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第5話 新月のパルクーラー

 一時間目が終わって休み時間、野田の席に富井が立ち寄る。


「さっきから何書いてんの? 普通にノート取ってる感じじゃなかったよな」


 野田はノートの全ページをハサミで一気に力任せに裁断しつつ、「いかにも」と答える。

 切り離したうちの一枚を富井に渡す。


「『オカルト部を新設する。詳細は2年9組の野田解人まで』……なんだこれ」

「書いてある通りだ。俺は今日よりオカルト部を新設する。俺はもとより帰宅部だったらしいし問題なかろう」

「いや、問題大アリだろお前。生徒の独断で部がつくれるかって。大学じゃあるまいし」

「そういうものなのか?」

「そういうもんなの。ていうか、オカルト部なんか作ってどうしたいわけ? 友達が欲しいから? 既存の部活に入るじゃ駄目なんかそれは」

「貴様が話してくれたことに興味を持ったのだ。俺はゴートについて知りたい。だからオカルト部を立ち上げ、そこで情報を収集することにしたのだ」


 すなわち、高校生の身分が枷となって自由に情報収集が出来ないのなら、逆に高校という場を情報収集のために使おうという彼の作戦だった。

 戦士一辺倒で生きてきたアバドンから出た発想にしては、それはいくらか合理的な案だった。が、やはり常識的ではなかった。


「お前の目論見は分かったが、順番が逆だな。まずは適当な先生に掛け合って、正式に部を作ってもらうところからだ」と富井は真っ当なアドバイスを供する。


「予算とか部室の兼ね合いもあるから、そうすぐにとはいかないだろうけどな。まあ地道にやれや」

「予算も部室も、俺は別に欲していないのだが」

「それって部って言うのか? それこそサークルとかの方が近くね?」

「形式が問題ではないのだ。俺はゴートについての情報を集めたいだけなのだからな」


 富井はチラシと野田とを交互に見比べ、


「『新月のパルクーラー』って知ってる? 知らねえよな」と。


「知らん。なんだそれは」


 野田が聞き返すと、富井は得意げにニンマリと笑み、隣の椅子をかっぱらって野田に肩寄せ、スマホの画面を見せた。

 表示されているのは、全身を黒い布と面とで覆い、真夜中のビルの屋上で佇んでいる人影の画像だった。


「パルクールってのは知ってるよな? 街中の建造物をジャングルみたいに攻略していくアレのことだな。……が、こいつはそんな生温いもんじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()。しかも決まって真夜中だけにな。落ちたら即死の高度をビュンビュン飛び回る」

「新月の、ということは、新月の日にしかパルクールしないのか?」

「こいつが観測され始めたのは1年ほど前からで、観測回数は合計11回。そのいずれも新月の日とドンピシャかその附近だから、新月のパルクーラーってわけだ」

「そいつがゴートであるという根拠は?」

「跳躍距離が普通の人間じゃあり得ないのよ。ネット上で囁かれてる情報によれば、四車線分の距離が開いてるビル同士を飛び渡ったって証言もあるからな。そんなもん、ゴートにしか出来ないよな」


 期せずして野田は、ゴートならびに魔物に関する情報を得ることが出来た。

 それと同時に、一時間目を丸ごと潰して書き上げたオカルト部創立の号外が無駄だったという事実を叩きつけられ、若干の落ち込みをきたしていた。が、野田は「文字の練習が出来たと考えよう」、と切り替え、別のノートに違う文言を書き始めた。


「新生野田解人は、なんでゴートが気になるんだ?」と尋ねる富井。

「討伐対象のことを知っておきたいと思うのは当然だろう」

「は?」

「違う。舌を噛んだのだ」

「何を噛んだら討伐対象ってワードが出てくるんだよ。ハキハキ言ってただろうが」

「仕方ないだろうが事故で何もかも忘れたのだから。こうやって同じ国の言葉で喋れていること自体が奇跡なのだ。目くじらを立てるもんじゃあない」


 富井はなおも問い詰めようとしたが、後ろから友人に呼ばれ、渋々その場を去った。アバドンは内心安堵する。


 そして、新たなチラシ作りを再開した。

お読みいただきありがとうございます。


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