第17話 代替的存在
「なぜそう言い切れる? 出会ったばかりの人間との子を欲しがるなど」
「過去に前例があんだよ。そん時は中学三年生だかで、相手は同じ塾に通ってた大して仲良くもない男子生徒。……カラオケに連れ込んでヤろうとしたけど宥められて失敗。敗因は相手が賢かったことだな。お嬢と同じ塾に通ってただけあってな」
「破滅願望か?」
「……ま、そう考えるのが妥当なんだろうが、こればっかりはお嬢の口から聞いた方がいいやな。俺は別に、お嬢の過去をただイタズラに暴露したいってわけじゃないからな」
「じゃあ、なんのために?」
「説教だよ説教。俺はお前に忠告してやがんの」
アルミラージは野田の足を踏みつつ、
「お嬢に関わるならちゃんと気ィ張ってくれ。この人はあらゆる意味で不安定なんだ。……何かしら手ェ差し伸べてるつもりかもしれねえけど、生半可な気持ちなら端から関わらないでくれ」
と。
それからややあって、その場をお開きにする流れになったのだが、帰り際に一人と一匹はこのような会話を交わしていた。
「なんか、お嬢じゃなくて俺に聞いておきたいことがあるなら答えるぜ。そうそう話せる機会もないかもだしな」
「……そうだな。なら、まずその呼び方からだ。なぜ貴様は夕陽台のことをお嬢と呼ぶ?」
「慕ってるからだよ。俺はこの人に憑かせてもらったおかげで、知識とか理性とかを得られたんだからな。ニュアンス的には『先生』とかと一緒。ただお嬢にはお嬢がしっくりきやがるな。気品高い感じっつーの?」
「そうか。では、お前はなぜ眠くならないのだ? 肉体と魂との状態がリンクしていないのはなぜだ」
「いまお嬢の肉体は100%気絶してんだろ? で、お嬢の魂は100%気絶してんだろ? だから俺の魂は0%気絶してる。そういうことだろ、知らねえけど」
「そもそも貴様はどうやって夕陽台を気絶させたのだ? アレは貴様の仕業なのだよな」
「あのままほっといたらお嬢はお前とヤるつもりだったから、仕方なくな。……アレだよ、まずお前のデコに頭突きさせて一回目の脳震盪を起させた後、壁にもう一回頭突きさせたら気絶した。お嬢は学校と塾とパルクールとして心身ともに疲労困憊だったからな。零時もとっくに回ってるし、二回くらい頭ぶつけさせれば気絶からシームレスに熟睡したよ」
「お前はなぜ夕陽台の過去について詳しく知っているのだ。夕陽台自身と会話でもしたことはあるのか?」
「いや、俺はお嬢と会話したことはないよ。……まあ、俺みたいな存在ってこっちの世界で言うところの幽霊みたいなもんだろ? 実体が無くて霊魂だけってのはさ。……ただでさえメンタルが不安定でいらっしゃるお嬢に俺みたいなスピってる奴が話しかけようもんなら、発狂しかねないだろってな」
俺がお嬢の過去を知ってるのは、記憶を盗み見たからだよ、とアルミラージは答える。
「お嬢の魂から俺の魂に流れ込んできたのは、一般常識とか良識とか理性とか全部ひっくるめた記憶なんだよ。まあでも向こうは俺が兎の化け物だってことも知らなかったらしいし、そこは一方的みたいだな」
なるほど、と頷き、アバドンは最後の質問をした。
「なぜ俺は、屋上での決闘で貴様を圧倒できなかったのだろうか。姑息戦法で辛うじて詰ませるということしか出来なかったのだろうか。……お前は夕陽台が寝ている間に魔物狩りでもして、経験値を稼いでいたのか?」
「ンなことしてねえよ。……仮にしてたとしても、雑魚の俺がいくら努力しようと最強戦士サマには敵わないだろうぜ」
ただし、とアルミラージは続ける。
「お前と違ってこっちには魂が二つだ。俺とお嬢とでな。その物量的な差が物を言ってるのかもしれねえし、……あとは、お前が素手だからだろ」
戦士が魔物に徒手空拳で挑むか?
武器はちゃんと装備しないと効果がないだろうが、とアルミラージは付け加えた。
その後、野田はプレハブ小屋から転移魔法し、夕陽台と交戦したビルの屋上で木の枝を握り締めていた。
野田が木の枝を横薙ぎに振ると、その軌道上のオーブが弾けるだけでなく、軌道よりも外側のオーブに関しても手前側から奥側にかけて連鎖的に弾けていき、野田から10m前方のものまで届いていた。
左手の親指に違和感があり、絆創膏を剥がすと、もう爪が生え変わっていた。
レベルアップし、HPが全回復したためである。
生き残ったオーブは危険を察知して逃げ去り、周囲はガランとする。
痛みが失せたせいで再び猛威を奮いつつある眠気の最中、野田は自室を思い浮かべつつ転移魔法を唱えた。
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