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第6話 学園一の頭脳に触れる

 二時間目が終わった後の休み時間、野田は作成したチラシを学校中にばら撒きつつ、野趣溢れる戦士の喧伝をして回った。


「我こそは『新月のパルクーラー』の消息を求むる者なり! 彼奴きゃつは哀れなるもゴートに覚醒し、憑りつかれし如くその身を幾たびも危機に晒す、新月の自害者に成り果てたり! 一刻も早く連絡を取り、その身に起きし異常の事態を取り除くべきである! 僅かにでも心当たりのある者は名乗りいでよ!」


 野田の見立てではこうだった。

 この新月のパルクーラーは、魔物に跳躍力を与えられている。……異能に目覚めたその人は跳躍力を試さずにいられず、闇夜に紛れてビルからビルへと飛び回っているが、魔物はタイミングを見計らってその異能を没収するつもりでいるのだろうと。


 ビルの屋上から上空に飛び出す直前に、跳躍力を奪う。

 するとパルクーラー自身はおろか、その落下地点を行き交う人々や車両にも()()をもたらし、一気に大勢の人間に危害をもたらすことが出来る。


 あくまで憶測の域を出ないが、魔物が人間に害する存在であることは確かだ。件のパルクーラーには一刻も早くコンタクトを取り、そして魔物を引き剥がしてやらねば最悪の事態に繋がるだろうことは、疑いの容れようのない事実だった。


 が、このような大胆な宣言活動を目の当たりにした一般的若者の反応としては、「なんだあの見た目からして危険そうな奴は。近寄らないに越したことはないな」だったし、何らの情報も集め得ないまま男性教師数名に取り押さえられ、野田はそのまま職員室に連行されてしまった。


「お前も色々大変なんだろうなってのは先生も分かるけどよ、でも三年生の階まで行くってのはやり過ぎだな。もう受験がそこまで差し迫ってる中、デカい声で練り歩くってのはいただけない」


 ジャージ姿の担任教諭は椅子に座って野田を見上げる。野田は手を後ろで組み両足を肩幅まで広げ、悠然と教師を見下ろしていた。


「それは申し訳ないことをした。直ちに謝らねばならないので俺はこれで失礼する。モタモタしていると三時間目が始まってしまうのでな」

「おー、敬語もそのうち覚えろよ」


 担任はヒラヒラと野田を送り出そうとするが、「ちょっと待て」とその背中を引き留める。


「進学の話ついでに思い出した。お前、ちょっと頑張らないと来年進級できないかもだぞ」

「なんだと。俺はそこまで馬鹿だったのか」

「まあ、9組って時点でそこまで高くないのは当たり前にしても、その中でも下の部類に入る成績だったからな。……大事故にあったんだ、俺が手ェ回して減免できる部分はあるにしても、お前自身が頑張らないとだぞってことだ」


 どんな志掲げてそのパルクーラーとやらを探しているのか知らんが、物事には優先順位があるって話だ。と担任教諭は締め括った。

 野田は職員室を出て、校内の全ての教室に騒動の詫びを入れに行き、三時間目の授業に途中参加しつつ、しばらく考え込んでいた。

 この学校の知的水準に適応するのはほぼ絶望的だし、さっさと転学先の高校でも探すべきか? 等々。


 野田は四時間目の体育の授業で指定の二倍の距離をマラソンし、着替え次第そのまま食堂に直行、着席し大盛り唐揚げ丼に舌鼓しようとしていた矢先だった。


「野田解人」


 と呼ぶ声があった。野田が箸を止めて振り向くと、そこには女子生徒が立っていた。

 左手はブレザーのポケットに突っ込み、右手には野田が撒いたチラシを持っている。9組の生徒ではない。

 ボロ布を頭からかぶったような髪型だな、と野田は思った。

 腰まで伸ばした黒髪が、長さがバラバラに切られていて不格好である。目つきは険しく目の下にはクマがあり、背丈は野田と同じ程度だった。


「……ああ、情報提供に来てくれたのか? それともクレームの方だろうか。その態度からするに後者の方だろうな」

「両方よ」


 女子生徒がチラシを裏返すと、そこには手書きの地図といくつかの文言が記載されていた。


「あなたが嗅ぎ回っているその人物が次に出没すると思われる場所と時間の予測。どこで待ち伏せしていれば合理的かも書き記しておいたから、参考にするといいわ」

「おお、それはありがたい。感謝する」


 野田は手を伸ばしたが、女子生徒は手首を返してチラシを遠ざける。

 野田が無言で女子生徒を睨むと、女子生徒は怯まず野田の額に軽く頭突きし、そのまま抑揚のない声で冷ややかに捲し立てた。


「都市伝説はミステリアスだから流行るの。件の人物は観測されこそすれ超人的跳躍力のトラックはまだ誰にも見破られておらず、だからこそ各々が独自の推論を立てたがるし、それを披露したがるから流行になるの。つまりあなたがこの人物を捕獲して正体を暴きさえすれば都市伝説は収束するに決まっているの。そしてあなたにはその義務があるの。あなたがこの噂を吹聴したのだから」

「もちろん、騒がせてしまったことは自覚しているしその責任は取るつもりだ」


 女子生徒は額を突き合わせたまましばらく野田のことを睨んでいたが、「そう」と切り上げ、チラシをテーブルの上に置いてその場を立ち去った。

 野田はその後ろ姿を視界から消えるまで見つめた後、唐揚げ丼を瞬く間に片付けて席を立ちあがった。

 富井を探さねば。

 今のところ、野田にマトモに相手をしてくれる人間は彼だけだった。

お読みいただきありがとうございます。


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