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その8 バステト女神の眷属猫、グレース誕生

 結局宰相コンフリーは、バージルにエルフ国の王女の亡骸の捜索を依頼した。


本来なら騎士団から捜索隊を出すところだが、王女の亡骸は錬金術の精製に利用される稀少な素材となる為、秘密裏な動きが必要となる。粉砕すれば稀少な金属全般の代わりとなり、そのままでも超回復薬、媒体として様々な薬の薬効を飛躍的に増強するのだ。おまけに王族の血をひくエルフは腐敗することがなく、亡くなったままの美しい姿なので、鑑賞用にも需要があるらしい。エルフの美貌は人間を凌駕しているから、愛好家もいるのだそう。



数十年前、それが目的でエルフが拐われた事件が起こり、地震の力を司るエルフ達に小国1つが倒壊させられたことがあった。


だが悪徳を気取る錬金術師は高位貴族が囲っており、願いを叶える為には形振り構わないと言う。大金と引き替えに人をも殺すと噂されていた。


ソレル・アルカネット侯爵は、隠すこともない程に研究に入れ込んでいる。さすがに非人道的なことをしているとは言わないが、グレーゾーンなのは間違いない。但しなまじっか権力を持っており、ソレルの息子ルバーブも強い炎の魔法を操り剣術にも精通している為、なかなか諌められない現状である。


そしていつも何か企んでいるような、ソレルの胡散臭い微笑みは、国王リンデンも宰相コンフリーも苦手にしていた。(ソレル)に忖度しないのは、前侯爵であるバージルくらいであった。


基本空気を読まない勇往邁進であるバージルは、余計なことに興味がなく、もっぱら魔法と猫に夢中な男だった。それもどうかと思うが、学生時代から努力をしないで掠めとる貴族を嫌っていて、平民虐めをする者には無言で思いっきり転ばせる術を繰り出していた。無詠唱なので証拠はないが、その素晴らしい手腕は彼の他にはおらず、虐めた側は文句を言えず、助けられた者も表だってお礼を言えないので、心でお礼を言っていたそう。


正義を気取らないが、信念に反する者には向かう気概があるので、同僚には頼られていた。それこそ新人の時からだ。良い方のジャイ◯ンだ。



そんなジャイ◯ンじゃなくて、バージルは一度断った。「家事で忙しいから、無理!」と言って。


だがコンフリーは粘った。

「もし亡骸がソレルに渡ったら、亡骸は隠蔽されるだろうし、絶対碌でもないことに使うぞ。最悪不老長寿の薬は無理でも、ゾンビとか作るぞ。あいつはそういう奴だよ。ねえ、頼むよ。探してよ。頼むからさぁ!!!」


(ウザいな、全く。でもゾンビはダメだな。もし奴が猫の死体でも使ったら、ムカついて即死させてしまうかもしれん)


バージルは男爵家に乗り込んで来たコンフリーに眉をしかめていたが、まあソレルは研究に躊躇しないから、エルフなんか手に入れたら後で面倒臭くなりそうだと思い、依頼を受けることにした。



◇◇◇

そんなこんなで、エルフ国にあった王女と連動している守り石の欠片を渡されたバージル。朝の散歩の最中にポケットに石を入れて歩いていたら、マーリンの声が聞こえるではないか。


「止めてください! 誰か助けてー!!!」


悲鳴の先に居たのは、マーリンと借金を取りに来ていた人買いのタラゴンだった。彼女の周りにはバージルが保護した子猫と子猫の使い魔もいた。子猫達はマーリンのピンチに、彼女を守ろうとして果敢に噛みつこうとしていた。だが非力な子猫は、タラゴンに蹴飛ばされていた。



「クソ猫が。死ねや!」



そしてバージルはキレた。基本、結界の維持(バリヤー)と魔道具を仕事にしてきた彼だが、その本質は雷使いである。あまりにも大量の魔力を消費し強大過ぎて使い勝手が悪いので、使うことが殆どなかったのだ。


神経を研ぎ澄ましたバージルは、子猫とマーリンに当たらないように気を練りあげ、一点に集中させた。



「俺の雷は治癒魔法も効きづらいそうだ。治るまで己の所業を悔やむと良い。

サンダーボルト(黄金の雷)!!!」


バージルが低い声で呪文を唱える。無詠唱よりも効果が高くなるように、声を出しての詠唱だった。


すると、タラゴンの股間に向けて上空から真っ直ぐに雷が落ちた。


「ぎゃあーー!!! 雷が、俺の俺に! うぎゃあぁぁぁ」


壮絶な叫び声をあげて、直後気絶したタラゴン。武士の情けで警らに伝えに行くバージル。一部を掠めただけなので、死にはしないそう。たぶんそれも計算している筈だ。面倒臭いの嫌いだから、バージル。


そしてバージルにお礼を言うマーリン。

「ありがとうございます、バージル。怖かったよぉ」


先ほどまで張りつめていた気持ちが緩み、涙が出て彼にしがみついた彼女。今日は母親のグレースの命日なので、お墓参りをしに来たらしい。きっとタラゴンはずっとマーリンを見張っていて、1人になるのを待っていたのだろう。借金は返したのに、厚かましい男だ。今後はマーリンを1人に出来ないと思ったバージル。


ふと見ると、付いてきていると思った子猫が一匹足りない。使い魔の子猫がいないのだ。


周囲を探しながら先ほどの場所まで向かうと、お墓の前にその子がいた。


「わぁ、良かった。探したんだよ」

「ごめんね、私何にも出来なくて。噛んでも全然ダメージをあたえられなくて。せっかく使い魔のになったのに、悔しくて………」


情けなくて動けなかったと言う使い魔の子猫。


「その気持ちだけで嬉しいよ。ありがとうね」

そう言ってマーリンは、使い魔の子猫を抱き抱えた。子猫はマーリンを守る為に使い魔になった訳じゃないのに、大好きな人を守れなかったと落ち込んでいたのだ。


バージルは既に、感動して涙が出ていた。

ハンカチを出そうとして、ポケットから石が転がり落ちた。

「あ、石が!」

国王からの預かり物なのに、まったく大事に扱わない。本人から言わせれば、 “別に石だし”である。


それがグレースの墓に転がり、眩く光出した。


「まさか。お嬢様の母親が、エルフだったのか? お嬢様は知っていたのか」


首を激しく横に振り、知らないと伝えるマーリン。

「お母さんは人間よ。そう思ってたけど…………」


「マーリンや。エルフの国からエルフの亡骸を引き取りたいと連絡が来ていたんだ。王族エルフの体は朽ちないので、エルフ国の静謐な場所で永遠に保管されるらしい。この光る石はエルフの守り石らしく、ここにあるグレースが残して来た石と体は連動しているらしい。だからエルフだとハッキリ分かる。

お嬢様の母親はエルフの王女で900才を超え、息子が国王をしているそうだ。寂しいだろうが体はエルフの国に渡そう。エルフの体は錬金術の素材されて、高値で売られているらしいからここでは危険だ」



たくさんの事実が受け入れられず、バージルの声が遠くに聞こえた。


「そもそもお嬢様。普通は使い魔の姿は見えないんだぞ。魔力が多いか精霊や使い魔への感度が高くないと。よく見たらお嬢様、魔力があるぞ。今まで注視しなかったから気づかなかったけど。自衛の為に磨いてみるか?」



更に何か言われてるが、聞いてなくて空返事をしてしまった。


「うん。そうね……」

「ヨシ! やる気だな、お嬢様。私も久しぶりに頑張るぞ!」

「え、え、何?」


そんな叫びも虚しく、明日からの魔法特訓が(バージルの中で)決定していた。



そこに子猫の使い魔が無力である辛さを嘆き、マーリンが母の体と離れたくない気持ちが融合した。


次の瞬間、再びお墓が光り土が動き出した。そして使い魔の子猫が大人の猫になった姿で、土の中から現れた。


「ご主人様、見て! 強くなりたいと思ったら、エルフの体に私が引っ張られて実体になれたの。魔法も使えるみたい。見てみて。えいっ」


そんな子猫いや、もう成人くらいの猫は、口から炎を吐いた。


「「えっ、えーー!!!」」


「嘘! バージル、どうなってるの?」

「私にも分かりません。お嬢様、確認なのですが、オレット男爵(父親)は精霊の加護があったか? そうであれば、お嬢様と使い魔の猫の気持ちがシンクロした可能性がある。だって鑑定してみたら、使い魔の猫にバステト女神の眷属と出ているからな」


「神様の眷属? 神の使いってこと? 嘘でしょ?」

「私とて始めてのことだ。猫に聞いてみるか?」


そして驚く2人に、使い魔?神の使い?の猫に尋ねてみた。


すると少し悩んだ後に、答える猫。

「う~んと、私もよく分からないけど、マーリンを守ってねって、女の人が言ってた。名前はグレースさんだって。

そして人間界に1人残されるマーリンが可哀想だからって、猫の神様も私に加護をくれるから守るように言われたの。私の成仏はマーリンの死後にですって。

そしてマーリンをよろしくって、グレースは天に昇って行ったの」


「う~ん、えー!!! バステト女神がいたのか?」

「お母さんがここにいたの? 嘘っ」


きっと心配で、マーリンのことを見守っていたのだろう。でも何も出来ない自分に代わり、体と引き替えに守りを持たせることにしたのだろう。そしてそれを可能にしたのが、バージルが信仰するするバステト女神だった。複雑にいろんな事が結ぶついた気がする。



まあ、悩んでも分からないことは分からない。

聞かれても、答えられない。


「うん、まあ。帰るか。神の使いの名前はグレースで良いか? 体が本人の素材だし」


「私は良いよ。名前が欲しかったし。マーリンも良い?」


「うん、良いよ。……あとね、時々お母さんって呼んでも良い?」


「勿論良いよ。ドンと来いよ」

「うわ~ん。ありがとう、お母さん。私も頑張るからね」



泣きながらグレースを抱きしめるマーリンを、良かったなと呟き頬が緩むバージル。だが、依頼されていた体がなくなり、どうしたもんかな?と少し考えた。

でもすぐに、「まあ仕方ない。そのまま報告するか」と、考える事を放棄していた。



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