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第18話 明くる日と書いて

 野田は帰宅してシャワーを浴びた後、十時間眠りこけた。時刻は正午過ぎ。

 肉体的な疲労はレベルアップで回復したものの、夕陽台美波の複雑な家庭の事情を叩きこまれた脳が悲鳴を上げていることは変わりなく、主には精神的療養のための熟睡であった。


 平日なのに誰にも起こされなかったな、と野田は起床してすぐベッドから出つつ思う。


 リビングに向かうと誰も居ない。父親は働きに出ているとして、母親もどこかに出かけているらしい。


 洗面台の前に立ち、歯磨きしつつ思う。

 これから何をすべきか考える。


「アルミラージは駆除するべきか?」


 否だ。この世界での奴の立ち回りは総合的に善である。奴の頑張りにより夕陽台は絶望し切らずに留まっている。殺すべきではない。


「夕陽台は救うべきか?」


 無論だ。虐げられる者を救済するのに理由など要らない。


「ではどう救うべきか?」


 根本的には、夕陽台の母親をどうにかするしかあるまい。

 何らかの手段でもって、夕陽台への態度を改めるよう仕向けるか、それとも物理的に距離を離させるか。転移魔法で地球の裏側に置き去りにしてやるとか。


「…………………………」


 あくまで夕陽台の諸問題を解決するためなら、暴力的解決でもって短絡的に決着をつけてもよかろう。

 が、事はそう単純ではない。


「夕陽台の母親を無考えに追い詰めるのは得策ではないのでは?」


 というのがある。

 彼女は明確に異常者である。娘への接し方からして、何かしら人格に歪みがあるとしか思えない。

 その彼女を追い詰めて、自殺未遂でもしたらどうなるだろうか? そこに魔物が入り込んだら? 歪んだ人格の持ち主が超人的な異能を手にしてしまったら?

 だから、


「夕陽台の母親をどうにかするためには、より慎重な計画と行動とが必要である」


 と考えるのが自然だった。

 現代社会を生きる人間の精神的機微を、針の穴に糸を通すごとく繊細に攻略していかなくてはならない。……しかし、


「そんなこと知るか。俺は戦士だぞ」


 と口内を水道水で漱ぎ、洗面台に吐き捨てるのがアバドンであった。

 俺は武の人間だ。人間同士の小難しく入り組んだ紛争の解決など、全く専門ではない。話の通じない魔物を言語道断で一刀両断するということしか俺には出来ぬ。


「だから、頭を使うのはお前自身でなくてはならないのだ。夕陽台よ」


 と、野田は夕陽台に告げる。

 五時間目が終わり、ひとり教室から出て移動しようと廊下を歩いている夕陽台の行く手を塞ぎ、野田は話しかけていた。


「……え、どういう」


 と当惑する夕陽台の手首を野田は掴み、そのまま引っ張っていった。


「ちょ、ちょっと! いきなりどこに連れていくの!」

「お前が現在抱えている諸問題を解決しに行くのだ」

「……放課後でもいいじゃない! 授業はまだ残ってるのに」

「その姿勢から改めるべきだ。物事には優先順位がある。お前はまず母親をどうにかせねばならない。学業は二の次だ」


 と、その背中を大声を出しつつ追い立てる者がいる。

 生活指導の教師である。午前中丸々を寝坊して来た野田に対しねちっこく説教していたのだが、野田に「邪魔だ」と押し退けられ逃げられ、このように野田を追いかけているのだった。


「やかましいぞアホが。……走るか」


 野田は夕陽台と手を繋いだまま、廊下を駆け出した。

 夕陽台は周囲の生徒から注目され、ヒソヒソと噂されて赤面しつつも、野田に引っ張られるままでいた。

 もう、ここまで来たらどうにでもなれと、腹を括っていた。


 追っ手をまき、誰の目も届かない場所で野田は転移魔法を唱え、二人は以前野田がレベル上げのために登頂した、あの山奥の展望台に転移した。

お読みいただきありがとうございます。


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