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第3話 復学の最中

 徒歩にて通学の最中、アバドンは、少なからず野田に憐憫の情を抱いていた。


 瀕死の重体を負ったにも拘らず、退院するその日まで誰も見舞いに来なかったこと、病院まで迎えに来た母親は「死ななくて良かったわね」と不愛想に投げかけるのみで、それ以降も拗ねた子供のように解人を無視し続けていたこと。……そうなるに至った経緯を知らぬアバドンは、ただ単純に解人の孤立を憐れんでいた。


 あっちの世界でのびのびと暮らしていればいいなと願うばかりだった。それが許されるだけの社会的地位や信用は築いてあるはずだった。


 信号待ち。


 野田の前を、赤色のオーブが通りがかり、野田はそれを両手で挟み潰す。

 傍から見てそこまで不自然に見えない魔物の倒し方として、一旦そのやり方が定着していた。両手を擦り合わせてそこに息を吹き込むようにすれば、「肌寒いのかな」と思われるだけで済む。


 自身が転生者であることや、魔物の討伐に宛てがわれた人材であるということは、極力悟られないようにすべきだというのが、神の見解だった。


「君が今からするべき仕事の中には、少なからずカウンセリング的な業務も含まれているからね。……他人から訝しまれるような奇行は避けておくのが吉だ。真人間を装えとまでは言わないけど、せめてこの世界の住人であるという設定は保つべきだね」

「別の世界から来た人間だと言ったら、コミュニケーションに支障が出るから?」

「そういうこと。中二病扱いされたりヤバイやつだと思われたりして、話を聞かれなくなっちゃうかもだからね」


 という塩梅で、アバドンは何の変哲もない男子高校生を演じていた。あくまで彼に可能な範囲で。


 信号が青に変わる。

 野田が一歩踏み出すと横合いから、


「お前、野田だよな?」と声をかける者がいる。


 相手は野田と同じく、濃紺色のブレザーを身に纏い、その上からトレンチコートを羽織った男子高校生だった。


「いかにもそうだが、誰だ貴様は」と野田は返事する。貴様呼ばわりである。


「へえ、記憶喪失ってマジだったんだ。……まあそうよな。見るからに大事故って感じだもんな。風格も全然違うし、こら別モンってやつだ」


 事実、野田は事故以前とは別人の様相を呈していた。

 クセで前髪を上で押さえているうちに毛穴が上向きになって自然とオールバックになっており、眼光鋭く眉毛は凛々しく、顔面にはただならぬ傷跡が右目の上から左顎まで刻まれており、肉付きがよくなって血行も良好。

 いかにも気弱な男子高校生は、危ない香りのする不良男児のそれに変わり果てていた。


「質問に答えろ。貴様は俺のなんだ。同級生か? クラスメイトなのか?」

「俺は富井俊介だよ。お前と同じクラス、2年9組」


 彼らの通う、私立晴天学園高等部は、各学年9クラスで40人のマンモス校だった。

 偏差値は75で都内屈指の学力を誇り、クラス分けは成績順に割り振られ、9組は最低成績の40名が集められるクラスだった。


「そうか。ではそのクラスメイトが俺に何の用がある? 担任からお使いでも命じられたのか、『記憶喪失の野田に学校の案内をしてやれ』とか」

「いや、別にそういうわけじゃない。ただ気になって声をかけただけ」

「見た目の話か?」

「お前さ、なんか()()みたいなものに目覚めたりしなかった?」

「……いや、別に何も。俺は普通の人間だ」


 魔物を認識でき、魔物を攻撃できるのはこの世界においてれっきとした異能である。

 野田は多くを語らない。ボロを出さないように。「なぜそんなことを?」と簡潔に問う。


「お前も知ってるだろ? ()()()。アレになったんじゃないかって思ってさ」

「俺がヤギに見えるのか、貴様は」

「違う違う。……本当になんも覚えてないんだな」


 富井は頭を振りつつ、呆れた眼差しを野田に向ける。


「ちょうど一年前からだな。……瀕死から復活した人間が、何らかの異能に目覚めるって事態が相次いで報告されてんだよ。人知を外れた能力っていうか、()()()()()()()


 野田のこめかみがピクリと反応するが、富井は鈍感にも呑気に続ける。


「Greater Over All Them、略してゴート。……お前もそれに目覚めてたりしてたら面白いなって、俺は声かけたんだよな」

お読みいただきありがとうございます。


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