく、本当の意味での『天使』な事かな。
〇 ● 〇 ● 〇 ●
「受験が終わるまで長かったなぁ〜いい加減ゲームしたい溜め込んでた漫画読みたい〜」
高校受験の帰り道に河川敷の側を歩きながら私ーー澄川五十鈴は独りごちる。
受験のテスト、一通り解答用紙を埋めた時に名前書いてるかとか、解答欄間違えてないかとか大丈夫かなーって何度か確認したからたぶん大丈夫だと思うけど、つまらないミスで不合格になったら笑ってられないもんなぁ……。
他にも単純にどれだけ問題に正解してるかも気になるけど、試験が終わった今は問題用紙が手元に無いために自己採点をする事もできない。
しかし、やれるだけの事はやった。なら後は合格発表……結果を待つしか後のやれる事は無い。
「家から近めの距離で、1番行きたい高校だから何とか合格しててほしいなぁ〜。神様仏様天使様、どうか高校に合格してますように……」
……なんて、神社で合格祈願した時とほとんど同じように手をあわせて祈ってみたり。
うへぇ、今日は曇ってるからか普段より冷たい風が手と顔に当たってめっちゃくちゃ冷える。
早いとこ帰って暖房に当たりつつゲームしよっと。
この寒さだと雪が降るかもしれないし、ちょっと早足で……?
「なんだろ……なんか近づいてきてる?」
雪が降りそうだと見上げた空。
曇り空の中に黒い点のようなものが浮かんでいて……なんか点がちょっとずつ大きくなっていって……?
「えっ、何アレ。何か落ちてきてる?」
雨とか雪にしては変というか……よく見ると……いやちょっと待って!?
「もしかして……人!?てか私のとこに落ちてきてない!?何がどうなってるのさ!?」
だんだんと近づいてきてるそれは人の姿をしていて、頭から真っ逆さまに落ちていて……それが空から猛スピードで目の前に……あっ
「ぐぴゃっ!?」
「んぎゃっっ!?」
『ゴッチ〜〜〜ン!!!!!』と激しい音と同時に頭が割れるような痛みが襲いかかる。
あ、これ死んだかも……
「……い、そろそろ……て…れ…」
……頭が痛い。いったい何があったのかわからないけど、何かが頭にぶつかってきたのだけは何となく覚えている。
意識を失ってたみたいで、視線の先には知らない天井……じゃなくてコンクリートが見えた。
傷む頭を押さえつつゆっくり起き上がる。
河川敷の草の上に横になってたみたいで制服に土が付いちゃってる。
「おお、やっと起きてくれたか。あのままうっかり死なせてしまったかと思ったよ」
「死ぬかと思うくらい痛かったけどね……」
「アレ普通なら絶対死んでたでしょ」と横に座っている、嫌でも目立つ純白の羽を背に着けた金髪美少女の方を向いて文句を言いつつ『よく生きてたな私』と内心で思っていた。
いやマジでがよく生きてたよね私……奇跡でも当たりどころが良かった可能性はあるけど、そうでなくても生きてるのは奇跡と言って良いかもしれない。
……いやちょい待ち!?
思わず少女を二度見してしまう。
「うむ、私のような存在ならあのくらい何とも無いが、普通の人間なら確実に死んでただろうな」
「……ん、んう?」
目を擦って改めて少女を3度見。
金髪……まぁヨシ!
美人の……大人ではなさそうだから美少女?まぁヨシ!
金髪美少女の背に見える、純白に輝く二枚の大きな翼……翼!?
「しかし、死ぬ原因が私とあっては色々とマズイのでな、少しばかり奇跡を起こさせてもらったよ。なに、天使であるこのわたしなら容易い事だ」
「……天使?」
うわ、しかも奇跡とか天使とか何かファンタジーみたいな話になってきたぞ?
話を聞くと、彼女……ミカエルは私たちの住む世界とは違う次元にあるという、天使や神が住む世界である天界からやってきたと言う。
で、来た理由と言うのが『天界でグータラ生活していたら父親の先代ミカエルから「人間を助け良い方向に導き、人類の見本となる存在であるのが我々天使だと言うのに、お前のその怠惰な生き方は何だ!初代ミカエルのように立派な天使になるまで帰ってくるな!」と人間界に落とされた』……という訳だそうで。
「で、落とされた先に居たのが君で、不運にもぶつかってしまった。という事だな」
「そ、そうだったんだ……」
天界とかの単語が出てきてから荒唐無稽さが出てきて『なんか捜したらこういう設定のゲームとか漫画とかいくらでもありそうだなぁ』って思ってたけど、実際に空から降ってきたし、背中の羽も動いてるのを見ると偽物とは思えなくて……もしかして本当の事言ってるって事?
「む、何だその『ホントかなぁ〜?』と言いたそうな顔は」
「いやぁ、こうして現実に天使が居るってのはちょっと信じにくくて本当に?ってどうしてもね」
「疑ってばかりではストレスで将来禿げるぞ。ただでさえ君の髪は老人みたいに真っ白けだと言うのに」
「やかまし!」
そういう言い方されるとババアみたいに思われるからやめれ!
そして私の髪は全部ただの若白髪であって元はちゃんとした黒髪!
「まぁ私としても嘘を付く理由は無いし、疑われてばかりなのも困る。だからそうだな……信じてもらうためにちょっと空の旅といこうか」
「はい?」
「ちょっと失礼」
そう言ってミカエルは私のお腹を抱き抱えるように両手でしっかりとホールドするとバサバサという音と共に風が後ろから吹き、首だけで後ろを見るとミカエルが翼を羽ばたかせている。
そして身体がふわりと浮き上がる感覚とともに地面から足が離れてだんだんと空へ。
「ま、マジで飛んでるっ……!?」
「あまり動くないでくれよ。うっかり落とすかもしれんからな」
あっという間に上空へ飛び、下には遠くまで町の景色が広がっているのが見える。
す、凄い……!
「どうだ、人間には翼で空を飛ぶなんてできまい?これで私が本物の天使だとわかっただろう?」
「うん……ここまでされたら信じるしか無いよね……」
確かに人間には翼なんて生えてないし、こうして空を飛ぶなんて無理だ。
ミカエルは私が天使だと信じた事に満足したのか「うむ、分かれば良いんだ」と満足気な顔をしている。
「そうだ、せっかくだから何処か行きたい所はあるか?このまま飛んで送って行っても良いぞ?」
「行きたい所って言っても、受験が終わって家に帰る途中だったから特に無いかなぁ……」
「そうか……それなら家に送っていこうか。家が何処か教えてくれればこのまま飛んで行くぞ」
「あ、それなら……」
今いるのが河川敷の真上で、此処からだと家は……あった!
ミカエルに家の場所を指差しで教えると、ゆっくりと前に進み天使による空中散歩が始まった。
冬なのに不思議と寒さを感じる事が無く空中を進んでいき、それから数分ほどで私の住む家の上に着くとゆっくりと降下して着陸する。
「ほれ、此処が君の家だろう?」
「うん。空の旅凄かったなぁ……ありがとうミカエル」
「なに、このくらいなら良いさ。それより此処にいても冷えるだろうから家に入ったらどうだ?」
「それもそうだね」
私はミカエルにじゃあねと別れを告げて家に入り、後ろ手で鍵をかける。
慣れたもので後ろをわざわざ後ろを見なくても家の鍵くらいはかけれるのだ。
靴を脱いで玄関に上がり、自分の部屋に行くーー前にキッチンにお母さんの姿が見えてまずはキッチンへ。
「お母さんただいまー」
「あらお帰り、受験はどうだった?」
「たぶん大丈夫だと思う」
「ゲーム我慢して真面目に勉強してたものね、きっと合格してるわよ」
「だと良いけどね〜」
とキッチンでクリームシチューを作っているお母さんがこちらを振り向いて……どしたの?なんか驚いた顔してるけど。
「スズ、あなたの後ろに居る人はどちら様……?」
「えっ?」
家に入ったのは私だけのハズだけど……?
恐る恐る後ろを振り向くと、見覚えのある翼の生えた金髪の……って!?
「どうも、お邪魔してます」
「いやお邪魔してますじゃないでしょ!?何勝手にうちに入ってきてるの!?」
家の前で別れたハズのミカエルがいつの間にか家に入り込んでいて、私の後ろに立っていた。
翼が生えた人が家に入り込んでたらそりゃ誰だって驚くわ!
現にお母さんも「翼……え、何かのコスプレ……?」ってミカエルの事を困惑した目で見ている。
「ねえ、さっき家の前で別れたよね?」
「そうだったか?家に入ったらどうだとは言ったが、さようならをした覚えは無いぞ」
「えぇー……」
「えーと、あなたはスズの友達か何かでしょうか……?」
「ああすみません、実は……」
ミカエルの存在に困惑しつつも、お母さんはミカエルの話を聞いている。
けどなんか「人々を導く存在になるため、立派な天使になるまで人間界に行ってこい!」って私が聞いたのと話がちょっと違う気が……私に話した時はグータラしてて追い出されたって感じじゃなかったっけ?
「なるほどねぇ……」
あっお母さんが胡散臭そうな顔してる。
私は空を飛んだ時に本物じゃんって信じれたけど、天使とか天界とか奇跡って単語が出てくるとやっぱ胡散臭く思うよね。
お母さんが翼を触って「コスプレとかに使われるような感触じゃない……まさか本物!?」と驚いてるから、どうやらお母さんもミカエルが本物だと信じたらしい。
「驚いた……天使って本当に存在するのね」
「信じてくれたようで何よりです。それで実はお願いがありまして……」
しかし今更だけど、私に対する言動を知ってるからかお母さんに敬語で話すミカエルって違和感が凄いな。
「お願いとは?」
「無理を承知なのはわかっているのですが、実はこれから行くアテが無くてですね……かと言って帰る事もできないので、もし可能であれば、私をこの家に住まわせてほしいのです」
え、うちに居候する気……?
いや流石に無理でしょ。
「うーん……娘を助けてくれた事は感謝してるけど、ウチは部屋が空いてないから難しいのよね」
「そうですか……」
がっくりと肩を落とすミカエル。
お母さんが「ごめんなさいね」と頭を下げて謝るのに対し、ミカエルも「無理を言ってるのはこちらなので謝らないでください」と頭を下げて返している。
その時、ミカエルの翼が動いた事で僅かな風が起こり、テーブルの上から何かが動いてカサリとミカエルの足元に落ちる音がした。
「これは……?」
ミカエルが落ちた何かを拾い上げると、それはお母さんが良く買っている宝くじの紙だった。
「あら、拾ってくれてありがとう」
「お母さんまた宝くじ買ってたの?」
「昨日買い物のついでにちょっとね。当たったら三億円ってちょっと期待しちゃうじゃない」
「わからなくもないけど、相当低い確率でしょ?」
毎週火曜日の夕方過ぎに当選発表される宝くじで、お母さんはこの宝くじを近所のスーパー近くにある宝くじ屋で毎週買っている。
当然のように毎週ハズレているけど「当たったら三億、当たったら良いな」で今回もまた買ったんだろうね。
「宝くじ……ですか?」
「うん、ミカエルは知らない?」
「天界には無かったからな。当たれば三億円と言うのは人間界でのお金か?」
「そうだね」
一等が当たれば三億円でお金に困らなくなるくらいの大金だね、と教えるとミカエルは「ふむ」と顎に手を当てて小さく頷いた。
「すみません、その宝くじちょっと良いですか?」
「良いけど……まだ当選結果は出てないから見ても特に何もないと思うわよ?」
「いえ……ここはひとつ、奇跡と言うのをお見せしようかと思いまして」
そう言ってミカエルは「ちょっと失礼」とお母さんが手に持った宝くじとお母さんに手をかざすと、ミカエルの手と宝くじ、お母さんのがそれぞれ光に包まれる。
そしてすぐ光が収まると、お母さんはポカンとしたように宝くじとミカエルを交互に視線を向けた。
「ミカエル……何したの?」
「言っただろう?天使の奇跡を見せようと。お母さん、その宝くじの当選結果とやらはいつわかりますか?」
「……あ!当選結果ね!?それなら毎週火曜日の夕方だから……後五分もしたら結果が出るんじゃないかしらね」
「では、それまで待ちましょう」
と、ミカエルが言ってから五分後。
時間になったので宝くじのサイトをスマホで開き、宝くじの番号と合わせて画面に映る当選番号を読み上げる。
「うっそぉ……」
「あらま……」
「ムフー」
開いた口が塞がらない私とお母さん、その正面でドヤ顔をしているミカエル。
これは……マジかぁ……。
「当選番号と宝くじの番号、間違ってないよね……?」
「お母さんも同じのを見てるから間違って無いと思うわよ」
「だよねぇ……宝くじ、三等だけど当たっちゃってるねえ」
スマホの画面に映る当選番号と宝くじの番号を横に並べて何度見比べても、二つの番号は数個一致している。
「どうです?これが天使の奇跡ですよ。ちょっとした奇跡なら起こす事ができまして、お母さんの運気をほんの少しだけ上げたのですが……どうです?」
「凄い……凄いわミカエルさん!いや天使様!」
シュバッと目にも留まらぬ速さでミカエルの横に移動してミカエルの両手を握りしめるお母さんをよそに『奇跡って宝くじにも効果あるんだなぁ』と妙に実感がわかない事を思いつつ、二人のやり取りを眺める私。
「天使様、先ほど居候が難しいと言った件ですが修正します!我が家に何ヶ月……何年……いえ、いつまでも住んでいただいて大丈夫ですよ!」
「おお!それは助かります!しかし、部屋が無いと言っていた覚えがありますが……」
確かに。
居候していいって言っちゃってるけど、空いてる部屋が無かったら無理じゃない?
この家、そこまで広くないから両親の部屋とリビングやキッチンなど、二階も物置部屋と私の部屋くらいしか無いのに。
「それならスズの部屋使ってちょうだい!天使様はスズの事知ってるみたいだしちょうど良いでしょう?」
「はいぃ!?」
お母さん!?何勝手に決めてんの!?
「ありがとうございます」
ありがとうじゃないよ!?
「それでは早速スズの部屋に案内しますね」
「はい。それと、居候の身ですからわたしの事は気軽にミカエルと呼んでください。敬語も要らないですよ」
「あら、それならあなたも今日から家族の一員なんだから、敬語で喋らなくていいわよ。それとお母さんの事は千春かお母さんって呼んでね」
「そうです……んんっ!そうだな、ではママさんと呼ばせてもらおうかな」
……なんか私抜きで勝手に話が進んでいってる。
私もついて行って案内された私の部屋に案内し入ると、ゲームや漫画本が大量に入った棚を見て「面白そうなモノがたくさんあるな」とミカエルが興味津々だったり、そういえばまだ私の名前言ってなかったよねという流れになりーー
「では改めて、天使のミカエルだ。今後ともよろしく」
「澄川五十鈴、私の事はスズって呼んで」
「ああ、これからはスズと呼ばせてもらおう。よろしく」
ーー私の人生に天界から来た天使が関わるという、ちょっと奇妙な日常が始まるのだった。
あ、夜になってお父さんが帰ってきた時にも「え、天使……ってか翼?」とデジャヴを感じるやり取りがあり、最終的に「我が家に娘が一人増えてめでたいなぁ!」と喜ぶお父さんの姿があったのは……別に語らなくて良いかな。
天使ってサブカルだと堕落してるイメージが強いのは気のせい……?